ようこそ俺のプレゼント
「そんなに慌てなくたって、みんなのプレゼントは逃げたりしないよ。」
桜はせっかちな隼人にからかうように言った。
番組の出番が終われば、いよいよ楽屋では楽しみにしていた(と言うより早くやりたかった)クリスマス行事“プレゼント交換”が待っている。それを頭に浮かべながら歌っていたのは事実だった。
そんな事がyamakoに知られたら大目玉をくらうだろうに。
「お疲れ様です~」と、スタジオから楽屋までの移動の途中でスタッフが声をかけ、KRASHもその度衣装を着たままペコリとお辞儀をした。そんな移動中の時でも、特に隼人はまだ“プレゼント交換を誰も覚えていなかった事”を引きずっていた。
「そんなわけで、移動する予定時刻までの余裕があるうちに、始めましょ。」
「イエーイ!」
楽屋にあるローテーブルを囲むように、5人はそれぞれが買ったラッピング済みプレゼントを持って座った。
テーブルには、小さい箱や大きな物に赤い紙で包まれたもの、と様々な種類のプレゼントが並べられた。誰がどのプレゼントに当たるのか、これの中身は何なのかという疑問を抱いた目をして、5人は買った物の紹介を始めた。
「まずはあたしから!あたしが買ったお店は可愛らしい雰囲気で可愛らしい小物類を選んだから、喜ぶ人いるかなって…?」
明莉は張り切って、満面の笑みで買った物を説明した。その余りの張り切りように、口が滑って中身まで言い出してしまいそうな程。
「でね、このカ…。」
「今言いそうになっただろ。」
「うん。」
続いてその隣に座っている考輝に順番が回った。彼はいつもなら1番最後に説明をしたがるのだが、誰の策略なのか空いていた席が桜と明莉の間だった。
「次俺?俺が買ったのはとある…クククククク…。」
「はいもういいでーす!」
やめやめやめ、と明莉は考輝にイエローカードを出した。下手すりゃ一発退場かもしれないが。
「え、何か駄目?」
「ダメに決まってんでしょうが!何ニヤニヤ笑ってんのよ!」
せっかくのプレゼントを無理やり引き裂いて開けようとする明莉。
「いやいや…喜んでくれっかな~、みたいな意味のニヤニ」
「絶対違~う!」
突っ込まれても尚、ニヤける考輝だった。
そんなこんなで、イエローカードをくらった考輝の発言権はゼロに等しくなり、同時に次の順番は桜に回った。席順に回していくというルールを定めた桜の番。
「私が買った場所は、私が好きなお洋服のお店なの。いつもココで買うっていうくらいのね。」
得意げになって桜は、こう付け加えた。
「でね、偶々安かったからこのマフ」
「もうこのくだり要らない!」
あっと思い口を閉じる桜。しかし4人にはもちろん中身がバレた。バレた。
「得意げになるから口が滑んだろ!!」
涼太が面白さとマヌケさに思わずぶっと吹くと、桜に鋭く睨まれた。
「もう!失敗って誰だってあるでしょ!?」
顔を真っ赤にして、桜はプレゼントを端に寄せた。
そして自分の失敗にいらついてテーブルをドンッと叩く。
鈍い音が4人をびびらせる。
「どうしても喋っちゃうから、紹介はナシにしましょ!?」
突然の決断に…あまりの突然さと自己中心的考えに反対があったのは
「おい!!そりゃないだろ!」
珍しく張り切って紹介の原稿を書いていた涼太(いつ書いていたのかは目撃されていない)と、交換を提案した当の本人、隼人だった。
「まだ発言してねえぞ?」
そんなことは知らない、桜はプイッとそっぽを向いた。あの2人がどうしても説明をしたいのは理解出来ても、きっと中身まで喋ってしまうような気がしたからだ。
「無理よ。特にあんた達のようなタイプは。それとも、お楽しみを無くしたいの?」
「イヤです。」
2人は大事なプレゼントを即座に抱きかかえた。その動作を見て桜は、自分の持っているスマートフォンを用意し、画面をタッチした。
「じゃあみんな、プレゼント持ってー。今からBGM流すから、曲が止まるまで時計回りに回していって。」
「あいよー。」
桜のピンク色のスマートフォンからはすぐに小さな音で曲が流れ出した。しかもそれが紛れもなくKRASHの曲。KRASH1年目くらいに出されたとあるロックナンバー。
「自動的に曲が止まるように設定されてるから。スタート!」
(そんな機能があるんだっけ…?)
何気に桜が音楽自動停止機能の使い方を知っているのに驚く明莉。しかしぼけっとしている間にも、男子から超高速スピードでプレゼントが回ってくる。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃー!!」
「コラ!中身ぐしゃぐしゃになるでしょーが!」
女子組も慌てふためく。何故なら、彼女らの手のひらにプレゼントが乗っている時間は1秒以下。つまりは男子がそれほどのスピードで回しているという事になる。
「隼人のプレゼント狙いー!」
「はあー?涼太のプレゼント俺要らねえー。」
「はあー?」
考輝が涼太の袋だけをやたらすぐにパスして、隼人の袋を少し長く持って自分に当たるようにしている。
「酷えよ。マジ酷え。オレ何にするか真剣に決めたのに。」
最低すぎる人間それが考輝だ、涼太は何を言っても通じないと思い諦めた。ちなみに涼太の狙いは自分のプレゼント。結局それでいいらしい。
と、その時。
ハデハデでガチャガチャと煩い曲がいきなり、ピタリと止んだ。たちまち静まり返る部屋に、桜が「終了!」とスマートフォンの電源を切る。
「さあ?誰が誰のプレゼント持ってる?」
心臓がバクバクと音を鳴らし、ドキドキのこの瞬間。手に抱えている物を見た途端に全ての運命が決まる。
「わーい!やったあー!わーい!」
一番最初に大声で幼稚な叫びをあげたのは、杉浦明莉14歳。大声に驚いて彼女の抱えていた物を見ると、4人は思わず目を疑い、凍りついた。
「…え?」
「やったー!あたしが選んだやつー!」
明莉が抱えていたのは、ほんの数分前に自分で語り続けていた、自分が買ったプレゼントだったのだ。
あり得ないと首を振る桜も、気付くと手元には自分が買った自分の好きなお店の商品。
「え!私が一番欲しかった物!?」
続いて考輝も確認すると、欲しかった隼人の物でもなければ要らなかった涼太の物でもなかった。
「お、俺のメガネ!?あっ…言っちまった…。」
「もういい、言っても。」
桜はそう首を振って考輝に言いながら、横目でちらちら涼太たちの方を見た。
「おい涼太これ見ろよ!俺自分のが当たったぜ!?」
「オレもー。何か、うん、運いいって、言うの!?」
隼人に関しては、まあ自分の物が当たっても良かったらしく、すぐに包装をビリビリと破った。中からは大量…大きい小さい様々なお菓子が溢れんばかりにこぼれ落ち、テーブルいっぱいにお菓子が広がった。
「オレも開けちまえ。えーい。」
涼太の袋からは1つ1つが出しにくそうな物が飛び出した。
「それ、何。」
明莉は思わず訊きたくなった。涼太のパソコンに対する愛が計り知れないものなのか?このパソコン専用みたいな機械の山コードの山、もしお前以外が当たったらどうするつもりで!?
考輝の赤い袋中身は、誰でもすぐに分かった。第一、その袋の柄が考輝の家のメガネ店のトレードマークになっていたからだ。
「ダテメー。」
考輝は鼻歌を歌うほど嬉しそうに青いフレームの四角いメガネを装着し、自慢げに見せびらかした。
「可愛い。」
「可愛い言うな。」
自社の商品を買うなんていい子すぎる。4人は密かに親子愛に感動した。それを口に出したら怒られるので、心の中で感動した。
「2人は開けねえの?」
「うん。荷物になっちゃうし、ねえ?」
「てゆーか、桜。マフラーでしょ中身?予算オーバーじゃない!」
「いいのいいの、全員自分に当たったんだからさ。自分の為のプレゼントってことで、アリよ。明莉のだって、可愛いレース付き花柄カバンじゃない。それ高いでしょ?」
「そーだけどさあ。」
桜はふふっと上品な微笑みで言った。袋からはピンク色のチェック柄をしたマフラーが覗いて。
(…でもコレ、初めにもどると俺のしたかったプレゼント交換じゃねえじゃん!)
まあいいか、みんな自分以外要らないようなものを買ってしまったのだから。
そしてそれで、めちゃくちゃ喜んでいるのだから…。
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