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第一九三話『予言』

「だああぁぁあっ?!」

「うわわわわぁっ?!」

 顔の無い牛巨人に追われ、綾香と和也は必死で走った。巨人にとってこの通路は若干狭く、彼(?)が走るには向かない地形なのが幸いし、速度差で追いつかれることは無さそうだが、ふたりの体力が尽きればどうなるかわからない。

「つか、いつまで続くんだよ! この通路は!」

「わかりませんよっ!」

 走りながら言う綾香に、和也が律儀に答えた。二人が走る『ゴーストホスピタル』の通路はどれだけ走っても突き当たることは無さそうだった。




「くぅっ!?」

 飛びかかってくる蜘蛛を蹴り落とし、まるで硬質のゴムタイヤを蹴ったような感触に、鷹久は顔をしかめた。

 すでに数回、殴る蹴るなどしているが、ダメージを負ったようには見えない。逆に鷹久の方が拳に痛みを感ずるほどだ。

「鷹久さん!」

 シモーヌの声に、顔を上げると、蹴り落とされた蜘蛛がすぐさま体勢を整えて、鷹久に向かって跳躍したところだった。

「!」

 それをすんでのところでかわして鷹久は身構えた。

 攻撃を空かされた蜘蛛は、そのまま着地をすると、人の指のような足をわしゃわしゃと動かし、ながら反転し、鷹久等に向き直った。

 対峙する鷹久と蜘蛛。その視線が交錯した。




「やっぱり見あたらないねえ」

 同じ頃、『ゴーストホスピタル』の外では、軽薄そうな少年、青島洋介が周囲を見渡して息を吐いた。

「“TaC”も繋がらない。みんなどこに行ったんだ?」

 こちらは赤い髪をツンツンに立たせた少年沢井秋人。

 こちらは頭を掻きながら“TaC”の画面を確認している。

 “TaC”の個人通話機能を使っているのだが、目当ての人物に繋がらないらしい。

「やっぱりここかねい」

 そんな二人の様子に、サラサラの金髪をボブカットにした少女、クリスティーナ・ウエストロードが眉根を寄せながら『ゴーストホスピタル』の建物を見上げた。すると、建物の方から声がかかった。

「……ダメだよウエストロードさん。鍵がかかってるみたい」

 そちらの方からやってくるのは、コゲ茶色の髪をサイドテールに結った少女東野辰美だ。

 その瞳には、友誼を結んだ者達を心配する憂いの色を浮かべていた。

「……やっぱり、何かあったのかな?」

「……」

 心配そうに訊ねる辰美に、クリスは答えない。いや、答えることが出来ずにいた。

「……まさかこうなるとはね……」

 後悔の色濃いつぶやきは、己にしか聞こえぬほど。

「ウエストロードさん?」

 しかし、聞こえずとも察した辰美が訝しげにクリスを見る。

「……予言はあったのよ。ここでこういう事があるかもしれないってね」

「!」

 クリスの言葉に辰美が目を見開いた。

「ならなんで?!」

「落ち着いて蒼龍」

 激高し掛けた辰美はしかし、影名かげなで呼ばれて口をつぐんだ。秋人と洋介はまだ気付いていない。

 それを確認して、クリスは声を潜めながら話し始めた。

「……今日、この地で鷹の少年と黄金の大地の少女が死ぬそうよ」

「……それって!」

「……吉田鷹久とシモーヌ・ブリギッタのふたり。そして太陽の乙女は悲しみに沈み、夜の王たる少年は堕ち、翼の少女は絶望する。太陽の乙女は夏目綾香。夜の王は斉藤和也。翼の少女は……おそらく支倉ひばり」

「じゃあこのイベントを止めさせれば!」

 辰美が声を荒げるが、クリスは苦しそうに首を振った。

「その場合は、翼の少女が闇の巫女とならんって出たそうよ」

「そんな……」

 辰美は愕然となった。それはつまり支倉ひばりという少女が世界を絶望に沈めるということだ。

「……それを全部ひっくり返すのに必要なのは、蒼龍と白虎。そして、影を狩る少年」

「……え?」

 クリスの言葉に、辰美は呆けた。

「ほんとはフラウにも来て欲しかったんだけどね……」

 そうつぶやいて、クリスは苦笑する。

「……む、無理ですよ! 蒼龍継承の儀は確かにやりましたけど、ボクにはまだ蒼龍の声なんか……」

「……それは私も同じよ。“元”白虎候補に過ぎないクリスティーナ・ウエストロードもね」

 自嘲気味に笑いながら言うクリスに、辰美は悲しそうに目を伏せた。

「……どちらにしても、私たちしかやる人間がいないんだから、やるしかないわよ? 蒼龍」

「わかったよ。けど、無茶は無しだよ? 白虎」

 互いに影名を呼び合って笑い合う二人。それからクリスは、洋介と秋人の方へと目を向けた。

「さて、それじゃあ、あおっちとしゅーとんには別のところを探してきてもらおうかねい♪」

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