第十九話『Vの申し子』
「先生、風華は大丈夫なんですか?」
「……すまん。俺からは何とも言えん」
ひばりの問いに、滝川教諭は隠さず伝える。妙な希望を持たせるよりは。というのが彼の持論である。
「確かに現状ではなんとも言えませんね。全体をスキャンして調査すれば何かわかるかもしれません」
突然声をかけてきたのは、ひばりを挟んで、滝川の反対側を歩く長い黒髪の少女、アキだ。
なぜ彼女が同道しているのか? ひばりには分からない。
しかし、アキが滝川教諭と専門用語を交えて言葉をかわしているのを見て、頼もしく思った。
「うん。ありがとね来島さん」
アキの言葉に、自身を元気づけるものを感じたひばりは、笑顔になって彼女にお礼を言った。
するとアキは、少しだけ呆気にとられたようになり、視線を逸らした。
「いえ別に……」
そんな彼女の様子に、ひばりは気分を害したのだろうか? と、首を傾げた。
『んにゃ? 照れてんだよコイツは』
不意に聞こえた声に驚くひばり。すると、アキの肩口の辺りに銀色のディスクが出現した。そこから癖のある黒髪を肩の辺りで切りそろえ、白衣を着たファミリアが姿を現し、アキの肩に腰を下ろすと、ニカッと笑いながらひばりに右手を上げて見せた。
『いよっ♪ アタシはカヲル。アキのファミリアをやってる。よろしくな支倉さん』
「こ、こちらこそよろしく……。え、えと、カヲルさん」
流暢に挨拶をされて目を丸くするひばり。
風華の表情の硬さやしぐさのぎこちなさに比べると、ほとんど生きてる人間を相手にしているようだ。
ひばりが挨拶を返すと、カヲルは破顔して見せた。
『ああ。んでだ。アキの奴は人付き合いが苦手でな。支倉にお礼を言われて照れてんだよ』
「ど、どどどうしてバラすんですかっ?! カヲルさん!?」
笑いながら言うカヲルに、アキがあわてたように声を上げた。
するとカヲルがヤレヤレとばかりに肩をすくめた。
『アキ、お前もそろそろまともな友達作りな? 恋愛のひとつもしないで研究とゲームで青春を灰色に塗りつぶす気か?』
「れ、れれれ、恋愛なんて興味ないですっ?! わたしには“V-ウォーズ”と、ゲームとリンクネット研究の仕事さえあれば……」
「ぷふっ」
つらつらと苦言を述べるカヲルに、アキは必死で抗弁するが、内容は何とも青春とは言いがたいものだった。
そんな二人の様子に、ひばりはまるで姉妹のようなやりとりを感じて、小さく吹き出してしまった。
それを聞きつけてか、アキとカヲルがそろって顔を向けてきた。
そんな二人に気づいて、ひばりはすこしあわてた。
「あ、ごめんなさい。えと、なんていうか、来島さんとカヲルさんが姉妹みたいに見えてしまって……」
軽く苦笑い気味に言うひばり。それを見てカヲルはうれしそうになり、アキは困ったように眉根を寄せて目を逸らした。
そんな彼女らを見て笑顔になったひばりは、自らの相棒に優しく目を向けた。
「いつか、あたしも風華とそんな風になれるのかな? って思って……」
『?』
そんなひばりを、風華は不思議そうに見上げながら首を傾げた。
それを見て、アキが優しげに小さく笑った。
「……なれますよ。きっと」
『ああ。ファミリアの成長は人間とのかかわり合いが主だからな。時間をかければなれるさ』
そう言って、カヲルも笑った。
それを見たひばりは、二人の笑顔が重なって見えた。
容姿や言動も性格もまるで異なるアキとカヲルだが、その笑った顔はそっくりだった。
その事実に気づいたひばりはうれしくなった。
「うん、改めてよろしくね来島さん♪」
そう言って、ひばりは右手を差し出した。
それを見たアキは、一瞬呆気にとられて立ち止まってしまう。
が、おずおずとその手を取った。
「……ア、アキで良いですよ。支倉さん」
「うん♪ あたしの事も、ひばりで良いよ? アキちゃん」
目の下に隈が張り付いた眠そうな顔を赤らめながら言うアキに、ひばりは笑顔で応えた。
その言葉に、アキが小さく笑った。
と、ふたりの握手に白い手が覆い被さった。
「じゃあ、あたしの事も綾香って呼んでくれよ☆ アキ♪」
そんな言葉とともに、黄金の輝きと、太陽のような笑顔が現れた。




