元凶
私と紫雨ちゃんにしか分からない事だろうが、実感として、この村の日照りの原因は自然現象ではなく、別の大きな力が働いている気がする。
その力が何なのか、出所はどこなのかを突き止めなければならない。村人たちは懲りもせず、佐久田家に来ては早く楓さんを生け贄にしないと、日照りのまま田植えの時期に入ると訴える。芒種(6月5日から20日頃)までに雨を降らせたいと言う。
自分勝手も甚だしい。
「あと、一月はありますから、待って下さい」お父さんは怒りもせず頼んでいる。こんな、ひとの良いお父さんのためにも一日でも早く解決しよう。私と紫雨ちゃんは、早速、気になる方向を目指して、村を回る。こちらに来て3日目の朝、田畑も花も草も潤いを失くし、水辺にいるべき蛙や魚の姿もない。何より、村人たちが人としての潤いを失くしている。潤いを失くした心は枯れて、わがままで自己中心的になり、他者への思いやりなど忘れてしまう。
私と紫雨ちゃんは同じ方角が気に掛かる。そちらに進んで行くと、2階建の現代風のデザインの邸宅が見えて来る。「あの建物から強い邪気を感じるわね」紫雨ちゃんが言う。「本当に。凄いエネルギーだわ」と私。
まだ二人とも感じたことのないものだ。
更に近づくとより、威力を増すようだ。表札には「桐生」とある。ひとまず、ここの家人を知る必要があるので、一旦佐久田家に戻る。
「桐生さんは、この村一の資産家で大金持ちです。当主の桐生さんと一人娘の優美子さんと母親代わりのお手伝いさんの3人家族です」とお父さん。
「優美子さんとお兄さんは小学校、中学校のクラスメイトだったわよね」と楓さんが言うと、柾さんは「そうだけど。彼女は隣の県の高校に進み、その後アメリカに留学して、最近帰って来たらしい」
「私も長い間会ってない。お元気かしら」と楓さん。
私たちはその優美子さんに会ってみたいと言う。
「それなら僕が連絡してみます」
翌日の午後、柾さんと一緒に桐生家に出掛けた。
お手伝いさんが「まあ、柾さん。お久しぶりですね。お元気でしたか?」と笑顔で言う。
「はい。ご無沙汰しています。絹さんもお元気そうで」案内されて、モダンな大邸宅の応接間に入る。
暫くして、この家の一人娘の優美子さんが現れる。長身だが、残念なことにお世辞にも美人とは言いがたい。流行りの服装も似合うとも思えない。
「暫くぶりね。柾さん」
「何年振りかな」
「5年振りよ。私がアメリカに行く前に会って以来だもの」少し、高飛車な口調で言う。
柾さんは私と紫雨ちゃんを紹介してくれる。建築に興味があって、中を見学したいからとの口実。
「こんな所で良ければ見て行って」と承諾して貰えほっとする。お手伝いさんの絹さんに案内を頼むと優美子さんは柾さんに今までのことを話し始める。柾さんに会いたかったようだ。紫雨ちゃんは少し気にかかるようだが私と一緒に応接間を出た。
「元凶は優美子さんね。凄い力だわ」
「私たちが勝てるかしら」私は心配になってくる……。