逃げるが勝ち
ひとまず逃げよう。
頭は整理できても状況は好転しないのだ。
このままでは確実にウィリアムとファーストダンスを踊らなければならなくなる。
ファーストダンスは基本的に婚約者と踊るものであり、それを踊るということはダンスの相手が自分の婚約者であると周知することに他ならない。
それだけはどうしても避けたいのである。
だが逃げようにも腰をがっちりとウィリアムに拘束されている。
そのままパーティー開始を宣言するためにダンスホール内の壇上にエスコートされていく。
乾杯のため給仕係に飲み物を渡された。
、、、これだ!
階段を上る際にドレスに躓いたふりをして、姿勢を崩し飲み物をドレスにぶちまけた。
青いドレスに赤いしみが広がる。
「申し訳ありません。私の不注意でドレスを台無しにしてしまいました。このような姿で皆さんの前に立つのは憚られます。一度退室させていただいてよろしいでしょうか?」
一息にいうと踵を返し、出口に向かって歩き出す。
と、ウィリアムに手を引かれた。
「ちょっと待て。着替えるにしても汚れを落とすにしても手伝いが必要だろう。メイドを付ける。手伝ってもらうといい。」
すぐに王子付きのメイドが私の傍に来た。
もっともらしい言い訳で監視を付けるつもりらしい。
ここで断れば無駄に疑念を増やすことになる。素直に受け入れ、休憩用に用意されている部屋に向かう。
部屋につくとメイドの1人に私の侍女を連れてきてもらうように頼んだ。
すこしすると廊下からぱたぱたという足音が聞こえ、勢いよく私のいる部屋のドアが開けられた。
「お嬢様!せっかく素敵なドレスだったのに汚されてしまったんですね。お任せください。このスフィアが必ず新品同様に戻して見せますので!
、、、ああ!私としたことがお嬢様がいらっしゃるお部屋にノックもせずにいきなり入るなど大変失礼なことを!本当に申し訳ございません。お嬢様がパーティーで転んだと聞いていてもたってもいられず、、」」
「スフィア。落ち着いて。」
幼いころから変わらないマシンガントークで捲し立てる様子を見てこっちはむしろ落ち着いてしまう。
「つまずいて足をくじいてしまったようなの。薬は持ってる?」
「けがまでされたんですか!?なんてお労しい。もちろんですわ、お嬢様。私も薬師の端くれですからね。」
いつも持ち歩いている救急箱を荷物の中から取り出し、足首に軟膏を塗って包帯を手早く巻く。そして、メイドに本日は足を痛めたため帰宅することを伝える。
引き止められるかと思ったが、意外にもすんなりと引き下がってくれた。
スフィアの手を借りて馬車へ戻り、座席に座る。
「ねえスフィア。近頃私の言動がおかしいなと思う事ってあった?」
「え、唐突にどうしたんですか。おかしなところ、、というかいつからかライアン様の話を全くされなくなりましたよね。あんなにお好きだったライアン様でなくウィリアム王子殿下のお話ばかり。人の好みは変わるものですが、誠実なお嬢様が婚約者様を傷つけるようなことをするのは違和感を感じておりました。」
さすがスフィアだ。私のことをよく見ている。
この返事から察するにスフィアは洗脳されていないだろう。学園に侍女は連れて行かないし、ウィリアムとほとんど会ったことがないためそうだろうとは思っていた。
「でも急にどうしたんですか、お嬢様。まさか、転んだ時に頭も打ったとか!?それでしたら早く旦那様に見ていただかなくては、、、!」
「違うのよスフィア。私ね、多分洗脳されていたのよ。」
「はい?洗脳、、ですか?なぜそのようなことを?」
「舞踏会でウィリアム様にエスコートされたときにね、ウィリアム様のことをお慕いしていないと気付いたの。でもさっきスフィアも言ったようにここ最近の私はライアン様ではなくウィリアム様のことばかり気にかけていたでしょう?それで洗脳されていたんじゃないかと思ったの。」
「ちょっと待ってください。つまりウィリアム王子殿下がお嬢様洗脳の魔法をかけていたということですか?しかし王子殿下の魔法は、、、」
そうおかしいのだ。
「そうね。ウィリアム様は光魔法しか使えないはずだもの。光魔法に相手を洗脳するような力はないはずでしょう?魔道具か、それとも別の術者がいるのか。いずれにしても調べて対策をしなくては。ライアン様と引き離されるわけにはいかないのよ!帰ったらすぐお父様に相談しましょう。」




