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雨女(紫雨と美雨)の行方  作者: 悠木 泉
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日照りの村

 畦道で立ち往生した車椅子の18才の楓さんを助けたご縁から、私、美雨と紫雨ちゃんは楓さんの家に逗留することになった。

 お父さんは役場勤めのかたわら農業もしている。お兄さんの柾さんは地元の大学を出て、村の農業試験場で有機農法の研究をしているとのこと。楓さんは絵画教室に通いながら、色々な絵を描き販売もしている。夕食の時間になり、ご家族が囲炉裏の周りに集まる。親を亡くしている、私と紫雨ちゃんには、懐かしい光景だ。

 地野菜に、鶏肉、小麦粉を練ったお団子がたっぷりの味噌味のお鍋を頂く。デザートには摘みたての甘いいちご。食事が終わると、楓さんが挽いたというコーヒーをいただきながら、私たちが一番気に掛けていること、雨に恵まれていないことを聞いてみる。

「その通りです。ここずっと雨が降らなくて困っています。もうすぐ田植えも始まるのに、田んぼは乾いているし、これでは死活問題です」お父さんの佐久田さんは本当に困っている様子。

「僕も何か良い方法はないかと調べはしましたがこれといったものは見つかりません」と柾さん。

「元々、雨の少ない所なんですか?」と紫雨ちゃん。

「いいえ。これまでは適度に降ってくれてました。田植えに困ることはありませんでした」

「父のいう通り。僕も困ったという記録も見ていません」「そうですか。それはお困りですね」私はますます、何か良からぬものの仕業のような気がしてくる。

 翌日も5月晴れの良い天気で、天気予報もずっと晴れ。いよいよ危ない感じがする。

 朝食の用意は私たちも手伝い、トーストとサラダ、オムレツといんげん豆のソテー、コンソメスープ、苺、コーヒー。ご家族はお客様だから何もしないでと言われるが、元から料理好きなのでキッチンに立つのは楽しい。

 今日は日曜日で、朝食後は皆さんゆっくりしている。

心地好い風の入る部屋に移ろうと、襖の前まで来ると、お父さんと柾さんが話しているのが聞こえた。私たちを見て二人とも黙ったが真剣な顔をしている。

「お節介なようですが、何かあったのですか?」私が尋ねると、柾さんが切り出した。雨乞いの為に未婚の若い女性を犠牲にする話が持ち上がっている。楓さんに白羽の矢が立ったというのだ。

「そんな、今は21世紀ですよ。雨乞いの為の生け贄なんて、どうかしています」珍しく怒りを口にする紫雨ちゃん。

「本当です。そんなこと断じてあってはならないことです」私も腹が立って来る。

「しかし、どうしようもないんです。雨が降らなければ、村人皆の生活、いえ、命にも関わることですから。私は元庄屋として、村人を守る義務があります」

「お気持ちよくわかりますが、その為に一人娘さんの楓さんの命を奪うなんて。何か良い策がないか私たちも考えますから、速まったことだけはしないで下さい」熱く紫雨ちゃんが語る。

「そんな方法があるでしょうか……」お父さんの言葉が続かない。

 私たちは村を見学したいと柾さんに案内を頼む。三方を山に囲まれ、小川が流れているだけで水らいし水の姿はない。海は勿論、湖もなく、水田の為の溜め池が3、4個あるがすべて干上がっている。

「どうして、楓さんに白羽の矢が立ったんですか?他に若い女性はいないのかしら?」私が聞くと柾さんは

「いないことはないですが、皆、自分の娘さんを差し出したくはない。だから協力して、こういう時は元庄屋の娘をと意見が一致しているんです」

「なんて、理不尽で身勝手なんでしょう」呟くように紫雨ちゃんが言う。

 最悪、私たちが雨を降らせば楓さんは助かる。それは決めておいて、それまでに出来ることをしようと私と紫雨ちゃんは心を決める。

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