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雨女(紫雨と美雨)の行方  作者: 悠木 泉
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復活

 私、美雨が47才で病死したあと、迎えに来た雨女の紫雨ちゃんと大空高く飛翔してから5年が経っている。

 人としての生涯を終えた私は雨女としての新しい命を授かり、先に17才で事故で亡くなったが、復活した紫雨ちゃんと二人で生きて来た。

今、私は23才、紫雨ちゃんは24才の姉妹として仲良く暮らしている。年齢は雨神様の、カジノにあるような大きなルーレットで決まる。

 もし、当たった数が7なら7才、80なら80才として生きなければならない。やり直しは出来ないし、不服も通らない。それが運命だと受け入れるしかないのだ。私たちは運良く若く、美しい時代の年齢を与えられた。

 紫雨ちゃんは、ミステリアスな美貌を活かして和服のモデル、私は彼女のマネージャーをしながら、旅行記のようなものを書いて、契約している出版社に送っている。

 しばらくは東京でマンション暮らしをしていたが、もっと色々な場所に行き、その土地の風景、生活も見てみたい、郷土料理も食べたい、何よりそこで暮らす人々にも会ってみたいということで、近年はあちこち気の向くまま旅をしている。

 その年の5月。私たちは日本海側の小さな村に向かっていた。都会生活に疲れたので、田舎に行ってみたかったことと、二人とも美味しい空気が吸いたくなったことともう一つ理由がある。

 桜がその短い花時を終え、名残のような葉桜の季節が過ぎると、木々は一斉に芽吹く。浅緑、若緑、黄緑、深緑など、緑色の色見本のように全ての緑が集まっている。そんな新緑に染まる山々の麓の小さな村に、私たちは何かに導かれるようにやって来た。確かに山々は美しく、鳥たちの囀ずりも心地好い。

 しかし、何かが足りない気がする。

紫雨ちゃんも同じだと言う。

とてつもなく不穏な感じがするのだ。

それは多分私たちにしか分からない感覚だろう。

足りない何か、足りない何か大切なもの。

私と紫雨ちゃんの脳裏に同時に浮かんだもの。

それは雨だった。

 これ程にも目を引き付ける山々の緑もどこか輝きに欠けている。本来ならもっと輝くはずなのに。陽の光を浴びてはいるが、片手落ちの輝きに思える。周りの畑も田んぼも道端の可愛い花さえも確かに物思いに沈むようにうなだれている。雨も降りすぎては命を奪う凶器にもなるが、適度な雨はすべての命を生み、育む慈雨となる。

 この村で私と紫雨ちゃんのすべきこと。

雨女としてすべきこととは何か、思い巡らせながら、私たちは村の入口に立っていた。

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