彼女を忘れないで
昨日に別れを告げられない神無月です。
元気が無い…のは12月中旬ではよくある話です(私の中で)。下旬になると一気に落ち着きがなくなるという特性があります。
そんな中さて今回は…“あの日”が近づいてくるのと同時に起こる青井くんの物語です…。青井くんのストーリー多いなと自分でも思いますが、後輩と付き合ってる以上ネタがあるのは仕方ないんですよという事で。まあ彼も散々悩んでいるようで。
青井くんでピンと来ない方へ。涼太です。あのパソコンを愛してやまない。
「アッタマきた!もう、いくら渚でもこれは許さないわよ涼太!コンサートでヲタ芸をやらせるからね。まあ、どうせあいつの事だから、喜んでヲタ芸やるんでしょうけど…って、何を言ってるのよあたし!さっさとあいつに文句言いに行かなきゃ!」
本日の相談室が無事に終わり、渚の相談内容の事で腹が立っている明莉は、ここまでの内容を全て独り言として呟いた。自分の教室の窓の外に向かって。苛立ちを抑えるために。いやそうなのか分からないが。
「女の子の恋をああやって…。何てヤツよ!」
明莉はプンプン怒って、とうとう自分のクラスである2年C組の教室を飛び出した。勿論向かう先はといえば、お隣のクラス、D組。例の問題児(?)青井涼太がいるからだ。
以前から彼女と後輩寺川渚の間には、バチバチ近づけないようなライバル心と明莉が一方的に嫌っているという関係があった。だが、相談を受けた以上無視はできないし、その上渚からすれば嫌いなんてものでなく、寧ろ信頼されているくらいだったので、何とかしなくてはと思っていたのだった。
更に女の子の恋愛なんて、明莉はその手の事には意外と厳しい性格だった。だからこそ例えそれが嫌いな渚であろうと、解決しなければと思っていた。
「ん?待てよ?あの2人って…。」
いつになく猛スピードで廊下を駆ける明莉の細い足が止まった。その姿は猛獣さながら、キッと獲物を狩るような目で。
「あれ?あの2人の付き合いはじめた話って、振り返れば“違う”じゃない。」
違う、違うんだと明莉は繰り返した。とにかく違うんだ。“渚の乙女な恋を傷つけた”。これは全くの捏造話…。
「あたしが勝手に考えてただけか…。実際には渚が自分から恋してて、涼太が振り向いてくれないっていう事じゃない…。そうじゃなかった事、忘れてた…。」
明莉は急ブレーキを足にかけると、廊下をいったりきたりするように、脳内の記憶を巡らせていた。
それは突然の事でもなく、メンバー誰もが察していた話。
それは、涼太が渚に興味がありそうだったという話。
そして本人に訊いてみれば、正にその通り渚の事が好きだったのだという話。
告白が成功するようにって、KRASHメンバーが協力して、男子2人がミッションを次々に成功させていってくれた話。
そして告白をしたら、渚からは友達として好きだと返されて戸惑うできたてカップルの話。
でも、今日の話では渚は、やっと彼女というものが分かるようになってきた、という話。
しかし、涼太は…最近まともな話をしなくなったんだ、そう彼女は解釈をした。
「あらまあ!そうだった!そうよ、告白したのは涼太だったんだ!じゃあ…趣味の問題?まだ渚と会話したりしてるみたいだし、飽きたわけじゃない。なら、何だろう?何が問題?」
となるとこれは、しばかなくても良さそうだぞ。そう思い始めてすぐさま教室に戻る事にした。普通のスピードで歩いて。
「え?何。何が言いてーの?ヲタク辞めろってこと?」
放課後、ダンスのレッスンに行く電車の中での会話。
「い、いやあ、違うけど…。」
「じゃあ何。」
涼太はまるで気力を失いかけたような目で言った。片手にはなぜかアニメキャラがプリントされたハンカチを握って。
「それ、なに。暑いの?」
すぐにそれに気付いた明莉は、ハンカチを指差して言った。
「うん。暑いから。」
「冬でしょ!?さっきあんた、寒い寒い死ぬ言ってたでしょ?」
「車内暑い暖房効きすぎ。」
「でもあんた、これでもかっていうくらい異常な厚着じゃない。それに、汗一つもかいてないし。」
そこまで言うと涼太が黙り込んでしまったので、一番言いたかった事をようやく聞けた。
「ねえ。それは何。」
「ハンカチ。」
「違う。何で持ってんのか。」
「暑いから。」
「適当な嘘いらない。」
「これコンビニ行ったらフェアやっててさあ!貰ってきちったえへ。」
「えへ。じゃないよ。だから…」
「アニメ名?それねえ、今深夜2時30分からやっ…」
「そんなのどうでもいいんだよ!」
畜生こいつなかなか面倒だな、という目を向けると、涼太も分かっていたように言った。
「これね。オレ知らないうちにヲタクになってたの。でも何も思わないでね。オレの趣味は相変わらずパソコンをいじってる模様をブログに…。」
「そんな事、知ってるんだよ。」
明莉は小声で、諦めたかのようにそう答えた。いや、もう彼の話をわざと遮ったのだろう。
「そんな趣味の事はどうも思ってないよ。オタクをヲタクって言ってる時点で、持ち物がアニメキャラグッズになってる時点で、分かるよ。だってずっと一緒に居たんだからさ、気付くよ。」
「…そう?」
涼太は明莉の様子に気付いてハンカチをしまった。
「じゃあ、何。」
「ずっと一緒にいたわけじゃない子は、あんたのその態度に気付いたら、好きだった気持ちも失って二度と直らなくなるのよ!」
あまりにばかでかい声で喋ったので、涼太の方も少々驚いていた。
明莉はさっきとは逆に、声を小さくして話した。
「渚がね、言ってたのよ。あんたのアニメ好きという趣味を知ってしまってね。それは別に良かったの。いや良くないけど。でも、会う度話をすると、アニメの話ばかり。自分にも興味を押し付けてるようだって。渚本人が言った事をそのまんま言ったけど。」
「…。」
「でもねあたしが思うに、渚はもう自分が必要なくなったんじゃないかと思い込んでるのよ。同じ女子として分かる。あんたに…夢中になれって言ってるんじゃないの。趣味を捨てろと言いたいんじゃないの…。」
明莉は座席に深く腰掛けて、足を揺らしながら言った。まだ、涼太は黙ったまま。
「事実渚はあんたの趣味を押し付けられてるようだと言ってたけど、実際には自分と別れてもいいんじゃないかって、そう思いはじめてるのよ。…ってちょっと、聞いてんの?」
涼太はやっとのことでこう言った。
「じゃあ…別れていいんじゃないかな。」
間に合いますように。例のあの人の、お誕生日に。
ありがとうございました。




