第十五話『はじまる学園生活』
「ようし。自己紹介も終わったところで、最初の授業だ」
滝川教諭の言葉に、クラスの一同が注目する。
イヤそうな顔をしている者はひとりとしておらず、むしろ興味津々楽しみで仕方ないという風情だ。
その空気を感じて、滝川は苦笑いを浮かべた。
「……お前らそんなに楽しみか? 『サイバーファミリア』の授業が」
滝川教諭のその言葉に、生徒達は目を輝かせた。
『サイバーファミリア』。
第二学年開始時に学園よりプレゼントされるAIホログラムフィギュアサーバントである。
“TaC”に常駐し、主人となる生徒のアシストをするのが目的のAIだ。
リンクネットの“調律”の補助などもファミリアの仕事であり、大学卒業後も仕事のパートナーとしている卒業生もいるほど優秀なAIなのだ。
「ひとつ言っておくが、『サイバーファミリア』は、ペットや玩具ではないからな? そこのところは間違えるなよ?」
『ハイ!』
滝川の注意に返事をする生徒達。
その様子に滝川は頭を掻いた。
「……まあ良いか。ウエストロード!」
「うむん? なにかな? タッキー」
滝川に呼ばれて顔を上げるクリス。
「お前はもうファミリア持ってるだろ? みんなに見せてやれ。後、滝川先生だ」
「ほいほい、りょーかいだよん♪ タッキー♪」
「…………」
滝川教諭に名指しで呼ばれて立ち上がるクリス。
注意されても変わらぬスタンスは彼女故か。
クリスがそのまま教壇までやってくると、滝川教諭が教卓を譲ってくれたのでそこへ移動する。
「えー。今日から君たちの担任になった……」
「ウエストロード」
調子に乗ってふざけるクリスを滝川教諭がにらんだ。
「……冗談だよん。ヒルデ、出てらっしゃい♪」
クリスの声に導かれ、彼女の胸の高さほどの位置にホログラムの光が集まり、銀色のディスクを形成した。
それが高速で回転を始めたかと思うと、ディスク面から浮上するように、15cmほどの人形が顕れた。
その容姿は髪を長くしたクリスの姿で央華学園の制服姿である。
「よーし、よく見ておけよ? これがサイバーファミリアだ」
滝川に言われるでもなく、生徒達はソレに注目する。
『おはようございますマスター。今朝もお体の調子に問題はないようです』
「うん、ありがとねいヒルデ♪」
ヒルデの定型文の挨拶にお礼を言うと、クリスはヒルデに促した。
するとヒルデは、ディスク上からクリスの肩へと飛び移って腰を下ろした。
『マスター。これはいったい何の騒ぎでしょうか?』
「みんなにヒルデを紹介しているんだよん♪ ご挨拶しなさい」
首を傾げるヒルデに答え、挨拶をするように促すクリス。するとヒルデは立ち上がって深々とお辞儀をした。
「ヒルデです。よろしくお願いします」
その所作の自然さに八組の面々は感心することしきりである。
そこで教諭が口を開いた。
「ウエストロードは去年一年の蓄積があるからここまで動くが、お前達のはそうはいかない。じっくり育てることだ」
教諭の言葉を聞きながら、彼らはこれから出会う相棒に、思いを馳せた。




