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第二十六話『仮想なる世界』


「ふへぇ〜」

「すごいねぇ」

 草原地帯を抜けて少し移動するだけでも、綾香とひばりの声があがり、完全におのぼりさん状態だ。

 ふたりが感じる光景は、見れば見るほど、聞けば聞くほど現実と遜色無いリアリティにあふれていた。

「映像としてだけじゃあなくて、五感にも訴えかけるからこそのリアリティか」

 つぶやく綾香の隣でひばりが周囲を見回す。

「うん。木の枝が風に揺れて葉を揺らす音まで聞こえるよ。でも、何でこんなにリアルにするんだろう?」

「だよなあ。なんかゲームかなんかやってる気分だ」

 首を傾げるひばりに綾香が軽くうなずいた。

 そんなふたりの様子に、アキが苦笑いを浮かべる。

「……まあ、開発者曰く、遊びの要素がないと、自分がつまらないからだそうですよ?」

 そんなアキの答えに、戸惑うように顔を見合わせる二人。

 それを見て、アキは再び小さく笑った。

「今回は、ファミリアの内部へ行くだけですから、大した事はありませんよ。実習用のサーバーや学園外のサーバーを移動するときのほうがよっぽど大変です」

 言いながら進んでいくと、異様に目立つ大樹にたどり着いた。

「これが風華さんの内部データへと続く扉です」

 そう言って手をかざすと、大樹の表面に扉のようなものが現れた。

 綾香とひばりが軽く驚きの声を上げ、アキがそちらを見た。

「マスター権限を持つひばりさんがおられますからすんなりいけそうですね。ひばりさん、扉に手を着いて開けてください」

「う、うん……」

 アキに促され、ひばりはおっかなびっくり前に出ると、扉に手を着いた。

 すると、即座にウインドウが開き、認証を開始した。

 その様子を眺めていた綾香は、ふと何事かを思いついたような顔になり、アキの方へとその蒼い眼差しを向けた。

「なあなあ、マスター権限の無い奴が認証しようとしたらどうなるんだ?」

「……あの扉が怪物に変異して襲ってきますね」

 さらりと答えるアキに、綾香の眉根が寄った。

「襲ってって攻撃されるって事か?」


「はい。リンクネットにアクセスした人間は必ず感覚変換により、ネット内を五感で知覚できます。これによって直感的、あるいは曖昧な作業をスムーズに行えるんですが、感覚変換した人間でなければリンクネット上の情報を読みとるのは、まず不可能なんです。そして、感覚変換には、少なからずアクセスした人間に負荷がかかります。もちろん人体に影響が出ないように様々に対策を講じていますけどね。しかし、負荷が人体にとって無視できないほど強くて大きなものになった場合、強制的にアクセスを遮断し、リンクネットから放り出せるんです」

「つまり、攻撃によって安全装置を作動させて侵入者をおっぱらう訳か。ずいぶん過激だな」

 アキの説明を受けて、綾香が顔をしかめた。

「そうですね。ですが、おかげでクラッカーの撃退率は信じられないほど高いですよ」

 アキがそう言ったところで認証が終わり、扉が開いた。




「なるほど、ふたりとも逸材ね」

 モニターを覗いていた翔華がつぶやく。

 オペレーター席の滝川も、にらむようにモニター上のデータを見ていた。

「支倉ひばり、感覚変換効率96.48ポイント。同調率97.43ポイント。夏目綾香、感覚変換効率98.21ポイント。同調率91.04ポイントか。特に支倉は高すぎなほどだな」

「リミッターがかかってるから79.99ポイント以上にならないとはいえ、これは一回はノーリミッターでやらせてみたいわね?」

 滝川のつぶやきに、翔華が研究者の顔で笑った。

 それを横目で見た彼は、その顔に強い嫌悪を滲ませる。

 と、翔華が滝川の方へと顔を向け、子供のように笑って見せた。

「冗談よ、総司♪ さすがのあたしもあんな目に遭った子を増やしたくはないわ」

 滝川の肩に置かれていた翔華の手に力が入った。

 と、それを大きな手のひらが包み込んだ。

 翔華は一瞬だけ驚いたような顔になったが、ほんのりと朱に染まった顔をほころばせた。

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