新・生徒会へ
夏の暑さは気持ち悪いです神無月です。
お久しぶりです。諸事情に諸事情が重なりました…
では。
“運命の日”になった。
時間が過ぎていくのが遅いようで早く感じるのは、立候補した1年生たちだけ。慣れない緊張で足はガクガク震え、集会の時に使うこのホールで、演説しなくてはならないのだ。それも、先輩たちの前で堂々と。
でも、そうじゃない上級生…特に3年生なんかは、生徒会が誰になっても構わなかった。自分らの卒業後の中等部なんて、はっきり言って関係なかった。
2年生だって、ホールでずっと座って話を聞くのも、気づけば寝ていたなんて事がよくある。今回も顔が下がっている人は数人ほど。
ただ言えるのは…
ただ言えるのは、たとえみんなが寝ていたって、重大な集会であるに変わりはない。
「いよいよ、この日がきたかあ。」
実は今日で、選挙投票が始まる予定ではあったのだが、桜が昨日言っていたように“シャレンドの伝統と規律”の条件に合う人を選ぶと、役員が必然的に決定してしまった。
そこで開かれた本日の集会は、立候補した1年生をビックリさせる事になる!
「役員決まったはいいもののよう、コレ、ここで大発表していいもんなのか?」
「いーでしょ、1年生にシャレンド学園の伝統の厳しさを教える、いい機会じゃなくって?」
「んまあ、そうだけどよ。」
そして今日は丸1日選挙とを行う予定だったので、9時には集会が始まる。5人はもちろん、舞台の上にたって、偉そうな態度をとるだけ…
「ふだんのステージは緊張しないのに何でだろ。この雰囲気。」
「慣れてないだけだよ、きっとね。」
「じゃ、そろそろ始めますか。さっさと終わらせたいじゃない?」
「委員長がテキトーかよ…。」
隼人は呆れ顔で、正面に向き直った。
桜が適当だったというより、学園中が早く結果を知りたがっていた、というほうが大きい。とはいえ桜もやはり適当。
「もう9時じゃない?まだ数分早いけど、始めよう!」
ざわつきが減ってきたところで、桜は壇上から見下ろす形で、舞台中央に立った。
その瞬間、しんと静まりかえった。こうなるのを、桜は望んでいた。話がしやすいから。
「これから!中等部次期生徒会役員選挙集会を行います。」
「(なんっだよその長たらしい名前…。)」
桜の合図で生徒全員が礼をした。
「では最初に、ここで生徒会から重要なお知らせがあります。」
と言って桜は一歩引き、後ろにいる明莉の方を少し見た。
「(あ、あたしか。)」
本来の役割は桜なのに…明莉はそれでも“あのお知らせ”をした。
「みなさん。本日なぜここで集会を開かなくてはならなかったのか。疑問に思う人もいるかもしれません。」
と言って明莉は続ける。
「知っての通り今日は、シャレンド学園年に1度の大事な日。生徒会の選挙投票日だったのです。みなさんが紙に名前を書いて、投票をするはずの日でした。」
そこまで言い切ると、明莉は
「ふう。」
と一息ついた。そして、用意していたカンニングペーパーを破り捨て、前を向き直った。
「だけど!今日は違う。投票日じゃなく、既に生徒会役員は決まった、決まりました。」
この瞬間、瞬く間にざわめきが広がり、驚く1年生の声。
「それはどうしてか。あたしたちが勝手に選んだのではありません!えっと…」
「我々の先輩方までが代々知っている、古き良きシャレンドの伝統です。そうですよね?」
思わず涼太が、はっきり口を開いた。
「そそそ、そうそれ。」
明莉はうなずいた。
「僕達の学園の伝統は“この大きな学園のリーダーは、壮大な音楽のメロディと同じだ”という事、つまりは具体的に見えるものであれば、音楽の成績が良い、特別な人にしか与えられないクラスを持った人を指します。」
「学園の各学年で数名までと限られた中で、クラスに値すると音楽の神様に認められた人だけが、なれるのが生徒会です。」
桜がバトンを引き継ぎ、そのまま伝える。
「今年はそのクラスに値する人がいない、という事態になり、選挙をする事にはなりました。しかしよくよく考えれば、1年生のみなさん。私たちや、私たちより遥か先の先輩が生徒会になる為にどれだけの苦労をしたか、知っていますか?」
「先輩も、そのーまた先輩も?成績がMクラスだった人だけが立候補権があったんだ。というより半強制的に立候補したんだ。でも今は。いないから自分から立候補する制度に変えたんだ。だけどお前ら…ちょっと軽いな気持ちが。圧倒的に人が多かった。しかも成績はあまり良くない。これはあまりにも、伝統を汚しすぎだ。」
隼人が言うと、考輝が代わった。
「だから、最終的な決断。俺たちは立候補した人のなかから成績が上らへんな人を選んだ。もちろんその人にやる気があるのか?本当はその人にそこまでやりたい気持ちはないかもしれない。そういった人は生徒会が落選を決定している。」
「何で分かるかって?演説の適当さが、丸見えだったよ。」
隼人がニコッと笑いを見せた。
「残った人の中から、伝統に従って、音楽クラスが高い生徒を選んだ。今から名前を呼ばれた人は、壇上に上がってくださーい。そして、あらためて生徒会としてやっていく意気込みそして考えを述べてもらった上で、承認する生徒は拍手を。」
最後に隼人が前に出ると、こっそりメモ用紙を取り出し、「んええっと…」と名前を呼び出した。
「おい、ここ間違えたらヤバイとこだからな?ちゃんと言えよ?」
「分かってるって!!」
考輝が背後からニタニタしていたのが隼人にも分かっていた。
「では名前を呼びます。」
わざとらしい咳払いをすると、後ろ4人が笑いをこらえているのに気づかずに読み上げた。
4人も隼人に任せて、いったん壇上から降りた。
「では言います。C組、寺川渚さん。」
大きく自分の名を呼ばれた渚は、聞くなり驚きを隠せない。
(えっ…ええ…?私が呼ばれた…!!)
セッカチな隼人はどんどん進めていく。
「B組、相川美桜さん。A組、北山あかねくん。…」
次々と壇上にあがる生徒をよそに、ひとりで壇を見つめる人がいた。
未希だった。
誰もが当選した友達をたたえる中、未希だけはそっぽを向いていた。
(何で私は呼ばれないの?確実になれると思ったのに!)
すると、そんな未希の心を読んだかのように桜がマイクを持った。
「以上、4名…といいたいところですが、あとひとりだけ居ます。C組、小嶋未希さんです。」
(ほらやっぱりね…私だけまるで特別扱いみたいじゃん。)
未希は行儀よく歩み出てくると、すぐさま壇上に上がった。
「今年の生徒会は、この5名が選ばれました。これから、その承認の拍手をして下さい。…その前に。1人、小嶋さんについての話をします。本来は個人的にお話しする予定でしたが、全体に関わる事だと思い、少し時間を取ります。」
と言って、何のためらいもなく上がってきた未希を桜は睨み付けた。
「さっさと生徒会にはさせないから。いい?謝罪してもらうから。」
「私の名前が呼ばれないはずがないと思ったー。」
未希も未希で、勝ち誇った笑みを浮かべる桜を睨みながら前に出た。
「あんたには、負けないから!何としても悪事を、ここで…!」
これから何をされるのか、分かっていない彼女に明莉が指差した。
怒りをぶつけて。
きょとんとした未希に浴びせかける言葉は。
「これから、謝罪をしてもらおうと思います。」
「割りとストレートに言ったよなあ…。」
もちろん、1年生がまたざわついた。未希がそもそもの規則を破ったなんて話は、上級生の間ではかなりの有名。
「何?こんな事をしたって私は反省しないから。」
「今から反省させるから。」
桜の即答。
「罰則がないだけいいと思いなさいよ。」
「ふーん。あっても私は何もマイナスはないけど。」
すれ違いざまに未希は、5人に殺気に満ちた目を向けた。
しかも、自分が悪い事をしたという自覚がないのか、立たされても胸を張って…これから褒められるのを待つかのように立った。
「小嶋さんは投票予定日の前日、私たち生徒会に、ある頼み事をしてきました。」
ここまで聞かせ、あとは未希がどれ程悪いと思っているかに任せよう。桜の狙いだった。
「ええっ!?未希が何をしたの?」
と戸惑う1年生たちを、明莉はいい気味と思って見下ろした。
「それは何かと言うと、選挙をする時、自分は選挙の結果に関係なく当選させてほしい、という内容でした。」
ホール内のざわめきが激しくなったのは、一目瞭然。揺れ動く友達との信頼…これもまた“作戦”のひとつ。
(未希も、これなら観念するはずよ。)
壇の下が落ち着かないうちに話を再開する。
「どういった行動なのか、みなさんには分かると思います。正々堂々戦おうとせずにズルをしようとした。上級生はみんな、この件を知っています。どう思いますか。」
ダメに決まってるじゃない!退学処分よ!桜は心の中で叫んだ。
「私たちは、決して実力がある人を見過ごしたりしません。だから、この一件だって生徒会は、みなさんの判断で決めようと思います。この人には実力はあるんですから。許せますか?許せませんか?」
たちまち上級生は、退屈そうな目を変え、未希を睨み付けた。目をつけていた後輩がついにやらかしたと。そんな目で。
「これから信頼と並行して生活していく人として。小嶋さんにはここですべて話してもらいます。」
未希は一瞬、「はあ?」と疑うような顔をした。けれど明莉や桜はもちろんのこと、「はあ?」となるのは生徒たちのほうだった。
未希はいつものライブの様な振る舞いで喋ると、誰もが思った。
しかし違った。
「すみませんでした。」
未希の第一声はそれだった。マイクに向かって、いや未希を見つめるみんなに向かって。
その横顔は、どこか悔しがっているようにも見える。
「私は、シャレンド学園の伝統を汚す行為をしてしまいました。真っ当な選挙をしようと思わなかった私は、本当に悪い人間です。すみませんでした。」
沈黙が訪れると、未希は続けた。
「ですが、私は生徒会になり、ゆくゆくはこの学校のトップになりたい、と思っています。その気持ちは、本当です。」
珍しく未希もきちんと喋るのね、明莉は感心した。
「お願いします。私の行動は間違っていましたが、どうか承認をお願いします。」
未希は最後に礼をし、下がった。もう5人には目もくれずに。
「では、このあと承認にうつります。結果は明日の朝、発表されます。」委員の生徒が注意を読み上げ、この日の会は無事、終了した。
桜たちの目的である『未希を謝らせること』も達成し、あとは彼女らが承認されるのかを待つのみだった。




