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雨女(紫雨と美雨)の行方  作者: 悠木 泉
12/17

真実

 雨神様への正しいお願いの仕方を聞いた村人たちは揃って神社に向かった。あとは私と紫雨ちゃんが雨神様にお願いをすれば、この日照りは治まるだろう。

 しかし、それは一時しのぎでしかない。私たちが去ったあとは今のように、村人たちが、困ったら神様に喜んで貰えるお参りをして、生活して行く。その切っ掛けになれば良いと思った。

 暫くして、街の楽器店にピアノ線を買った人が居ないかを尋ねに行った、柾さんと紫雨ちゃんが帰ってきた。

「村でピアノ線を買う人は、ほぼ居ないから、取り寄せたので台帳に残っていました。日付は楓の事故の日。名前は漆原幸太です」

「この人は優美子さんの家の庭師で、柾さんもご存じの方なんですって」と紫雨ちゃん。

「早速、幸太さんに会ってきます。紫雨さんは疲れたでしょうから休んでいて」柾さんは微笑むと、自転車で出ていった。

「良いわね。柾さんは優しいから。紫雨ちゃんが羨ましいな」おどけて言うと、紫雨ちゃんは真顔で「ごめんね。美雨ちゃんを一人にして」

「違うよ、違う。私は紫雨ちゃんが恋をしているのが嬉しいの。何より、彼はあなたが愛するに相応しい素敵な人だもの」

「有り難う。私には勿体ない人よ」部屋に戻ると、村人たちの一件を話した。

 もう一つの難題は強力な晴れ女、プラス柾さんを好きなあまり、楓さんへの嫉妬心を抱き、更にパワーアップしている優美子さんの力を押さえることだ。これが有る限り、村人たちの一体化した願いも叶わないかも知れない。彼女に改心して貰うしか、打つ手はない。

 夕飯の支度の手伝いを二人でしていると、柾さんが戻って来る。

「幸太さんに、会って聞いたけれど、庭仕事に使うために買ったということで、楓を転ばせるために使ったという証拠はありません」がっかりした様子の柾さんに明るく「ご苦労様でした。お茶を淹れますから」と紫雨ちゃんが微笑む。

「有り難う」とても良い感じだ。誰かの為に喜ぶことをして相手がそれを喜んでくれたら、これ程の幸せ感はないと思う。その相手が好きな人ならなおのこと。紫雨ちゃんは本当に恋する、優しく、穏やかな女性の顔をしている。元もと、美しいが、感情が表に出ない分、近寄りがたい雰囲気だった。それが、今は笑顔さえ浮かべる素直で可愛い女性だ。たった一人の愛するひとに出会うだけで、ひとは変われるのだと実感する。

 折角、ピアノ線を買った人物が分かっても、前に進めない。

「幸太さんと言うひとはどんな人ですか?」私が聞くと柾さんは「桐生家の庭の管理を一手に担っている人で、優美子さんとは小さい時からの幼馴染みです。僕らより1つ年上です」

 翌朝、私と紫雨ちゃんは幸太さんに会おうと桐生家に出掛けた。庭師だから、何か良いお花を楓さんにプレゼントしたいので、選んでもらおうと思ったのだ。

絹さんが応対に出てくる。幸太さんが庭にいるとのことで、赴くと優美子さんも居て捲し立てている。

「どうしていつも、私の言いなりなの。自分の考えとか意見とかないの?」

「優美子さんが喜んでくれたら良いから。それだけだから」あとは口ごもっている。

「だから、嫌なのよ」吐き捨てるように言うと、彼女は奥に入って行った。

残された幸太さんは飼い主に邪険にされた犬のように虚ろな眼をしている。

「今日は。柾です。久し振りです」

「ああ、柾さん」幸太さんは我に返ったように振り向く。柾さんに紹介された、私と紫雨ちゃんは、楓さんにプレゼントしたいのでお花を選んで欲しいと言う。

「そうだな。今の季節なら…」色とりどりの花の苗を見ている。

「楓さんは車椅子生活をされているから、お花なら癒されるかなと思ったんです」私が言うと、幸太さんは汗を拭うがその手が小刻みに震えている。

「楓さんの、事故のことはご存知ですか?」

「知っています。本当に可愛そうなことで」そこまで言った時、優美子さんが現れる。

「なんなの。何を嗅ぎ回っているの?楓さんの事故って何?もう、10年も昔のことでしょう。幸太は何も知らないわよ。知ってるはずなんかないじゃない」

「嗅ぎ回るつもりはないよ。ただ、あの時何があったか知りたいんだ」

「何がって。楓さんが転んだだけでしょう。他に何があるの。それとも、幸太が何かしたとでも言うの?」

「実は、憶測でしかないけれど、あの時、誰かが道の両側に立つ木に、ピアノ線を張ったかもしれないんだ」柾さんが話し続ける。

「幸太がやったって言うの?そんなはずないわ。どうなの」優美子さんの威圧感に負けたのか、幸太さんは身体が眼に見えて震えている。

「俺です。俺がやったんです。ご免なさい。楓さん、柾さん」幸太さんは膝をつき、泣きながら詫びの言葉を続ける。

「そんなはずないわ。そんなことになるはずない……」放心状態のような優美子さんの呟く、声にならない声が静かな水面を波立たせるように私たちの心に響いた。

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