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雨女(紫雨と美雨)の行方  作者: 悠木 泉
2/17

出会い

 新緑が心を癒す山々に囲まれた、こののどかな村に足りない何かが雨だと気付いた私と紫雨ちゃんには使命感が湧いている。雨女としての使命感だ。ここで私たちが手を天に差し上げれば雨が降り事は終わるだろう。

 しかし、それでは何の解決にもならない。一時逃れられても、また、すぐ同じことが起きる。日照りならその原因を突き止め、改めなければならない。

 家並みが少しずつ大きくなってくる。集落に近づいて行くと確かに田んぼの土は乾いているし、道端に咲くあかつめくさも萎れている。もうすぐ田植えのシーズンに入るのにこのままでは、難しいかもしれない。大きめの旅行鞄を持ちショルダーバッグを斜めがけにして歩いて行くと、畦道に入り込んで、動けない車椅子が見える。足早に近付くと、乗っているのは若い女性。二十歳くらいか、長い黒髪を後ろで一つにまとめている。車輪が土の窪みにはまり動かないのだ。

「大丈夫ですか?」私が問うと

「車輪が窪みにはまったようで動けないんです」彼女が言う。

「今、持ち上げますからじっとしていて下さいね」私と紫雨ちゃんは力を合わせて車椅子ごと持ち上げる。雨女だから普通の女性より力はある。

無事に歩道に上げると彼女は「本当に有り難うこざいます。お陰様で助かりました。お二人ともお怪我とかありませんか?」と言う。

「大丈夫ですよ」紫雨ちゃんが答えるとにっこり微笑んだ。

 楓と名乗った彼女が是非家に来て欲しいと誘ってくれるので、送りがてらお邪魔することにした。達筆で「佐久田」と書かれた木の表札が目に入る。

 山門を思わす立派な門をくぐると年季の入った木造りの立派な母屋が現れる。楓さんが声を掛けるとお父さんが飛んで来て「遅いから心配していた。今から出迎えに行こうと思っていた」と言う。

楓さんが経緯を話すと「お世話になり有り難うございました。良ければ、夕飯でもご一緒に」と勧めて下さる。楓さんにも熱心に勧められお言葉に甘える事にする。

 私たちにすれば、日照りの原因が分かるかも知れないと言う思いがあった。

 どこか懐かしい古き良き日本の現風景を思わせる、囲炉裏のある部屋に通される。天井には黒光りしている、太い梁が真横に貫いている。囲炉裏には鉄製の大鍋が吊りさがり、美味しそうな味噌の香りがする。5月なので、火は入っていないが寒い時期ならより風情があるだろう。旅支度をといて、囲炉裏を囲んだ座布団に座る。長年厨房を任されているという、年配のお手伝いさんが、持ってきた冷たい麦茶を頂き人心地つく。

 着替えた楓さんとお喋りする。私たちの自己紹介と楓さんが18才で絵を描いていること、子供の頃、自転車ごと転倒し、その時脊髄を傷めたことで車椅子生活になったことなど。

「私はなかなか遠出は出来ないので、お二人の旅のお話いろいろ聞きたいです。部屋は沢山ありますから、良ければしばらく居て下さいませんか」彼女の申し出は本当に有難いが、そこまで甘えて良いものか。紫雨ちゃんと思案していると、お父さんとお兄さんだと言う若い男性が入って来た。お兄さんは背の高い、優しい顔立ちのイケメンさん。

「妹がお世話になったそうで有り難うございました」とお礼を言われる。すかさず、楓さんが「今ね。お二人にしばらくここに居て下さいってお願いしていたの。お兄さんからも頼んで」と言う。

「良かったら是非そうしてください」お父さんにも頼まれて、私たちは喜んでご厄介になることにした。

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