ゲームの魔王と勇者たち
「ある日の魔王と勇者たち」から改題しました。
※本作は「ラスボスと空想好きのユア」本編のネタバレを含みます。ネタバレOKな人はこのままお進みください。
この話は、フィーヴェという名の異世界が魔王ディンフルに支配されていた時のものである。
ディンフルは「ディファート」という名の種族で、恋人・ウィムーダを殺害されて以来、人間を嫌うようになった。
自身に逆らう人間を異次元へ送り、いずれはフィーヴェをディファートのみの世界にしようと目論んでいた。
そんな魔王を倒そうと、数々の勇者が挑みに来た。
だがディンフルは戦闘力に長けており、どんなに鍛え上げた人間でも敵わず、異次元へ送られた。
今日も勢いよく突っ込んで来る勇者に対し、ディンフルは玉座に座ったまま武器の大剣を振った末に、相手を消してしまった。
「手ぬるい。もう少し、私を驚かせる者は現れぬのか?」
今日だけで既に数人を異次元へ送っていた。
自身もこの行為に飽き飽きとしている。
退屈そうに足を組んで玉座に座っていると、傍らに置いてある黒い水晶玉から声が聞こえた。
「ディンフル様。新たな勇者がそちらへ向かっております」
水晶玉は、離れた場所から監視する部下と対話するためのものだ。
報告を聞いても、ディンフルは驚かなかった。
「また私より弱く、すぐに片がつく勇者だろう。相手にする前からわかる」
こう思っていたために、顔を合わせることすら面倒に感じていた。
部下の通信からまもなくして、王の間の扉の向こうに気配が感じられた。
勇者は自分から開けて入るだろうと思い待ってみたものの、扉が動く気配が無い。
「仕方あるまい。早く顔合わせをして、早く終わらせよう」
ディンフルが渋々と指を鳴らすと、扉はゆっくりと両開きに動いた。
勇者たちの姿が露わになった。
やって来たのは……。
「あっ! ドアがかってにひらいた!」
「おもかったから、よかったー!」
「みて! あれ、まおー・ディンフルだ~!」
「すごーい! しゃしんといっしょだー!」
「ホンモノだ~!」
武器(と言っても小さくて危なくないもの)を持った、十歳未満の五人の子供だった。
勇者の男児、武闘家の男児、戦士の男児、黒魔導士の女児、白魔導士の女児と、役割がきちんと決まっていた。
ただ、子供なのでまともに戦えるかは怪しかった。
彼らはディンフルを見ると、目を輝かせた。
倒すべき相手だが、名が知られている彼を生で見るのは初めてで興奮しているのだ。
想定外の相手に、ディンフルは目が点になった。
「子供……? 何故だ?」
「あ、いけない! ディンフル―! われらが、きたからには、すきには、させないぞー!」
勇者役の男児が我に返り、魔王を指して叫んだ。
しかし、子供らしくたどたどしいテンポだったので、ディンフルは当然怯まなかった。
勇者役に続いて、他の子供も口々に言い出した。
「そうだ、そうだー!」
「わるものは、ゆるさないぞー!」
「ぼくたち……じゃなくて、われら、“ディンフルやっつけ隊”が、やっつけてやるー!」
「かくごしろー!」
「“ディンフルやっつけ隊”? そのまんま過ぎるだろう……」
ディンフルは勇者の部隊名に呆れながらも、傍らの水晶玉に話しかけた。
「おい。子供が来たのだが、どういうことだ……?」
すぐに返事が来た。
「は……。我々も帰そうとしたのですが、あまりにもやる気満々だったので。だからと言って傷つけると、厄介なことにもなりそうですし……。ディンフル様、かつて育った施設で子供の世話をしていたそうですね? その経験を活かして何とかして下さい」
「そのようなことを言われてもだな……」
ディンフルが子供の世話をしていたのは、魔王になる前。
だが、魔王になった今でも子供には手が出せなかった。子供が魔王である自分に勝てないのがわかっていたからだ。
それに、いい歳して小さい子供を倒してしまうと、大人としてのプライドが傷つくと思った。
だからと言って、子供に優しかった時のようにも振る舞えなかった。それはそれで、魔王のプライドが傷つくからだ。
「どうすれば……?」
対応に困っていると、子供勇者たちが攻撃を仕掛けて来た。
まず、武闘家男児がパチンコを撃って来た。
本来、武闘家は肉弾戦を主とするが、まだそこまで体が鍛えられていないのだろう。
玩具の弾がディンフルに命中するも、痛くもかゆくもなかった。
「やったー! やっつけたぞ~!」
「まだ生きてるでしょ! パパが言ってたわ! まおーが死んだ時にはじめて、わたしたちが、勝つって!」
「じゃあ、まおーを殺そ~!」
子供なのに物騒な物言いに、ディンフルは思わず寒気がした。
「どんな教育をしているのだ、親は……?」
続いて、黒魔導士の女児が炎魔法を唱えた。
ディンフルに炎が迫るも、蝋燭の上で灯るサイズのものしか出なかった。高レベルの魔法は教えてもらえなかったようだ。
彼は小さな炎に息を吹きかけて消してしまった。まるで、誕生日ケーキのろうそくのように。
「わたしのまほーが効いてない!」
黒魔導士の女児が泣きそうな顔になった。
続いて、白魔導士の女児が前に出た。
「なかないで! わたちのまほーで、まおーをよわらせてやるっ!」
一行の先頭に立とうとしたその時、白魔導士の女児はつまずき、うつ伏せに倒れてしまった。
「いたいよ~!」
黒魔導士の女児を慰めるつもりが、自分が泣く羽目になってしまった。
「まおーめ! よくもやったな~!」
武闘家の男児が怒りを露わにする。
「何もしていないのだが……」
武闘家の男児は今度は袋に詰めていた石を一個ずつ、彼へ投げ付けた。
しかし全て外してしまい、ディンフルは一切ダメージを負わなかった。
「これで、ヤケドさせてやる~!」
次に戦士の男児が小さな鉄砲を出し、液体を発射した。
ディンフルの顔に掛かるが、ただ冷たいだけだった。
「まいったか?! オレの手づくり・ねっとーでっぽーだ!」
「熱湯鉄砲? まったく熱くないぞ……」
戦士の男児は水鉄砲の中に熱湯を入れたそうだが、ここへ来るまでに冷め、水になってしまっていた。
「オレのてっぽーも、きいてない~!!」
ここまで五人中四人の戦法が効かず。
最後に残った勇者の男児は武器を持って、ディンフルへ向かって走り出した。
「こうなったら、さいしゅーへーきだ~!」
手にしているのは、ままごと等で使うおもちゃの包丁。
危険性はまったく無かった。
男児が刃を向けて駆けて行くと、ディンフルはすかさず大剣を出し、包丁を受け止めた。
もちろん、力は加減している。
初めて生で見る大きな剣に勇者の男児は顔が青ざめ、持っていたおもちゃの包丁を落としてしまった。
四人の子供たちも言葉を失った。
ディンフルは大剣を消すと、落ちていた包丁を拾い、男児の手に握らせた。
「こんな物を振り回したらダメだろう! 本当に切れるものだったらどうするんだ?!」
わざと怖い顔をし、思わず子供の面倒を見ていた時みたいに注意をした。
ディンフルがたしなめると、子供たちは一斉に泣き出した。
「もう帰りなさい。ここは君たちが来る場所じゃない……」
ディンフルはため息まじりに言うと、指を鳴らした。
号泣する子供勇者たちは魔法の球体に包まれ、その場から消えてしまった。
再び一人になったディンフルは水晶玉へ声を掛けた。
「勇者ごっこをしていた子供たちだが、故郷へ帰した。さすがに異次元へは送れなかった……」
◇
再び玉座に腰掛けていると、水晶玉から通信があった。
「ディンフル様。次の勇者が参りました」
「そうか」
先ほどの子供勇者には度肝を抜かされたが、珍しいタイプは立て続けに来ないだろう。
そう思っていると早速、王の間の扉が開いた。
「来たか」
戦闘態勢に入るディンフル。
扉はゆっくりと開かれていく。
「おっも! 何だよ、このドアは?!」
「この場合は”扉”の方がいいぞ!」
「どっちでもいいじゃねぇか!」
「良くない! 言い方一つで表現は変わるんだぞ! 考えろよ、バカ!」
「バカって言う方がバカなんだ!」
まるで子供みたいなやり取りをしながら、五人の若い勇者が必死に扉を開けていた。
先ほどの子供勇者よりは年上だが見た目は十五前後と、今まで来た中では若い部類に入っていた。
全員男子の勇者だが、赤、青、黄色、緑、紫と、鎧がキレイに色分けがされていた。
ディンフルからすると、彼らも子供だった。扉を開ける際のやり取りと言い……。
「お! いたぞ! あれがディンフルだ!」
「すっげぇ! 本物だぁ~!」
名の知られている者を目の前に興奮するのは、子供勇者と同じだった。
「ディンフル! 俺たちはお前を倒すために来た、魔王……“退治”隊だ!」
代表で赤勇者が叫ぶが、途中で言葉を詰まらせた。
隣の青勇者から指摘が入る。
「何だよ、退治隊って?」
「魔王を倒すための部隊名だよ! 来る前に決めたろ?」
「決めたけど、そんな名前じゃなかっただろ」
「魔王“駆除”隊だよ!」
少し小太りの黄色勇者が話に加わった。
「駆除も違う! それじゃあ、害獣や虫みたいになるだろ!」
青勇者がつっこんだ。
「“討伐”だよ」
眼鏡を掛けた緑勇者が呆れながら言った。
「そう、それ! 討伐だ! お前、頭いいな!」
「お前らがバカなんだよ」
「何ぃ?! バカって言う方が……」
「はいはい! 魔王の前だぞ! いつもみたいにふざけるな!」
嘲る緑勇者へ赤勇者が怒り、青勇者が諌める。
一方、まだ話していない紫勇者は四人から離れて手帳サイズの本を開いていた。
「よし! 訓練の成果を見せるぞ! ……って、お前何やってんだよ?!」
やる気満々の赤勇者が紫勇者へ怒りを向ける。
よく見ると、紫勇者が持つ本の表紙には大きく「パズル」と書かれていた。一人遊びをしていたのだ。
「ラスボスの前で、何遊んでんだ?!」
「だって、お前らがいつまでもふざけてるから飽きちゃってさ。俺、もう帰っていい?」
「ふざけてないし、帰るな!!」
今のやり取りから赤は熱血、青は冷静、黄色は少々鈍く、緑は頭脳明晰、そして紫は自由奔放だとわかった。
ディンフルは同じイメージカラーの紫勇者へ激しく同調した。
(私も自室へ帰りたい。今すぐに……)
赤勇者に怒られ、紫勇者が渋々やる気を出したところで、五人の攻撃が始まる。
「覚悟しろ、ディンフル!」
威勢よく武器を出そうとするが、五人は何かを探すようにうろたえ始めた。
「剣は……?」
「お前が持って来たんじゃねぇの?」
「いや、くじ引きでお前に決まったじゃん!」
「くじ引きなんてしたか? 話し合いじゃなかったの?」
赤勇者と黄色勇者が言い合う。
どちらの意見が正しいのかわからず、他の三人も唖然とした。
「じゃあ、武器は何があるんだよ?」
「弓矢と杖」
「はぁ?! 俺らは勇者だぞ! 勇者と言えば剣だろうが! そもそも弓矢はわかるが、杖って何だよ?! この中に魔導師なんていないだろ!」
「剣ばかりだと偏るから弓矢も買ったんだ。で、“弓矢を五つ買ったら杖一本プレゼントキャンペーン”なんてのもやってたんだ」
「何だよ、それぇ?!」
赤勇者と黄色勇者を、三人とディンフルは呆れて見ていた。
ディンフルは余計に心配になってきた。
(まだ、子供勇者の方がしっかりしていた気が……)
途方に暮れる赤勇者へ紫勇者が言った。
「大丈夫だ。こんなこともあろうかと、独学で魔法を身につけた」
「本当か?!」目を輝かせる赤勇者。
「ああ。お前らの話って基本つまんねーから、普段雑談に参加してるふりして魔導書読み漁ってたんだ」
「つまんねーなら、グループ抜けろよ」
相手の告白に怒りを感じながらも、赤勇者は彼に託した。
紫勇者が前に出る。
「ようやく始まるか」
退屈していたディンフルが座りながら構えると、紫勇者も呪文を唱え始めた。
しかし、途中で止まってしまった。
「どうしたんだ?」声を掛ける緑勇者。
「……この続き、何だっけ?」
呪文をど忘れした紫勇者へ「知るか!!」と、声を荒げる四人の勇者たち。
ディンフルも愕然とした。
(その魔法はそんなに難しい呪文では無かった筈だが……)
「こうなったら、直接攻撃だ!」
赤勇者が怒りながら提案した。
「直接ってどうやって?! 剣が無いんだぞ!」
「弓矢があるだろ!」
諌める青勇者へ自信満々に答える赤勇者。
剣も魔法もなく、唯一ある弓矢に頼るしかなかった。
勇者五人は弓で矢を射るが、すべてディンフルの大剣で相殺されてしまった。
元々、矢の威力は無く、まったく違う方向に行くものもあった。何故なら……。
「この中で誰か、弓矢の訓練受けてたか?」
「受けてない。全員、剣志望じゃん」
全員生まれて初めての弓装備だったので、当然ディンフルにダメージはいかず。
しまいには、やけくそになった赤勇者が杖を投げ付けるが、見事にかわされてしまった。
「ここまでのようだな……」
ディンフルはため息をつきながら、玉座から立ち上がった。
若者勇者たちは一斉に怯んだ。
「ヤバい、仕返しが来る……。お、お前、前行けよ! 俺、後ろ行くから!」
「自己中だな、お前!」
恐怖で気が動転したのか、自分より明らかに弱そうな黄色勇者を前へ押し出す赤勇者。
黄色勇者が反発すると、他の三人の冷たい視線が赤勇者に刺さる。
「こうなったのも、剣を持ってこないお前が悪いんだろ!」
「何だよ?! お前だって魔法覚えて来なかったじゃねーか!」
再び言い合い始める紫勇者と赤勇者。
その様子にディンフルはまた呆然とした。
(チームワークもへったくれも無いな……)
五人はディンフルが召喚した球体に包まれ、そのまま城を出た。
王の間にまた一人になった彼は、水晶玉へ呼び掛けた。
「どうしようもないほどの未熟者共を故郷へ帰した。何故、道を譲った?」
最後は怒っているトーンだった。
「あ、故郷へ帰したんですね……。いやあ、彼ら相当のバカだったんで、却ってディンフル様にしごいてもらった方がいいと思って、行かせたのですが」
「処理に困るからと寄越されても困る……。私は魔王であり、バカを調教する者ではないのだぞ」
◇
ある意味、退屈しのぎにはなったが、妙に疲れたディンフルがコーヒーを飲んで安息の時間を過ごしていると、また水晶玉から声が聞こえた。
「ディンフル様。新たな勇者が参りました」
「二度あることは三度ある」と言うので、ディンフルは「またか……」とうんざりした。
しかし、子供も若者もこれまでに例を見ない勇者たち。
「さすがに似たような者はもう来ないだろう」と、自分に言い聞かせるのであった。
本人たちが根性で再び来ればの話だが……。
考えていると、王の間の扉がゆっくりと開かれた。
扉の向こうから、きりりとした表情で真っすぐに魔王を睨む好青年の勇者が姿を現した。
(今度はまともそうだな)
ディンフルは心の中で安堵すると、魔王らしい口調で勇者へ話しかけた。
「よく来たな、勇者よ」
「魔王ディンフル! フィーヴェを救うべく、お前を倒す!」
「フン、来るがいい」
異質な勇者が二度続いたので、心なしかディンフルは嬉しそうだった。
玉座から立ち上がり大剣を出すと、新しい勇者も自身の剣を構え始めた。
ピピピピピ……
どこからか電子音が聞こえた。
「……少しだけ待て」
勇者は魔王を制し、相手に背を向けると、ボトムスのポケットから通信機を出し、耳に当てた。電子音は通信機の着信音だったのだ。
「はい」と真面目な声で対応した次の瞬間……。
「おやぁ? 誰かと思ったら、ハニーかぁい?」
冷静さから一転し、勇者は甘い声を出し始めた。
相手は彼の恋人だった。
「だいじょーぶ! 俺はちゃんと生きてるよん! 今、魔王のとこに到着したとこだよぉ。どうしたんだぁい、こんな時まで連絡して来て? 寂しかったのかぁい?」
勇者の変わりっぷりに、ディンフルは再び戦意を無くしてしまった。
「な、何なのだ……?」
後ろで魔王が呆れていることにも気付かず、勇者は甘い声で対応し続けた。
「俺も寂しいよ~。こんな戦い早く終わらせて、ハニーに会いたいよ~。……え? “私もダーリンに会いたい?” 嬉しいこと言ってくれるねぇ~。ハニーのそういうところ、大好きだよ~。……ん? “本物の魔王はどんな感じ”って? そうだなぁ……」
勇者は通信をしながらディンフルへ向き、まじまじと見つめ始めた。
「パッと見、威圧感はすごいな~。魔王のオーラってのをめっちゃ感じる。無駄に高身長だし、長髪で」
「は……?!」
勇者の「無駄に」の言い方にディンフルは苛立った。
「そう! ロン毛なんだよ、魔王! 何か、“髪伸ばしてる俺、かっこいいだろ”的な感じがするんだよね。俺は真似出来ないな。あそこまで伸ばすと邪魔になるし、手入れも面倒くさそうだしで。……何? “髪の短いダーリンの方がカッコいい”って?! ありがと~う! 伸ばせばいいってもんじゃないよね~! よく伸ばしてるなって思うよ~。相当、時間ある……つまり、暇なんだねぇ。てか、俺のこと、カッコいいって言ってくれるの、ハニーだけだよ! 俺もハニーのこと、フィーヴェ中で……いや、異世界含めた世界中で、いっちばん愛してるよ! チュッ」
勇者は通信機に口付けをした。
「じゃあ俺、魔王と戦って来るからね~。倒したお祝いに、帰ったらたっくさん“好き”って言い合おうね~。それじゃ、後ほど。愛しのマイハ・ニ・ィ」
勇者は最後にもう一度、口付けをした。
通信機を切りポケットにしまうと、再びディンフルへ向いて剣を構えた。
「待たせたな、ディンフル。覚悟!」
恋人と話していた時と打って変わって、再び真面目なトーンになった。
ところが魔王の方は明らかに怒りのオーラが全開で、まるで鬼瓦のような顔で勇者を睨みつけていた。
「な、何だ、この怒りにも似た妖気は?! これが、魔王のオ……」
「貴様のせいだろう!!」
ディンフルは勇者が言い終える前に怒りをむき出しに魔法を使い、あっという間に相手を異次元へ送ってしまった。
「本人の前で侮辱とは無礼にも程がある! 何なのだ、“髪が長いイコール暇”とは!? 聞いたことがないっ!」
再び一人になったディンフルは膝から崩れ落ちた。
「一度も無いのだぞ。ウィムーダとあのように戯れたことが……」
勇者とその恋人のやり取りを見ていた彼は、亡き恋人・ウィムーダに想いを馳せ始めていた。
「いや、羨ましくなどない。あんなバカみたいに騒ぐなど、我々には不似合いだ。だが、あいつが生きていて、ましてや種族の壁が無く差別を受けずに生きていれば、もしや……。いや、羨ましくなどないっ!」
「羨ましくない」と敢えて二回言ったディンフルは、しばらくしてまた玉座に腰を掛け、今の勇者の存在そのものを忘れようと努めた。
ある意味、子供勇者と若者勇者よりも厄介に感じたからだ。
◇
まもなくして、水晶玉から知らせが届いた。
「ディンフル様! 新たな勇者一行です! 今度のパーティは赤髪の勇者、青髪の白魔導士、金髪の武闘家、黄緑色の髪の女性武闘家、紫のローブをかぶった黒魔導士の計五人です!」
「報告ご苦労……」
ディンフルはどっと疲れながらも、赤髪の勇者一行と向き合う準備を始めた。
近い将来、彼らと運命を共にすることも知らずに……。
(完)
いかがでしたでしょうか?
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セルフチェックはしておりますが、気になる箇所がありましたらご指摘ください。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。