選挙は無しで
おおっおっ、お久しぶりで御座います神無月です。
投稿が遅くなって、本当にすみませんでした。
更新忘れていたんじゃないですよ。それに一応は更新してたんですよ。
他の作者様の作品もチェックして読んでいましたし。
今まで何をしていたかと云うと、主にこれまでの話を改定していました。誤字か酷かったりしたもので。行を直していったり、「」を減らしたり。
(改)の表記が増えてとっても大変なことになりました…。
それでは、色々とやるべき事をやっていませんがどうぞ。
「ねえ、ちょっと聞いて!」
明莉が肩で息をするほど急いで、生徒会室に滑り込んできた。
時刻は午後5時を回っていた。普通教室よりも広く作られた生徒会室内は、夕日の光が差し込み赤く照らされていた。
その光の中に5人の影が綺麗に映る。
「立候補した相川さんが誰か分かったよ。」
走ってきてまで伝えようとした明莉の口から告げられたその内容は。
「嘘だろ?あいつが…?」
まさかと思った考輝は座ってゆっくりマンガを読んでいる場合ではないと焦る。
桜は告げられた話に疑いをかける。腕を組み、新3年生になった時の事を考えながら。
張り詰めた空気で同じ頃涼太は、夢の中では明莉の話を聞いていた。夢の中だけでは。現実、彼は机に突っ伏して大あくびをするような人間だ。
という事は、最近になって涼太の生活の仕方が幸せそうだとマネを始めた隼人だって、桜の目の前でいびきをかいているに違いない。
「コラそこ、起きろ。何の為に今日の放課後呼んだのよ。」
「仕事も続いて寝不足なうなんだぜ。」
会議をした日の翌日…夕方、杏野桜によって生徒会メンバーはまた召集され、何の用かも聞かされずにここ生徒会室に呼び出された。桜が呼んだ理由は、何より心配な生徒会。特に、5人とも知らない候補者相川美桜の情報をつかんだ事を伝えるためであろう。
同じ時間に集まってくる4人は、臨時の会議であるにも関わらず揃って来た。
「ごめん、急に呼んで。今日仕事入ってるのに。」
「いいよ、向こうも知ってるはずだから。学校が遅く終わるってのは。」
桜はほっと安心した。そして、椅子にちょこんと座りながら、話し始めた。
「あの子について、判明した事が有るわ。」
「判明?」
考輝は訊く。
「私は衝撃を受けたよ。何で気付かなかったのか。」
どうしてなのか、どうして衝撃を受けるのか、この明莉にだけは分かっていた。ただ、桜とは違う方法で掴んだ情報を、ここでぺらっと喋るのは空気的にまずい。知らないフリをした。
「何がわかったの?」
深呼吸をして落ち着いた素振りを見せ、明莉は問う。
「相川美桜は、私達と同じアイドルの子なんだって、それも同じ事務所の。」
「同じ事務所!?」
4人は声を揃えて驚いた。目を見開いた。ドクンと緊張で硬直した。静けさが増した。あまりにも驚愕する事実に、ひやりと瞬間鳥肌が立つ。
アイドルだと聞いても驚くには十分だが、日本一のアイドル輩出を誇る“雪音事務所”の後輩だったと知れば、一気に親近感がわく。
同時に、なぜ知らなかったのかと疑問が浮かぶ。
なぜ知らなかったのだろう?今まで会った事もない。あんなに交流の深い先輩後輩の関係であるのに、KRASHとして5人は思った。
(あたしは凄く楽しみなのに、桜は…。)
明莉は心の中では相川美桜に会うのを楽しみしていたが、桜のどっしり沈んだ顔からは「困るだけよ」との声が聞こえる。後輩が生徒会を継ぐなら教えやすいのにと、明莉は言おうともした。
桜はため息混じりにこう続ける。
「その子もアイドルっていうんなら、生徒会の候補はアイドルだらけになるわ。それも、”雪音“のね。」
男子のサイドだって黙ってなど居られなかった。
「おいおい、ウソだろ?という事は、寺川とか小嶋に続いてまたかよ?」
「アイドルオンパレードじゃん。」
考輝と涼太は笑いをこらえるように引きつって言った。
「あたし達が言える事じゃないから、それは。」
「どこでアイドルだと知ったんだ?」
桜は今だけ得意げに説明を始める。念のためもう一度言うが、今だけ。
「ちゃんと調べたんだから。1年生に聞いて、アイドルの噂をつかんで、それで名前をネットの検索にかけたら…本当にアイドルの子だったの。」
なんだって、と一同驚愕。じゃあ自分らが知らないだけで、本当は何人もの生徒がアイドル活動を…。同じ職業をやっている身としては、恐ろしく、親近感もわく、不思議な感覚だった。
「そこまでしたのか。なら、顔も分かったのか。」
「もちろんよ、動画を検索すれば今は何だってあるから。ライブ映像まであったわ。」
これは学校にもいい雰囲気が出るかもしれない、考輝も期待度抜群だった。だが桜はいっこうに変わらず、肩をすくめた。
「ギターも弾ける、さすがアイドルって感じのオーラ、キラキラ感が違った。ギターが弾けるなんて最高じゃない!!憧れちゃうわ。でも、アイドル生徒会になりそうね。」
「嬉しいじゃん、そうなったら。桜も本当は嬉しいでしょ?」
「う、嬉しくなんか!!大変なだけだって言ったじゃない。」
桜は眼鏡越しに明莉をにらみつけた。赤面なところがまた桜らしかった。
とにかくそんなわけだから、桜はそう言って今日の会を終わらせた。それだけを伝えたかった桜の気持ちとしては、後輩を率先して生徒会に入れても悪くない、だった。
すぐに気が変わる桜は、難しい人だった。
翌日。
「私たちの生徒会は確定しそうよ。」
シャレンド学園の1年生たちは、動きが活発でその上積極的。先輩達からその点だけ認められているのは事実。生活の仕方以外でならまあまあな感じだ。
未希は生徒会役員に立候補してからというものの、自分は人より少し上にいる存在だと思いこんでいた。
何といっても、同級生からでさえ生意気だと印象付けられてしまうような人だ、他人を見下すのも未希らしい姿だった。その態度は廊下をただ歩くだけでも目立って見えてしまう。
すぐそばにいる相川美桜が未希に押しつぶされているかのように。
「そう…なの?」
「だって、候補者が多いらしいけど私たち、一応現生徒会メンバーの顔見知りでしょ?何とかして優先してくれるんじゃない?」
未希があまりにも強引な考えを持ち出し、美桜の方は信じる気に中々なれなかった。
小嶋未希のいるC組でも、相川美桜がいるB組でも、どのクラスでも有名な未希の存在。もし未希が友達でなければ、きっと美桜は気迫に負けていただろう。
「生徒会さんに頼みに行かない?すっごい真面目なフリして。そしたら確実に私たちは役員になれる。」
「嫌だよそんなの。絶対無理だって。」
本気で頼みに行こうとしている未希に、美桜は首を横に振った。
「そんな事したら、もっとチャンスが遠ざかっちゃう。選挙にすら出られなくなっちゃう。」
美桜の言うとおり、問題を起こしてしまえば選挙にすら出られなくなってしまう。うまくいく確率なんて無いに等しいというのに、未希は低い確率にかけようとしているのだ。
「このままじゃあ、選挙、落ちる。友達も多いし渚とかは。そんな子に敵うわけがない。」
どうしてもなりたい欲望のせいか未希は、美桜の言葉に耳を傾けもしなかった。
「あ、チャイム鳴りそう。私、生徒会に直接聞きに行くから。あとでね。」
「う、うん…。」
美桜は不安を抱きながら、B組の教室に戻った。
なぜだか足が重たかった。未希は本気でいるし、生徒会も予期せぬ展開に驚くだろう。突然立候補者に押し入られたら。美桜は分かってて言ったのだが。
あいにく、彼女は聞き入れるような性格ではなかった。
(きっとうまくいく。誰が見ても分かる圧倒的な支持。今までやってきた選挙活動でも、確かな票数にはなる。)
放課後、寮に帰っていく生徒とすれ違いながら未希は、会議真っ最中のはずの生徒会室へと走る。
(でも、確実とは言えない。私より渚の方が人気がある。候補者の人数も多いし、メンバーの成績で見ても私は劣る部分がある。今からカバーする事なんて出来ない。)
不可能な事も、相手が先輩である事も無視して、未希は生徒会室に押しかけた。
「失礼します!」
何の緊張感もなしに未希は、部屋のドアノブに手をかけた。
「はい?」
いきなり入られたのにも関わらず桜は、ぴくりとも動かなかった。むしろ、
「何のご用で?要望なら意見箱にって言わなかったかしら。」
他のメンバーもそうだ。桜の背後から陰険な目をし、訪れた未希をあからさまに見下している。
「で、ノックも無しに今更何を言いに来たの?挑戦状でも?」
以前KRASHは、未希に酷い仕打ちを受け、校内にアイドルという姿をバラされた経験がある。そのため、彼らはお互いに信用していない。
ちょうど部屋のテーブルには、長方形の模造紙と紙の花が並べられていた。4月の入学式に向けての準備真っ最中であったようだ。
と同時に行うのは、今ここで起きている問題。
「次期生徒会になる為に、私を選挙なしで役員にしてください!」
「はあ?」
沈黙。微かに聞こえる秒針の音が、馬鹿にしたように時を刻む。
「はあ?」
「だっ、だから!このままじゃ自分に入る票数が他の子に負けてしまうんです!」
「はあ?」
明莉は耳ごと向けて聞き返す。その横で考輝は、
「…そりゃお前の行いが悪かったからに決まってんだろ。」
ボソリと呟く。
「あんたは、どこまで常識が無いの?」
「…。」
黙ってうつむく未希。
本気で相手にしていない桜には、益々未希の企みが読めない。ましてや例年選挙で役員を決めるというのに、改正案を持ち出してくる1年生なんて。
「如何なる場合でも、選挙を実行する。それに不満があるのなら、理由も含めて納得いく改正案を挙げる事ね。」
桜がそう説明し終わる前に、未希は生徒会室を出ていた。もう姿がそこにはなく、沈黙しきった空気が残る。
「何だったんだあいつ。」




