感謝のエプロン
母の日もう終わるじゃないかこの馬鹿野郎神無月です。
私もあげました。しかし、母の趣味がカーネーションではなく観葉植物だったという事が判明し、とてもびっくりしてそっちを買いました。これをラッピングしてもらうのかと、お金と多少の勇気がいりました。
これはKRASHでもイベントとして変わりありません。子供ですから、お母さんに感謝はします。ですから、今日は特別に。女の子2人の、お買い物です…
男子がそんな事になっていた頃の事。女子寮の部屋の中ではこんな話をしていた。
「ねーねー桜!明日は何の日か知ってる?」
明莉はベッドに腰掛け、足をぶらぶらさせながら雑誌を読んでいた。
「あ!明莉、そーゆーの読んでちゃダメなんだよー!?」
桜が大げさに指差して笑うと、明莉はプイッとそっぽを向いて言った。
「うるさーい。これは学園内で許可された雑誌なんだよ!ほら、母の日だよ今日は!だから、母の日特集をしているから読んでいいって、職員室前に置いてあったの。凄いでしょ、さすがシャレンドよ。」
「自慢げに言ってるけどね。」
桜は鏡の前で髪の毛を整えて肩をすくめた。
「私、もう買ったのよ。」
「え?」
桜は申し訳ないとも言わず、むしろ「遅いわね」と嘲笑う表情をしてみせた。
「なにそれー、早く言ってよ…。」
「明莉が忙しそうだったから、声掛けられなかったの。」
「えっ…(正直桜ちゃんの方が
忙しそうだけどな)いつ買ったの!?」
「ほら、先週休日にレッスンして、終わった後1人で電車に乗り…色々と。」
桜がいつそんな物を買いにいったか、記憶になかった明莉だが、少なくとも桜より出遅れていたという事を知ってしまった。
「何を買ったの?」
「私はお洋服を買った。帽子も。」
その洋服が明莉の会社製だと聞き、嬉しくはなったし多少気を紛らわせられたが、それでも「さすが桜」という思い。
「明莉の家は洋服会社だから、服は要らないわよね。じゃあ…エプロンとかはどう?」
そう桜が言う通り、明莉の家は洋服会社。色々なジャンルの変わったデザインが有名の服で人気だ。勿論家族はその会社が作る服を着ているのだから、あまり欲しいわけではないだろう。
「そうだね、エプロンいいよ!」
明莉はさっさと着替えを済ませ、髪を結った。
「ちょうど今日って…外出許可されてる日だもんね。レッスン遅れないようにね、行ってきたら?」
桜もさっきから神経質な程に髪を結っては直しを繰り返しながら言った。
だけど、明莉が
「ええー、あたし1人ー?」
と我が儘言って仕方ないわけで、
「はいはい、私も行くわよ。行ってあげます。言われなくとも分かってたわ。感謝しなさい。」
桜は大人びた声でそう言い、バッグを手にとった。
「あぁ…それと、財布忘れたりしないでね。」
2人が向かった先は電車で5分で行けるI駅に降りて徒歩3分程の店。近くて、安いからシャレンド生には人気の雑貨店。女の子らしいグッズを沢山取り扱う、そして可愛いキャラクターのぬいぐるみまで、2人の年でも欲しくなる物ばかり。
「本当にすぐだね。うわ、激コミじゃん!」
小学生の頃と持ち物もスタイルも変わらない明莉に対して(要するにハデハデだけど外見にそこまでこだわらないタイプ)
「本当に混んでるわね。…激コミって何?」
相変わらず優雅でオシャレにとことん気を遣い過ぎる桜。明莉だってここまでやらないだろう。持ち物やどのバッグ、ポーチを持ってゆくかなんて。
「激コミも混んでるも同じだから。んー、このバッグも可愛いね。」
早速始まった、桜は呆れ顔になって、明莉が人を押しのけ店の奥まで行く後を追った。
「バッグをプレゼントしてもいいかもね。」
「違うよー、自分の。myよmy。」
「意味分かんないし!」
せっかく可愛いねってコメントしたのに。桜は益々呆れた。
ベージュに赤線の入ったトートバッグや、赤黄のチェック柄ショルダーバッグ。どれも2人の好きな柄が棚に並んであったのを見つけた。
(確かに、可愛い。)
桜も少しは思ったのだが、首を振って明莉に向かって
「何を買いに来たのか、忘れないでよ。」
ついうっかり、明莉は桜の眼鏡ごしの鋭い視線を感じて、他の棚に移動した。
「あ、これ可愛い!!」
続いて目についた物は、ハンカチだった。「ハン…カチ?」
ずらりと縦に20種類位の小さなハンカチが並んでいる。ピンクや水色というパステルカラーのキュートな色合いから、花柄市松水玉の模様、白黒赤という濃い色合いの物まで、それは何種類もあった。他のお客さんもそこに集中していたから、あまりよく見れなかったのだが、1つ1つきちんと見たいと思ったくらいだ。よく見ると違う模様とか。
「これ可愛いない?」「あっ、こっちもいいね!」「これ素敵!!」
次々と色んな柄を見せてくる明莉に困り果てて、思わず桜が
「ハンカチは分かったから!あげる物探してよ!」
と大声。
「ごめん…。」
(まったく、余計な物まであれそれ目をつけたら、レッスンまでに帰れないでしょ…)桜は半分苛立ちながら見ていたし、同時に心配でもあった。
「えーっと、あ、あったエプロン!」
ようやく本題に入ったと思い、ついていくとそこでも彼女は長かった。「これ、いい!」
始めに手にとって見た物は、花柄のベーシックなエプロンで、その次は赤に白い水玉の、よく見掛けるような柄で…
「私は、これがいい気がする。」
偶に桜が呟くのもまるで無視。明莉は次々と様々な柄のを見せるのだが、どれも明莉らしいが変わっていて、結果として=明莉にしか似合わない、という物ばかりを掘り出してくる。
桜もしゃがんで、色々な物を見るのだが、奥にはもっといい物があるんだけどな、と声を掛けるのも諦めた。
他のお客さんは幸い、他のコーナーに居るから良かったものの、ただの迷惑者。
「あのさあ…」
桜は我慢出来なくて、とうとう明莉の背中に思いっきり心の中のもやもやを全てぶつけた。
「着る人を考えてる?」
「え?何が?」
「あげるのはお母さんでしょ?自分に似合いそうな物とか、自分が好きな柄のを選ぼうとするから、時間がかかるの。分かった?」
「あ、そっか。」
どう考えても、耳に入ったお客さんも、それが正論だな、と思う顔。これが間違いならじゃあ後はどう明莉に言えばいい?
「分かった?さっきからね、好き勝手見てるけど、それじゃあ買い物長引くわよ。そろそろ早く買い物済ませる方法を身につけないと。」「そうだね…」
桜に言われっぱなし。
「それに、買い物長いと付き合ってくれてる彼氏も怒るよ!?」
「彼氏連れてきてないじゃん!」
「でももし私が彼氏なら、きっと怒ってたー!」
桜が一発怒鳴り、それから咳払いして
「とにかく、それはポイントね。」
明莉は向き直り、それからじーっと商品を見つめていた。それも、大げさなくらい真剣に。
「これと、これ。どれがいいと思う?」
ようやくちゃんと選びだしたので、桜は無言でも一安心だった。(そんなに心配な感じの様子だという事)色合いも薄いピンク、水色、白と違い、模様やデザインは全然違った。濃いピンクのラインとか、白い水玉とか、ハートマークとか。
「うーん。私、あまり明莉のお母さん見た事無いんだけど、これじゃないかな。」
見比べ悩んだ末に選んだのは、
「いいの見つかったよ。ヨカッタヨカッタ…」
「本当に危ないわ、明莉は。」
駅で電車待ちをしている間。
「でも、桜ちゃんのお陰だからね、買えたのは。ありがとう、買い物手伝ってくれて。」
「まったくよ」いつもの調子で返すのをやめ、代わりに桜は「どういたしまして」と言った。その方がお上品だと思ったのも、理由の1つで。
「あ、電車来たよ。急ごう急ごう。」
「喜んでくれますように。」
手紙つきで、その日のうちに贈り物を送ったのだった。
後日。
授業が終わって、寮の部屋に来ると、一通明莉宛ての手紙が届いていた。
「あれ?手紙?」
その黄色い封筒は、確かに自分宛て。送り主の名前は…
「おっお母…ママからだ!」
誰かいてもいなくてもママと呼ぶ明莉は、すぐにその封筒を開けて、中の便箋の内容を読んだ。
「世界一、宇宙一大好きなあかりへ
あかりが今日の事を忘れていなくてよかったです。
エプロンありがとう。水色の可愛いエプロンだったね。 実はママも欲しいなって思ってたんだよ。まさか ぐうぜんだね♪
さっそく着てみて、もう毎日使っているよ~。写真も送ったから、見てみてね^^
なぜか…パパも喜んじゃって。似合うって言ってくれたよ!ありがとう、あかり。
これからも、ママもがんばるから、あかりも学校、そしてアイドル、がんばって☆応援してます。^^
ママより」
手紙には、確かに明莉のお母さんが笑顔で水色のエプロンを着た写真が入っていた。隣にはお父さんもピースしていた。
「母の日、忘れるワケないじゃん…。」
明莉は手紙を読んで、なぜか心が軽くなっ気がした。暖かくなったような気もした。それは、笑顔の家族が見られたからかもしれないし、エプロン喜んでくれたからかもしれない。
「よし、レッスン行かなくちゃね。」
いつも以上に、張り切って行けたからかもしれない。
いつもより長いのは錯覚ではありません。1990文字が倍位になってるんですから…(多分です、推測です。作者適当なのでそこら辺は)。
母の日、いいですね~。心あたたまります。
では、次の投稿も宜しくお願いします。暇な時来てください。




