1年C組事情
こんにちは今回は今の子供の現状に対する私の私なりの意見を用いながら明莉がお説教をするという話を書きました神無月です。
「分担するからね~。私は1年A組、隼人はとりあえずB組とD組。」
「なんで俺、2クラス?」
「BとDは隼人受けがいいらしいから。で、考輝はE組、涼太はF組。明莉は・・・余ったC組に、朝の時間に行ってね。」
最悪だ、明莉は半分絶望に満ちていた。C組って、あのC組だよ?朝礼の時も態度が得に悪く、なおかつあたしの嫌いな渚と未希がいるじゃない!
いまここで何が起きているかと言うと、ちょうどさっき明莉が会議で出した“1年生に教えてあげる”という案が決まったので、朝の指導から始めようという話になった。
それで、具体的には服装のチェックなどを基本にしていこう、ということになり、誰がどこに指導へ行くかという割り振りをしていたのだ。桜は考えもせず言ったのだろうが、明莉からすれば大問題。なんてことを。
しかし桜に意見を簡単に言えない明莉は、「うん。」とだけ言って、それ以上は口出ししなかった。
「オーケー?私たち生徒会が直々に動いて指導にあたってることには、意味があるんだからね?」
やっぱり方向がちょっと違うかな、明莉は思った。
「それじゃあ、もう私から先生に言っておくから、明日からよろしくね。」
桜が言うと、BBB組は
「あっざーっす!」
とびきり大きな声で喜び、思わずはしゃぎまくって外に飛び出そうとした。だが、すぐに、
「くれぐれも。1年生に悪影響を与えないでね。BBB。」
会長の鋭い言葉が、3人の背中に突き刺さった。
「はいぃぃぃ・・・。」
さて、まちにまった翌日。
朝っぱらから1年生のフロアは騒々しく、全く礼拝の後とは思えないほどやかましかった。廊下にはまだじゃれあいをする男子、お喋りばかりしてたまる女子が群がっているような場所だ。わいわいがやがや、それは楽しそうに。
そんな人も通れないくらいの人混みに、一瞬で道を作るただ一つの方法がある。
「おらおら、席つけー、教室に戻れ~。」
「早くしないと、先生が来ちゃうよ?」
「いっそげ~!!」
たちまち騒がしさがなくなり、今度は廊下のど真ん中に道を作るように人が引き、別の歓声が巻き起った。・・・巻き起こってしまった!
「キャー!!く、KRASH!?」
「生徒会の人だよ、ね?」
ひそひそし始め5人を見つめる1年生の生徒たちに、「早く教室戻って~」と呼びかける5人。
「我ながらすごいと思う。これは。」
なんと、今まで先生が注意しても聞かなかった生徒たちが、たった5人のアイドル生徒会役員の言う事を聞き、そろそろと戻っていくのだ。
それも6クラス同時に。誰も生徒会を睨むことなく。
「ほんとだね。」
「すっげえ、KRASH。」
全部、“すっげえKRASH”が言っている事なのだが。
「じゃ、いきますか。」
桜はメンバーに行くという合図を送った。
「とっつげきぃ~!!」
「失礼しま~す。」
ガラッと教室のドアを開けて、なるべく落ち着いた風に明莉は入った。彼女は心の中を隠せないくせがある以上、もう普通にしているだけでも精一杯だった。
C組は想像とは違い、わりとシャキッと着席していて、こっちが緊張しそうだ。
明莉は冷静そうな感じに見せるため、わざと咳払いし、黒板の前に立って言った。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
これまた意外。明莉は驚いた。C組の生徒はきちんとお辞儀までしたからだ。
「さて。」
また明莉は落ち着いたそぶりで言った。
「今日私が来たのは、いわゆる生活指導、というものです。生徒会は今日から毎日、というわけではないですが指導にあたろうと思います。1年生のみなさんに、シャレンド学園の気品溢れる良い生徒になってもらう為に、決まりを教えていこうかと思います。」
しんと静まり返った教室。誰も何の反応も示さない。
「え、ええっと。まず、このクラスで最近悪かったな~、なんていう反省。振り返りというものをしてもらいます。思いついた人は手を挙げて下さい。」
明莉がそう言った途端、後ろの真ん中の席に座っている未希と目が合ってしまった。どうしよう、未希の目が怖い。あの明莉の苦手なものは、未希の目から発するレーザー。
しかも、
「はい。」
真っ先に手を挙げたのも、小嶋未希、MIKIというあの後輩。
「はい、小嶋さん。」
「何で名前知ってるんですか。」
「そ、そりゃあ・・・事務所同じだしさあ。」
まずい、この話はタブーだ、思わず黙って口をとじた。
「そうですか。まあいいです。私の反省は、クラスのみんなで落ち着きが無かったことが、自分に原因があるということです。」
いちいちつっかかるなあ、明莉は面倒に思った。
「それは、どういうことですか。」
「私と、渚(寺川)が“有名な”アイドルだからって、みんなが騒いでしまうんです。私今学級委員長なんですけど、みんなに注意しても全然落ち着いて静かにならなくて。」
「あ、そうか~。」
当たり前だよ、もっと存在が目立たなくなるようにしろよ。今の発言どう考えても有名さアピールしたろ。
「でも、私思うんです。私たちがクラスで騒がれるのは、私たちがKRASHと同じ事務所だからグッズ頂戴とか、サイン貰ってきてとかで。私たちがKRASHと違う事務所ならきっと起こらない出来事で・・・。」
ああそうですね、と明莉は思った。あんたはいつまでも、KRASHにヤキモチ妬いてますもんね。たとえそれが、みんなの前で目立たなくしているようでも。あたしには分かる。
「つまり、私たちではなくKRASHがこのクラスの悪い原因かと思って、KRASHの前で悪い態度を取ればもう、私たちの事務所関係の話をせず、私たち自身を好きになってくれると思ったんです。」
要はKRASHのせいでうるさく、そして未希たちがKRASHのおかげで人気になってしまった。だからKRASHの前で態度を悪くしておけば、誰も興味を示さなくなって、みんなが未希たち自身のファンになり、クラスも静かになる。
・・・意味がわからない。これで理解をどうやってするんだ。
「そういうことですか。でもね、小嶋さん。KRASHを恨む必要はないでしょう。」
「恨んでません。ただ色んなことがKRASHのせいなんです。」
KRASHのせいで自分たち自身のファンが減ったのは、私らのせいかなあ、明莉は思った。
そもそもそんな事聞いた覚えはない。あくまでC組の生徒が、「KRASHと同じ事務所だから」と言って未希たちのファンになって騒いでいるだけ。
「分かった。ありがとう小嶋さん。座って。」
明莉はとびきりの作り笑いを浮かべて、未希を座らせた。また何か言われると、明莉は渚の方をちらっと見たが、渚は何も言いださなかった。
「わかりました。小嶋さんの意見に反対はないですか。」
これも分かっていたが、当然未希の方を見向きもせず、生徒は沈黙していた。そりゃそうよ、C組は未希がいるから、KRASHの事を敵視しているのに間違いはない。クラスがうるさいのは、未希たちがアイドルだからというより、おおもとのKRASHのせいだというのだから。
「では他に意見はありますか。生徒会に“これはやっていいの?”というような質問でもいいですよ。」
絶対答えられない質問をする奴がいる、明莉は言わなきゃよかったと後悔した。けれど、早速手が挙がっていたので、その人を指すことにした。
「はい。どうぞ・・・。」
「ねえ、あのさ、2年生のフロアに行ってもいいんですか?」
可愛らしい幼い声で、その女子生徒は明莉に問う。対する明莉も、何気なく受け答えしようとその人の目を見ようとしたが、その質問者に一瞬目を疑った。
「はい・・・?」
質問をしてきたのは、明莉にとっての超厄介者の松貝理恵留という生徒だった。名前も正直変わった人なのだが、松貝理恵留は良家のお嬢様で、おしゃれさんで(彼女は校則違反はない)、そして明莉のクラスにいる天新美図という優等生の男子が大好きで仕方がないという、すごい1年生だ。
天新美図はたびたびKRASHを助けてくれる強い味方だったし、5人の秘密もよく知る人だった。けれども松貝さんという人が美図にまとわりついているのは5人も不思議に思っていた。きっと本人は5人の事もさほど知らないだろうが、明莉はきちんと覚えていた。
「いつの時間に会い・・・2年フロアに行けるかってことですか?休み時間です。」
思わず口がすべった。
「ちぃがぁいぃまぁすぅ~、それ以外の時間ですよ~。ほら、例えば1年と2年の合同授業とかぁ~。1年と2年の交流会の機会とかぁ~・・・。」
この人、完全に目がいってる。理恵留の目はキラキラ潤い、夢見すぎて口半開き。明らかにターゲットは天新美図!クラスメートはそれを知っているのか、一気に引きはじめた。
「理恵留!あんた生徒会の前だよ!やめな!」
慌てて未希が理恵留の世界を壊そうとするものの、彼女のドリームは壊せない。
それにクラスもざわつき出し、男子がププッと笑いだし、女子もひそひそし始めた。
「理恵留!!」「お前何言ってんだよ。」
(これだから1年生は。ここはランドセルの世界じゃないのよ。ましてや理恵留の世界でもなければ生徒会の統治する世界でもない。)
明莉は目に角を立てて言った。
「とにかく!!」
その瞬間、クラスが動きを止めた。
「2年の交流はありません。自分勝手な事言わないで下さい。」
理恵留はそのまま静かにすわった。
「それと、みなさん。さっきから聞いていれば、人のせいにし過ぎです。どうして、誰もクラス自身の悪い点を挙げられないか、それは、自覚がないからです!」
生徒はごくり、と息をのんだ。
「朝礼できちんとした態度を取れないのは、KRASHのせいですか?服装が違反しているのは、KRASHをまねてるつもりですか?残念ながら、私たちは違反した事はありません。」
派手な髪ゴムの女子生徒たちがぎくっとした。
「あなた1人の勝手で、他の学年の時間をかえる事は出来ません。当然でしょう。今のこの学年は、世間でいわれる“自己中心的”な人が多いんです。」
理恵留は黙って聞いていた。明莉の怖さなど全く感じなかったが、それでも大事な事を言っているのに変わりはない。
「でも、それを変えることは、いつでも出来ます。みなさんが2年生になった時、きっとそう思うはずです。今からでも校則を守り、学校をよりよくする事に協力すれば、良いシャレンド生になれます。」
明莉の話を、黙って聞くC組の生徒たち。さっきの騒がしさとは大違いだ。
「もうそろそろ時間なので。また明日、服装チェックを行います。それでは。失礼しました。」
明莉はそう言って、教室を出て行った。
朝の時間が終わるチャイムと同時に、隣の教室からも4人が出てきた。
「おっ、ちょうどだね。」
「おいおい明莉、お前の説教本当に聞こえてたぞ。」
「うちにもよ。教室離れてるけど。」
「オレんとこも。」
口ぐちに言う4人に、明莉はただ笑って返した。
「あたしの声、大きかったみたいだね。」
キャラクター、分かっていただけましたでしょうか。
要するにこういう人たちが1年C組だよ、ということで。
松貝さん。
夢見がちなのはまるで明莉にそっく・・・。
次回もよろしくお願いします。




