第一三六話『生徒会室にて』
「……へえ」
空中投影されたディスプレイに映る光景を見て、新宮咲は楽しげに漏らした。
ここは生徒会室。そこで彼女は会計と二人でこのフェスタの関係書類を処理していた。
「……例の子ですか?」
そう声をかけるのは柔らかそうな髪にメガネをかけた優しい雰囲気の少女、遠間みどりだ。その目は手元の書類にのみ注がれており、せわしなく動く手が書類をより分けていく。そうした作業をこなしつつも、フェスタの第六試合が映った画面を素早く横目で確認しながら訊ねた。咲はそれにうなずいて笑った。
「ええ。本当に私と同じタレント“格納”みたいね。さっきもシールド十枚を惜しげもなく使い捨てていたし、今装着している兵装も総弾数少な目の使い捨て型が多いし、十中八九同じね」
言いながら手元に視線を落とし、チェックした書類に判を押す。電子データ全盛の時代に紙媒体の書類をチェックしていくのは大変な労力である。
特にこのフェスタは急遽決定したものなため、申請書類などの量は尋常ではなかった。
しかし、それを捌いているふたりも尋常ではなかった。
山のような書類のタワーがは見る見る内に縮んでいく。
「それでも咲と完全に同じ戦い方とはならないわよね?」
「それはそうよ。彼には彼の個性があるのだし、私と同じにはならないでしょう。だから興味深いのよ」
そう言って、咲はディスプレイに映った秋人の顔を見た。
「同じ“格納”タレントを持っているもの同士、どんな違いが出るのか? 気にはならない?」
「フフ、咲ったら」
少年のように目を輝かせる咲を見て、みどりはうれしそうに笑った。
そんな彼女に笑みを返した咲だったが、表情が曇った。
「……にしても、フられたわねえ」
「ティナ……クリスのこと?」
つぶやくような言葉に、みどりが顔を上げた。
「『今の私は今の仲間を守るだけで精一杯。それに副会長なんて柄じゃない』。そう言っていたわね」
「まだ一年も経ってはいないのよね。遠い昔のように思えるわ」
昔を懐かしむように視線を宙にさまよわせる咲。それは悲しげに揺れるものだった。
「私なんかより、ずっと人をまとめることの出来る子だったのよ? クリスは。それが……」
溢れるものがこぼれぬように上を見る。我知らず、咲の左手が握りしめられた。
それを見てみどりが顔を伏せた。
「……やめましょう咲。今更悔いても時間は戻らないわ。事件の後、傍にいてあげることだけが私たちに出来たことなんだから」
みどりは悲しげに頭を振る。それを聞いて咲が小さく息を吐いた。
「そう……ね。あの事件に関わるには、私たちは子供過ぎたわ。隆も静香も去り、常木と夏沢は彼女には関わりたくないと言う。なにが学園最強よ。仲間も親友も守れていないじゃない……」
咲の視界が歪み、熱いものがこぼれた。
そのとき。
「……そんなこと無いわ」
ふわりと、後ろから優しく抱きしめられた。
みどりだ。
いつの間にやら席を立って咲の背後へ回ったらしい。
「そんなこと無い。咲は咲に出来る精一杯のことをしたのだもの。皆が離れていく中で、あなただけがティナに声を掛け続けていたいたじゃない」
「みどりだって……」
「ううん。私はあなたにくっついていただけ。ティナの事件のさわりを聞いただけで彼女に会う自信が無くなったわ。けど、あなたは違う。親友の為に、出来ることをしていたじゃない。そんなあなたが強くないわけが無いわ」
「……みどり、ありがとう」
懸命に話すみどりに、咲は小さく笑ってお礼を言った。
それを聞いてみどりははにかむように笑った。