第一九九話『突入』
「……力を貸してくれるの? 白虎」
「……蒼龍」
互いにその身に宿りし霊獣に語り掛けるクリスと辰美。霊獣は答えない。だが、彼女らを肯定する意志は感じられた。
そして、二人の足元に白と青の魔法陣が広がった。
「これは……」
「……」
クリスは戸惑うように、辰美は落ち着いてそれを見た。
「おちついて? ウエストロードさん。魔法陣にその身を委ねてしまってください」
「わかった……よん」
辰美の指示におとなしく従うクリス。こういった事は辰美の方が手慣れていると判断した故だ。
魔法陣が光輝き、その光がクリスと辰美を覆う。
次の瞬間。光が弾けて消えると、二人の姿は変わっていた。
クリスは大きな白い翼に白銀の鎧甲冑姿。辰美は両肩に大型の腕を装備し、スカートのような青い装甲の鎧姿。そう、細部に若干の変化が見られるが二人のアバターの姿だ。
それぞれの違いは、辰美の方は装甲が青い鱗状で両肩のクリスタルパーツが、球状になっていた。そしてクリスは。
「……髪が。アバターの方も短くしたのに」
腰まで伸びた美しいサラサラのブロンドヘアー。そして、武装のスピアライフルが中華風で先端が虎の頭になったロッド状になっていた。その虎の口が、砲口になっているようだ。
「……なんだか複雑な気分だよん。昔と決別する意味も込めて切ったからねい」
「でも、似合ってますよ」
複雑そうなクリスに、辰美が笑って言うと、クリスは苦笑いを浮かべた。
「……ありがと。さ、ヤるわよ? たぶん今のあたしじゃあせいぜい穴を開ける程度しかできない。だから……」
「……ボクが中へ突入して、結界の要を破壊すれば良いんですね?」
辰美の答えにクリスがうなずいた。
「……専門の術士じゃあないあたし達じゃ、この結界を術式で解除するのは難し過ぎるからね。じゃあ始めるわよ?」
言いながらクリスはライフルを片手持ちするようにロッドを構えた。
「我、祈り願わん。我が前に立ちはだかる障害を切り拓く力を!」
言霊を紡ぐと、ロッドの虎頭が吠えた。
そのとたん。
「……く」
まるで全身から力を吸い取られるように四肢に力が入らなくなった。それを必死で踏ん張ってみせる。
「ウエストロードさん!」
突然フラつき始めたクリスに、辰美が声を上げた。
「大丈夫。いくわ!」
辰美に答え、クリスはトリガーを引いた。
刹那、ロッドの虎頭が再び吠え、弾丸が撃ち出された。
それは、白き虎の走る幻影を纏って飛翔し、『ゴーストホスピタル』に激突する!
『我、西道を走る白き虎哉。我が前に敵は無く、ただ生涯を切り拓き、我が後ろに道を造らん!』
そんな声が聞こえ、建物の正面玄関が弾け飛んだ。
「行って! 辰美!」
「はい!」
クリスの声に、辰美は走り出して建物に飛び込んだ。
その直後に、弾け飛んだはずの扉が元に戻り、閉まりゆく。
しかし、クリスは疲労困憊でそれを見ることしかできなかった。
「……非契約状態じゃ寿命が縮むって話しだけど、どの位……縮む……のかしら……ね……」
つぶやきながら意識を失い倒れてしまうクリス。そして、その姿が元の姿へと戻っていった。