第十二話『彼の名は。』
その少年は、赤い髪を短めにカットした髪型で、髪質のせいかその先っちょの方が跳ねており。少しつり上がり気味の大きな目が特徴的だ。
その目が、さらにおおきく見開かれた。
「なんですとっ?!」
滝川教諭の言葉に、彼が驚愕したからだ。
「当然だ。担任の後に入ってきてセーフの訳ねーだろ」
しかし、教諭は少年の方を見ることも無くディスプレイを操作しながら言う。
と、その時予鈴が鳴った。
その音を聞いて、少年が姿勢を正して教諭に近づいた。
「せんせー。予鈴前に教室に入ったんだからセーフにまかりません?」
少年はにこやかに笑いながら滝川教諭に提案した。滝川は、ふと操作をやめて軽く思案した。
そして少し面倒そうに少年を見た。
対して期待するようなまなざしを向ける少年。数瞬、ふたりの視線が絡み合った。
と、教諭が口を開いた。少年がさわやかそうに笑った。
「……今日はもうタバコがねーからまからん」
少年のみならず、クラスの大半がずっこけた。
「そ、そんな理由……?」
「あなどれねーセンセだな♪」
あきれたように言うひばりと、楽しげな綾香。
鷹久はため息を吐き、慎吾は「アリなのかよそれ」とぼやいた。
「相変わらずだねい。タッキーは♪」
「なかなか面白そうな担任じゃないか」
離れた場所で、クリスが苦笑し、俊夫が笑う。
反応は様々だが、それほど嫌がられていない辺りはこの教師の人徳……? なのかもしれない。
もっとも、一刀両断された少年にしてみればたまったものではなく、「バカなぁっ!?」と、叫びながら両手両膝を床に着いていた。
「絶望したっ!? タバコの有る無しで生徒の遅刻を決定する非情な教師に絶望したぁっ!?」
「……うぜえ」
肺から絞り出すように叫ぶ少年の姿に、滝川がめんどくさそうな顔になった。
と、生徒の中から手が上がった。
それに気づいた滝川はおや? となった。
「うん? なんだ? えー……支倉か」
「はい」
滝川に促されて立ち上がるひばり。クラス中の視線が、彼女に集中した。
「支倉ひばりです。あの、いくらなんでもタバコの有る無しで決めて良いことだとは思えません。遅刻のカウントは成績評価にも繋がりますから、初日の今日のところは彼を許してあげたらどうでしょうか?」
真剣な顔で訴えるひばり。その目は、まっすぐに滝川を見据えている。
「……ほぉ」
そんな彼女の“目”に、滝川はうっすらと笑った。
そして、少年の方を見る。
「つーことらしいぞ? 誰もかばわなきゃ本当に遅刻にしてやるところだったんだが……良かったな。少年」
その言葉に少年とひばりは一瞬呆気にとられ、笑顔になった。
「あ、ありがとうございます先生!」
「礼は俺じゃあなくて、あのチビッこいのに言ってやるんだな」
「あたしちっちゃくないよっ?!」
滝川教諭に礼を言う少年だったが、教諭からひばりに礼を言うように言われる。
が、それにいち早く反応してツッコミを入れたのはひばりだった。
その電光石火のごとき反応に、クラスが一瞬、シンッと静まり返った。
そして、破裂するかのように教室が笑いに包まれた。
これに対してひばりは真っ赤になってしまう。
滝川教諭も少し苦笑いしていたが、収拾がつかなさそうなのでディスプレイに視線を向けた。
アイポインタで操作されたホロツールは、素早く、確実に実行する。
生徒全員の目の前に、いきなりディスプレイが展開され、一瞬にして騒ぎが収まった。
「支倉、もういいぞ。座れ」
「は、はい」
いまだに頬から赤みの抜けないひばりにそう指示して、滝川教諭はディスプレイに目を落とした。
が、すぐに顔を上げると少年の方を見た。
「と、そうだ。早く席に着け……いや、ついでだから自己紹介していけ。どうせこの後、全員にやらせるつもりだったからな」
「あ、はい」
滝川に言われ、少年はうなずいて立ち上がると優しそうな笑みを浮かべた。
「えーっと、俺の名前は沢井 秋人。みんなよろしくな!!」




