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掌編

日常の跡

作者: 綴 詠士
掲載日:2026/01/06

 塾から帰った時に見たのは赤く染まった家。家族皆、そこにいるはずだった。

 

「助けないと!」


 燃える家に向かって駆ける。


「こら! やめなさい! 君も死ぬぞ!」


「やめてください! 離して!」


 必死に消防士の人の手から逃れようとする。


 だけど、家が燃えるのを見守ることしかできなかった。

 

 あの日から俺は一人になった。


 ***


 「ねみーー」

 

 そんなことを俺は言っていた。

 

 灰色のコンクリートで作られた屋上に寝転がる。

 

 遠くからはどこかの教室からの教師の声が聞こえてくる。

 

 誰かはどうでもいい。

 

 ただ寝てたい。


 ここ一年くらいずっとこんな感じだ。時々こうして屋上に行きたくなる。


 真面目に授業を受けて勉強して、それで何になるというのだろう。あほらしい。


 そうしていると誰かが来た。

 

「山田。またサボり?」

 

 来たのはクラスの女子の加藤だった。相変わらずポニーテールが目立つ。

 

 今は放課で、それで来たのだろう。

 

 多分俺がいることも知っていたはずだ。

 

「まあな。やる気がなくてさ」

 

「やる気がないのに学校には来たわけ?」

 

「別にいいだろ、家にいても仕方ないしな」

 

「そういうものなのね」

 

 加藤は割とどうでもよさそうに言うと、俺の傍に座った。

 

「ほら、水あげる」

 

「サンキュ」

 

 ペットボトルの水をくれたので素直に受け取る。

 

 そして俺は上体を起こすと、座り込んだ。

 

 ペットボトルの水を飲む。冷たい水が美味しい。

 

「山田も次の授業は戻った方がいいよ。清水の授業だから」

 

「そういやそうだっけ。分かったよ。次は戻る」

 

「うん、そうしな。私も毎回清水があんたのことで愚痴るのうるさく思ってたし」

 

「あいつそんなこと言ってるのかよ、放っておけばいいのに」

 

「そりゃあんたが堂々サボるからでしょ」

 

「別にいいだろ?」

 

「サボるなら、家とかでサボればいいじゃない。わざわざ学校にくるのは意味わからない」

 

「まあなー」

 

 俺はその意見は理解できてしまった。


 とはいえ、あのマンションの部屋でいても、誰もおらずがらんとしているだけだ。


 母が俺が宿題をやってないのを咎める声や、父が冗談を言って笑う姿。姉がリビングでテレビをずっと見ている光景も見ることはない。

 

「……そろそろ一周忌だもんね」


 視界に赤い建物が見える光景がよぎる。皆はもういない。


「……」


「ごめん。悪かったよ」

 

「いや、いいよ。いい加減俺も前向かないとな。ずっとサボってるわけにもいかないし」


「……別にあんたがそうなるのは仕方ないと思うけどね。ま、やる気がある時に頑張ればいいんじゃない? 少なくとも高校の間は見守ってあげるわよ。その後はあんた次第」


「厳しい奴だな」

 

「そりゃそうでしょ。とにかく、次の授業は来なよ。私はもう行くから」

 

「分かったよ。あとで行く」

 

 加藤が去っていく。


 もう少しいてくれてもよかったんだが。

 

 俺は水を飲んで空を見上げた。


 日常の跡で澱んでるのが馬鹿みたいに感じられた。


 俺は立ち上がり、屋上を去った。





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