社長は元トラック運転手
介護タクシーに同乗し、担架を運ぶバイトをしている康弘。目的地へ着く前に、運転手の爺さんが、社長について教えてくれた。
「社長は元トラック運転手でね、介護がこれから儲かると踏んで起業したんだ。介護される人の気持ちなんか何も考えていないよ。物を乗せると同じ感覚。どんどん運んで、どんどん稼ぐ。これがこの会社のポリシーさ」
衝撃の一言に康弘は唖然とした。所詮は金儲けの道具、年老いた老人さえも社長にとっては金の卵。物のように扱い、目的地に運べばいい。実際にそれで商売が成り立っている。さらに爺さんは言った。
「どうせ、すぐ死ぬ人たちを乗せてるわけだろ。だからいいんだよ。愛想笑いをする必要もない、まるで荷物を運ぶかのように接したほうが、むしろ情に振り回されることなく仕事ができるんだ」
なるほど、寿命が短い人を相手にしているわけだ。しかし、福祉という仕事の性質上どうしても患者や利用者に特別な感情を持ってしまう場合もある。それは切り捨て、金を稼ぐ道具として見たほうが仕事しやすいということなのだろう。
康弘は勝手な解釈をして、自分を戒めた。仕事に集中するためだ。さっそく車は目的に到着し、上半身不随の利用者を担架に運ぶ仕事を始めた。
「こんにちは、介護タクシーあゆむです」
玄関のチャイムを鳴らすと、奥様が出てきた。
「今日は、よろしくお願いします。」
家の中に入ると、ベッドに横たわっている、男性がいた。全身不随で、これから病院へ検査を受けに行くという。ベットの脇にある簡易トイレがすこし鼻についた。康弘は体の両足を抱え、相方の爺さんが上半身を引き起こした。
「よいしょ」
掛け声とともに、利用者を一気に担架に乗せた。一瞬だったが、かなり緊張した。間違って落っことしてしまったら、一大事だし、例え弱った爺さんであっても人間の重さを体感した瞬間だった。
車が近所の大学病院に向かう途中、相方の爺さんが言う。
「康弘君、初めてなのにうまかったよ。これからは、一人で運転して、車いすの患者を運ぶ仕事をまかせようかと社長が言ってたよ」
「でもタクシーっ免許が必要じゃないですか?」
「会社でとらせるつもりらしいぞ、あと福祉の資格もね。」
「なんか僕期待されているんですね」
「介護の世界は若い人材が貴重なんだ。だから社長も君を育てたいと思っているんだろ」
社長の考えとは裏腹に康弘は資格をとったら、すぐとんずらしようかと考えていた。なぜなら、こんな人を人として考えていない会社に長く働くつもりはないと強く思ったからだ。しかし、大学の卒業までは勉強として割り切り、我慢することとした。
「わかりました。社長には『よろしくお願いします。』と伝えてください。」
康弘は目的地の大学病院に着くと担架を下ろし、奥様から頂いておいた8000ペリカを車のダッシュボードに詰め込むと、今日の仕事を終え帰路に着くのであった。
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