日常の跡
塾から帰った時に見たのは赤く染まった家。家族皆、そこにいるはずだった。
「助けないと!」
燃える家に向かって駆ける。
「こら! やめなさい! 君も死ぬぞ!」
「やめてください! 離して!」
必死に消防士の人の手から逃れようとする。
だけど、家が燃えるのを見守ることしかできなかった。
あの日から俺は一人になった。
***
「ねみーー」
そんなことを俺は言っていた。
灰色のコンクリートで作られた屋上に寝転がる。
遠くからはどこかの教室からの教師の声が聞こえてくる。
誰かはどうでもいい。
ただ寝てたい。
ここ一年くらいずっとこんな感じだ。時々こうして屋上に行きたくなる。
真面目に授業を受けて勉強して、それで何になるというのだろう。あほらしい。
そうしていると誰かが来た。
「山田。またサボり?」
来たのはクラスの女子の加藤だった。相変わらずポニーテールが目立つ。
今は放課で、それで来たのだろう。
多分俺がいることも知っていたはずだ。
「まあな。やる気がなくてさ」
「やる気がないのに学校には来たわけ?」
「別にいいだろ、家にいても仕方ないしな」
「そういうものなのね」
加藤は割とどうでもよさそうに言うと、俺の傍に座った。
「ほら、水あげる」
「サンキュ」
ペットボトルの水をくれたので素直に受け取る。
そして俺は上体を起こすと、座り込んだ。
ペットボトルの水を飲む。冷たい水が美味しい。
「山田も次の授業は戻った方がいいよ。清水の授業だから」
「そういやそうだっけ。分かったよ。次は戻る」
「うん、そうしな。私も毎回清水があんたのことで愚痴るのうるさく思ってたし」
「あいつそんなこと言ってるのかよ、放っておけばいいのに」
「そりゃあんたが堂々サボるからでしょ」
「別にいいだろ?」
「サボるなら、家とかでサボればいいじゃない。わざわざ学校にくるのは意味わからない」
「まあなー」
俺はその意見は理解できてしまった。
とはいえ、あのマンションの部屋でいても、誰もおらずがらんとしているだけだ。
母が俺が宿題をやってないのを咎める声や、父が冗談を言って笑う姿。姉がリビングでテレビをずっと見ている光景も見ることはない。
「……そろそろ一周忌だもんね」
視界に赤い建物が見える光景がよぎる。皆はもういない。
「……」
「ごめん。悪かったよ」
「いや、いいよ。いい加減俺も前向かないとな。ずっとサボってるわけにもいかないし」
「……別にあんたがそうなるのは仕方ないと思うけどね。ま、やる気がある時に頑張ればいいんじゃない? 少なくとも高校の間は見守ってあげるわよ。その後はあんた次第」
「厳しい奴だな」
「そりゃそうでしょ。とにかく、次の授業は来なよ。私はもう行くから」
「分かったよ。あとで行く」
加藤が去っていく。
もう少しいてくれてもよかったんだが。
俺は水を飲んで空を見上げた。
日常の跡で澱んでるのが馬鹿みたいに感じられた。
俺は立ち上がり、屋上を去った。
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