第一七九話『ペア決め』
「さて。潜入にあたってのペア分けをするかねい♪」
「それを待っていたよ! もちろん男女のペアだよね?! せっかくのペアチケットなのだからっ!!」
クリスの一言に食いつく洋介。隣に居た秋人がそっと一歩離れた。
「ガッツきすぎだぞ? 洋介。女子がドン引きしてる」
秋人に言われ、洋介がアレ? となった。それを見てクリスが笑う。
「まあ、痴態をさらしたあおっちは置いておくとして、早く入らないと二人を見失うからねい。いちおう男女ペアでなくても入れるけど、そこはやはりお約束と言うものだよん♪ というわけで、くじ引きタ〜イム☆」
言いながら両手をポケットに突っ込んで、取り出したのはクジの束。
「右は男子で左は女子だよん♪ そいでは同時にどうぞ。だよん♪」
にこにこ笑いながらクジ束を握った両手を突き出すクリス。
その周囲に男女ともに集まった。
『今日は美少女ばかりだから誰でも構わないが、出来れば綾香ちゅわんか我が女神をっ!』
『お前最悪だな……』
『どうでも良いから早く選べ』
『ちょっとドキドキしますね』
『めんどくせえ。早くしようぜ』
『誰が出るかな♪ 誰が出るかな♪』
『楽しそうだね、琴代ちゃん』
『てっきり牧野じゃあなきゃヤダって言うかと思ったよ』
『えーと、これが良いかな?』
『は、早く選んで欲しいよん。中腰でいるのは少しきびし……』
少々姦しいくらいに騒ぎながらクジを選んで端を持つ一同。そして、身長差があるため中腰になっていたクリスの合図で同時に引いた。
「三番だね」
とひばり。
「あたしは1〜」
ついで綾香。
「2だよ〜♪」
琴代が楽しげに。
「ボクは5だね」
辰美も笑顔で。
「ならばおねーさんは6だねい♪」
握っていたクジを開いて見てクリスが言うと、一同がエ? となった。
「って、4は無いの?」
「縁起が悪いからねい♪」
代表して訊ねたひばりに、クリスがにこやかに答えた。
その答えに皆が何ともいえない顔になった。そして男子が自分たちの引いたくじを確認した。
「お、5だ」
クジを見て眉を軽く跳ねさせる秋人。その横で慎吾が肩を落としていた。
「……2かよ」
「1です」
和也が照れくさそうに言う隣祐介が、小さく息を吐くようにつぶやく。
「3か……」
「って、何で僕が4なんだいっ?!」
最後に洋介が声を上げ、ほかの面々が目を丸くした。そしてクリスを見る。
「おおう、四番はあおっちが引いたんだねい♪」
楽しそうに笑うクリスを見て、ひばりが疲れたように額へ手をやった。
「そういうイタズラやめようよ……」
「そうだよ! しかも、何でわざわざ血文字風なんだいっ?! 意味が分からないよ」
ひばりの言葉に洋介もクリスにくってかかった。手にしたクジには、おどろおどろしく赤で書かれた『四』の文字。
しかし、クリスは動じない。
「あっはっは♪ ちょっとしたシャレだよん♪ んじゃあおっちはおねーさんとで」
そう言って洋介の腕を捕って自分の腕を絡めた。その自然な所作に、一同が再び目を丸くし、洋介の顔がだらしなくゆるんだ。
「ほりほり、みんなは同じ番号同士でペアになる。ペアになったらこっちに来て欲しいよん。チケット渡すからねい♪」
クリスの仕切りでみんなが動き出した。
「んじゃ行くか、和也☆」
「よ、よろしくお願いします」
「えへへ〜♪ シン君と〜♪」
「……くそ、相変わらずの運の良さだな、琴代の奴……」
「よろしくね? 高遠君」
「ま、緩く行こうや」
「よろしく沢井君」
「おう、こっちこそよろしくな!」
言葉を交わしあいながら五組のペアになった一同は、チケットを手に少し楽しげ入場ゲートへと向かった。