第二十八話『罠』
暗闇の中にたたずむ陰。央華学園高等部の制服を身にまとった三つの姿。男が二人、女が一人。
「うふふ……。主賓が罠に掛かったみたいね?」
「仕込みには苦労しましたからね。うまくいってもらわねば困りますよ」
笑みを浮かべる女に、男の一人がメガネのブリッジを押さえながら応じた。
そして、今ひとりが口を開いた。
「今はまだ、大っぴらに動くことは出来ん。だが、この段階で巫女を押さえられれば暁光だ」
三人の視線の先には、ひばりとアキの戦う姿。
そして、輝く金糸を翻す少女、綾香の姿。
「いまのところイレギュラーは、この金髪ちゃんの存在ね? 大丈夫なのかしら?」
「愚問です。この私が仕掛けたのですからね」
女の言葉に、メガネの男が尊大な調子で答えた。
それに対して女の目が鋭く細まった。
「……どうかしらね? プライドばかり高いは虫類は詰めが甘いし」
「……女ぎつねが。調子に乗らないでもらおうか……」
メガネの男の周囲に黒雲がたゆたいはじめ、女の周囲を炎が疾しりはじめた。
二つの大きな力が膨らみ、それが触れ合って火花が散った。
と、その間にヒラリと花のような結晶が舞い落ちた。
それを見た女とメガネの男がギクリとなる。ついで吹き抜けた圧倒的な冷気に黒雲も炎も消し飛ばされた。
「……そこまでだ」
響くは冷徹な声。
その声に圧倒され、ふたりのこめかみを、汗がひとすじ伝い走った。
「今の我らに仲違いをする余裕など無い。この央華の地を手に入れ霊地と成す。出来なければ我ら闇の者どもは早々にひとの作った光によって寄る辺を失うだろう。そうならぬ為の計画だ」
その言葉にメガネの男と女は居住まいを正し、頭を垂れた。
「……ですが、穏健派が入り込んできているとの情報もあります」
「加えて、狩り士も増員されたようね」
「……穏健派も狩り士も表立って動くは不可能だろう。今は捨て置け」
「御意に」
「わかりました」
返事とともに、メガネの男と女の姿が闇に溶けるように消えた。
「さて……次代の巫女の力。どの程度のものか、見せてもらうとしよう」
「どうなってるんだっ?! 翔華!? これはお前の仕込みかっ?!」
「違うわよっ!! 今、調べてんだから黙ってなさいよ!!」
モニター上で展開される戦いを見て、滝川は声を上げた。その隣では、翔華がなかなか見せない真剣な様子で八枚の投影型キーボードを操作していた。
本来なら、ファミリアの内部に入った場合、マスター権限を持つ人間と、その同行者はファミリアのコアデータ格納領域へ飛ぶようになっている。
それ以外の人間が侵入した場合は、回線が遮断され外に放り出される仕組みだ。
なによりこんな形で隔離してプロテクションモンスターに襲わせる必要は無い。
三人が隔離領域に囚われた時点で翔華は行動を開始していたのだが。
「くっ、堅いわねこのプログラム……」
普段、自信満々な表情しか見せない彼女が眉根を寄せて焦った様子だ。
それが滝川の不安を加速させる。
「大丈夫なのか?」
「ちょっと黙ってて……」
滝川に応える翔華の口元が、つり上がった。
「……今、楽しくなってきたところだから♪」




