第一八六話『シモーヌの真実2』
「……鷹久さんは、覚えてらっしゃいますか? わたくしと和也とあなた方が出会った日を」
想いを馳せるように言うシモーヌに、鷹久は懐かしそうな顔になった。
「うん。中学生の頃だったよね?」
当時を思い出してか、少し笑みを浮かべながらうなずくシモーヌ。
「その通りですわ」
「あの頃の君と綾香は、とても仲が良かったよね?」
その頃を思い浮かべながら鷹久が訊ねると、シモーヌは笑いながらうなずいた。
「……ええ。中学に上がって、たまたまクラスが同じになっただけでしたが、綾香さんはすぐにわたくしに声を掛けてくださいました。そして、その日のうちに、わたくしたちは友達になったのです」
懐かしむように微笑むシモーヌに、鷹久も微笑んだ。
「綾香さんは、わたくしの憧れでしたわ」
シモーヌが楽しそうに言うと、鷹久が「綾香が?」と聞いた。シモーヌはそれに笑顔のままうなずいた。
「ええ。少々だらしないところや大雑把なところもありましたが、勉強はどれも出来る方でしたし、運動も得意。明るく社交的で、男女ともに友人が多く、皆を引っ張っていけるリーダーシップも発揮できる。運動も勉強も人並みで、友人も少ないわたくしなど、比べるべくも無いでしょう」
シモーヌは空を仰ぎ見た。その顔に羨望と憧憬。当時のシモーヌはそんなことを思っていたのかと、鷹久は改めて思い、目を細めた。
「でも……」
そんなシモーヌの表情が曇った。
「わたくしが、一番うらやましかったのは、あなたなんです……」
シモーヌの言葉に驚き、目を丸くする鷹久。思わず自身を指差して「……僕?」と、聞いてしまった。
シモーヌは丁寧な所作で彼の方へと顔を向けなおし、「ええ」とうなずいて、苦笑いを浮かべた。それは、寂しそうな笑み。
「……より正確には、鷹久さんと、綾香さんの関係がですわ。あの頃から、おふたりは仲がよろしくて、いつも一緒におられました」
「……」
「肩を寄せあい、仲睦まじくしてらっしゃるおふたりを見て、わたくしは強く思ったのです……うらやましい。と」
シモーヌはため息をついた。
「……先ほどお話しましたように、その頃には和也は後ろ向きでなんに対しても自信が無い少年になってしまっていたのですわ」
それを聞いて、先ほどシモーヌが話した内容を思い出し、鷹久はうなずいた。
「わたくしは鷹久さんと綾香さん、おふたりの睦まじい姿を見ていて思ったのです……本当なら、わたくしと和也も、あなた方のようになれたのではないか? と。そして悔しくもありました」
悲しそうに、苦しそうに吐き出すシモーヌ。鷹久はなにも言うことが出来ずにただ耳を傾けた。
「同じような幼なじみの関係にありながらも、なぜ綾香さん達とわたくし達にはこれほどの差があるのか? と理不尽さすら感じていました」
「……」
「……そんな小さくて醜い嫉妬心に駆られ、わたくしは綾香さんにつっかかるようになっていったのです……今回もあなたと綾香さんを羨み、嫉妬心から勝負をふっかけたのです。賞品をあなたにしたのも、わたくしが溜飲を下げるためなのです。そんな、卑小で醜悪な女なのです。わたくしは……」
シモーヌはすでに泣いていた。後悔に顔をゆがませ、青い瞳からクリスタルの滴をあふれさせるその姿に、鷹久は思わずあのときの綾香の姿を重ねてしまった。
「……鷹久さん?」
シモーヌが、驚きの声を上げた。鷹久の手が、自然とシモーヌの涙を優しく拭ったからだ。これには鷹久自身もあわてた。
「うあっ……と、ご、ごめん」
「い、いえ構いません。けれども、わたくしにはあなたに優しくしていただく資格など……」
悲しそうにつぶやくシモーヌを鷹久が制した。驚く彼女に笑いかける鷹久。
「……大丈夫」
「え?」
安心させるように笑う鷹久に、シモーヌはあっけにとられた。
「きっと綾香は赦してくれるよ。それどころか笑い飛ばすね」
そう言って楽しそうに笑う鷹久。シモーヌは戸惑うような顔になった。
「し、しかし……わたくしは綾香さんになんとお詫びすれば……」
「普通に『ごめんなさい』で良いんじゃないかな? その上で理由を話せば良いと思うよ?」
「そんな簡単に……」
シモーヌは信じられないというような顔になった。しかし、鷹久は笑いながらうなずいた。
「大丈夫大丈夫。なにせ綾香だからね」
その言葉は妙な説得力を以て、シモーヌの心に、スッと入り込んだ。




