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雨女(紫雨と美雨)の行方  作者: 悠木 泉
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晴れ女

 桐生家の一人娘の優美子さんが、日照りの元凶だと私と紫雨ちゃんは確信する。彼女は生来の晴れ女。加えて何か作為的に力を発揮している。

 それが何か分からなければ解決出来ない。子供の頃から優美子さんの世話をしてきたという、お手伝いさんの絹さんは優しい人だ。

「優美子さんは、人と馴染むのが苦手なので、昔からお友達が少ないんです。ですから、今日は幼馴染みの柾さんが来られると聞いて、喜ばらています」

「そうですか。暫くアメリカに留学されていたとお聞きしましたが」

「はい。あちらの大学を出られたあと、日本の企業でアルバイトを1年されて、先月、帰国されました」

「アメリカでのお話ききたいですね」私が言うと

「同じくらいの若い女性のお友達もいらっしゃらないので、今日、お二人がいらして、私も嬉しいです。よろしければ、お友達になってあげて下さい」

「優美子さんのお母様は早くに亡くなられたのですか?」と紫雨ちゃん。

「はい。優美子さんを出産されてまもなく。元々、お身体がご丈夫ではなかったんです」

「それから、絹さんがお母様代わりにお世話されたんですね」

「そうです。私は優美子さんのお母様の遠縁に当たる者で、両親は先代様のもとで働いていたこともあり、信頼して頂きまして」

「お父様もお寂しいことでしょうね」

「はい。旦那様はお忙しくて滅多にこちらに居られません。日本各地の名産品を扱うお仕事をしておられますから」

 応接間に戻ると優美子さんと柾さんは、アメリカでの話を続けていて、お茶を飲んでいた。私たちも話に加わろうとするが、邪魔されたと言わんばかりに「それじゃこの辺で」と部屋を出て行ってしまう。慌てて、挨拶をして、絹さんに見送られて私たちは桐生家を後にした。

 柾さんは「昔から、ああいう人だから。許して下さい」と言う。紫雨ちゃんは彼の優しさは分かるが、優美子さんをかばう柾さんが悲しかったようで、柾さんが話しかけても黙っている。私は二人だけにしようと、「忘れ物をした」と言ってもと来た道を引き返した。振り向くとしょんぼりしている紫雨ちゃんの手を柾さんが取って、手を繋いでいる。私は安心して、桐生家に戻った。

 忘れ物をしたと中庭を見て回る。広くはないがきちんと手入れのされた落ち着く空間だ。

「どうされたの?」いつの間にか優美子さんが縁側に立っている。あらかじめ、庭草の間に落としておいたハンカチを「ここにありました」と拾い上げた。庭の隅には古い井戸があり、水は深い底から湧き出ているらしく、十分な水量を保っている。村が日照りでも、大して困らないだろう。

「村は日照りであちこち干上がっているのに、こちらの井戸は渇れるどころか、水が豊富ですね」私が言うと、彼女は「そうね。古井戸だから渇れないんでしょう」

「田植えが出来ないから、村人たちが楓さんを、雨神様の生け贄に出せと言っているのをご存じですか?」

「ちらっとは聞きました」

「柾さんの妹さんですよ。現代に生け贄なんて時代錯誤もいいところだとは思われませんか?」私が問うと

「時にはそれも必要かも。背に腹は代えられないとも言いますから」と冷たく言放つ。

「柾さんとは幼馴染みと聞いています。それなら、楓さんとも同じでしょう?」

「あの子は関係ないの。それに柾さんとは血は繋がっていない。赤の他人なのよ。それなのに……」優美子さんは言いかけて黙った。それ以上は言いたくないという風に、視線を逸らすと「ごきげんよう」と言い残し部屋の奥に入って行った。

 私はその時、優美子さんの楓さんへの憎悪を感じた。

それもかなり奥深い憎悪を。

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