第十六話『相棒との出会い』
クリスのヒルデを見た一同は、その後、簡単なレクチュアを受けた。
サイバーファミリアは主、そして周囲とのかかわり合いで成長していく、コミュニケーション型のAIだ。
その成長パターンは多岐に渡り、制作者からして把握し切れていないらしい。それはそれで問題ではないかと思うが、制作者曰く、『んな把握できるほどパターンが少なかったら面白くないでしょーが。自分のファミリアがどんな風に成長するのか? 考えただけでも楽しくないかしら?』だそうだ。
成長の仕方も千差万別。自分だけの個性ある相棒。それがサイバーファミリアだ。
「さて、お待ちかねの時間だ。全員“TaC”は持っているな? 机の上に出せ」
滝川教諭に言われて生徒達は懐から“TaC”を取り出していく。
「それを机の端のスロットに挿入しろ」
机上にディスプレイが現れ、机の端のスロットを示してくれている。
飾り気のない平凡な机かと思いきや、様々な機能が隠されているらしい。
“TaC”をスロットに差し込んだ瞬間、机上に幾何学的な光のラインが何本も走ったかと思うと、空中投影ディスプレイが展開した。
「ディスプレイが展開したな? そうしたら、お前らの右の手のひらをそれに向けろ。スキャンが終わればOKが出る」
ひばりはおそるおそる手のひらをディスプレイに向けた。
数秒もしない内にディスプレイ上に“OK”と出て手をどける。
すると、画面が切り替わって小さな女の子の姿が映った。
「わぁ……」
誰ともなくあがる声。
その様子を見て、滝川教諭が口を開いた。
「サイバーファミリアの外観モデルは自分自身だ。まあ後から変更も可能だがな。ファミリアの名前を入力して、その顔をアイポインタで選択してやれ。それで契約は終了だ」
その言葉が終わると次々にセットアップ終了を知らせるチャイムが鳴った。
「名前か……」
ひばりは軽く目をつむって胸元に手を宛てた。
「うん。あなたの名前は……」
投影式のキーボードを叩いて入力する。
そして、サイバーファミリアの彼女の顔を見つめた。
すると、“彼女”がひばりに向かって笑いかけてきた。
そうして鳴り響くセットアップの終了を告げるチャイム。
それと同時に、机の上に銀色の円盤が現れた。
それは、ひばりの目の前で高速回転を始めた。
ついで、その銀盤から新たなホログラムの人形が浮上してきた。
と、一瞬のノイズが走り、その姿が露わになっていく。
やわらかい弧を描いた細い眉とつり上がり気味の目に大きな黒瞳。すっきりとした顎のラインに、スッと筆で曳いたような細い鼻梁。
ボリュームのある長い黒髪を束ねたポニーテールを揺らし、細くて長い手足を包む央華学園の制服姿で凛と立つその姿は、まるでひばりが大人になったかのような姿だ。
それを見て、ひばりはそっと息を漏らした。
すると、人形が、ゆっくりとひばりを見上げた。
『おはようございます。我が主支倉ひばり』
軽く会釈した彼女に、ひばりは笑みをこぼした。
「うん。おはよう、風華♪」
小さな相棒に、挨拶を返して笑う。
すると、ひばりの小さな相棒、『風華』は小さく笑ったようだった。




