婚約破棄される日は突然やって来てしまいました……。~真の悪女はどっちでしょうね?~
「フローラ、お前、彼女を虐めていたそうじゃないか」
婚約者である彼ダルセンはある日突然そんなことを言ってきた。
その隣には知らない女性が立っている。
「心当たりがありません」
「嘘つきが!」
「それに、そもそも……彼女、とは?」
「ここにいるのが見えないのか! いるだろう、ほら! ここに! お前、どれだけ悪質なんだ。目の前にいる、しかもこんなに可愛い娘を、見えないふりをするなど! 悪女過ぎる!!」
女性はその丸い瞳に意地悪そうな笑みを滲ませている。
しかし彼はそのことに気づいていない様子だ。
そういった部分は異性にはなかなか分からないものなのかもしれないけれど。
「ダルセンさんのお隣の女性ですか?」
「ああそうだ! そうに決まっているだろう!」
「でしたら知り合いではないですけど……」
「はああ!? そこまで酷い嘘をつくのか!? ああ、もう……あり得ん」
彼は私の言葉を少しも理解しようとはしてくれなくて。
「ま、もういい。お前との婚約は破棄だ。そんな嘘ばかりつくやつと共に生きてゆくことはできないからな、これでさよならとしよう」
そのまま私との関係を叩き壊したのだった。
◆
あの後、ダルセンの隣にいた女性――名はフェリアというそうだが――彼女のこそが真の嘘つきであったことが判明したようだった。
フェリアはダルセンを愛していなかった。否、それどころか、フェリアはダルセンを騙していた。私に虐められた、という彼女の話は、もちろん嘘だったのだが。それ以外にも彼女は嘘をついていた。
両親が自分を嫌っていて、そのせいでまともな生活費も貰えない。
フェリアはダルセンにそんな相談をしていたそう。
そしてそれを理由に速やかな経済的援助を求めていたそうだ。
だがそれも嘘だった。
フェリアの両親はフェリアの暮らしのためにしっかりお金を使っていたし、何なら贅沢させていたくらいで。実際には、フェリアの両親の行動に問題となるような点は一切なかった。もちろん、お金だけの話ではない。お金以外の面でも娘を傷つけるような行いなどは一切していなかった。
また、フェリアが嘘をついてその気にさせている男性は、ダルセン一人ではなかったようだ。
フェリアには親しくしている男性が十人以上いた。
ある人には生活費を。
ある人にはドレス代を。
ある人には高級な食事の支払いを。
といったように、それぞれの男性にかなり高額なお金を使わせていたようだ。
フェリアは絵に描いたような悪女だった。
その事実に触れた時、ダルセンは酷くショックを受け、自ら死を選んでしまったそうだ。
彼は私より彼女を選んだ。
それは愛ゆえで。
だが結局はそのせいで命を落とすこととなってしまった。
彼の選択が間違っていた、とは、誰にも言えない。
けれど、もし長生きできる人生が理想であったとすれば、彼は誤りの選択をしてしまったことになる。
……だが、まぁ、私には何の関係もないことだ。
彼がどんな痛い目に遭ったとしても。
彼が深い地獄に堕ちたとしても。
自業自得ね、と笑うだけ。
そういう意味では私も悪女なのかもしれない。でも、もしそれで悪女と言われるのなら、べつにそれでいい。すべてにおいて善良な聖人になんてどう頑張ってもなれはしないから。
◆
あの突然の婚約破棄から二年半、私は今、一国の王妃となっている。
「フローラさまってお美しいわよね。それに、凛々しくてとってもかっこいい! ああー、もう、憧れちゃうわ。好きになっちゃいそう!」
「見つめているだけ心が柔らかくなりますわ」
「聡明だし、魅力的なところだらけだし、本当に素敵な女性!」
ここに来るまで色々あった。
もちろん大変な面も。
けれどもこの道を選んだことを後悔したことはない。
国王であり、私の夫でもある。
そんな彼は照れ屋なところがあって時折少しぶっきらぼうだけれど思いやりのある人物だ。
そして私が困った時にはいつも支えてくれる。
そういう彼と共にあることができたからこそ、私は、ここまで様々な困難を乗り越えることができてきたのだ。
ちなみにフェリアはというと、ある時一人の男性から嘘でお金を騙し取ろうとして嘘がばれてしまい激怒され命を奪われてしまったそうだ。
というのも、騙そうとした男性が山賊の親玉だったのである。
元より物騒なことに手を染めてきている男だ、自分からお金を騙し取ろうとしたような悪女を許しはしない――フェリアは相手を間違えた。
◆終わり◆




