第二十四話『set up』
それは、なにもない空間だった。
ただひたすらに、白い空間が広がり、その場にただひとり、立ち尽くすひばりと綾香。
「あれ? 他の人は?」
その空間に自分一人であることに気づくひばり。
そこに声が響く。
『支倉、大丈夫か?』
耳元に聞こえてきたのは滝川教諭の声だ。
「は、はい。なんだか白い空間に出ちゃったみたいなんですけど……」
『ああ、本来ならおまえのファミリアが説明するところなんだが、今回はそうもいかないからな。おまえが今いるのは、【スターティングデッキ】と呼ばれるスペースだ。リンクネットに接続する前、お前さんの“TaC”の中だと思ってくれ』
淡々と説明する滝川の言葉をひばりは聞き逃さないように気をつける。
「なるほどな。ここでネット上に出発する準備をするのか」
『そうだぜマスター』
一方で綾香もセレーナに説明を受けていた。
「で、どうすれば良いんだ?」
腕を組み、改めて訊ねる綾香。
その姿は、彼女特有の金髪碧眼に加えて白磁の陶器のごとき白い肌の裸身。つまり、全裸である。
本来ダイブ前に行う初期設定をしていない状態でダイブしたため、初期装備設定が無い故だ。
とはいえ慌てるでもなく堂々としているあたりは彼女らしくはある。ちなみに後から気づいたひばりは悲鳴を上げた。
それはともかくとして、セレーナが解説を始めた。
『まずは初期設定だな。外装とコアデータ防壁を兼ねた防御装備プログラムを呼び出してセットするんだ。リストはこれな』
セレーナの言葉に続いて、綾香の目の前にリストが現れた。
『ただ今回は急ぎだから、スタンダードタイプの装備を選んでおいて欲しいってさ』
「わかった」
セレーナに言われてうなずいた綾香が、指でリストに触れると、裸身が瞬時に衣服をつけた状態になる。そしてリストを指でなぞると、彼女がまとう衣装が次々に入れ替わり、最後に央華学園指定の制服姿になった。
「これでOKか?」
『おう。防御性能は並だけど、研究室内だから問題ないと思うぞ? 次にツールな』
セレーナが言うと、また新たなリストが現れた。
『オプション系はともかく、メインツールは使いやすいのを選んでくれ』
「って言われてもなあ」
ぼやきながら頭を掻きつつリストにあるツールの名前に触れる。
すると浮かび上がってきたのは片手持ちの長剣だ。
「……」
それを見た綾香の目が半眼になった。
「……なんで、剣?」
『正確には剣の形をしたチューニングツールだな。ほかにもレーザーソードやヒートブレイド、マシンガンなんかもある』
セレーナが言うとリストが流れ、剣が様々な武器に変わっていく。
「いや、そーじゃなくてさ」
『……開発者の理事長の意向なんだってさ。バグやウィルス、ワームをその剣でぶった切れば消去できるんだ』
「…………まんまゲームかよ」
少し顔を引きつらせながらつぶやく。さすがの綾香もあの理事長がここまでの人間とは思わなかったようである。
『そればっかりじゃあないけどな。まあ外装はともかく、接近するタイプは威力が高いけど、ウィルスなんかの攻撃を受けやすい。長距離タイプは当てるのが難しいなんていろいろあるんだけど……』
どうする? と訊ねてくるセレーナに綾香は黙考した。
「……ツールはひとつしか持てないのか?」
『その辺りは“TaC”の性能に、ファミリアの制御能力。チューナーの技量によりけりだな。まあ基本的には手に持って使うから、両手にひとつずつくらいかな?』
セレーナがそう答えるが、リストを見る限りでは、背負い式やら、浮遊砲台やらがあるのがわかる。
もっとも、どれも綾香の制御能力では使えそうにないらしい。
結局、綾香は片手半持ちのロングソードに、ガントレットをチョイスした。
これがどこまで役に立つのかはまだわからないが、扱いやすそうなものを選んだ結果だ。
「ま、なるようになるだろ」
気楽な調子で言った綾香は、剣を担いで立つ。
『んじゃ、用意が出来たところで、行くとしようぜ♪』
セレーナが言うと、綾香の目の前に、巨大な銀色の扉が現れた。
それを見た綾香は不敵に笑うと、一歩踏み出した。




