自己紹介
朝眠そうに起きると、もう朝8時半だ。大学の授業は9時半からだから、猛ダッシュで着替えて、チャリンコに飛び乗る。
「行ってきまーす」
必死に自転車を漕いで大学まで走るヤスヒロ。途中の桜並木が美しい。急いで自転車から駆け下り、教室に駆け込んだ。空いていたのは教壇の一番前の席だった。隣にはウサギ耳をした女の子が座っていた。ピンクの逆バニーの衣装にワンピースを着ている。髪はロングの銀髪姿。まるでコスプレしているかのようなかわいい女の子だ。クラスでも1番目立っている。
「おい、ここに座れ」
彼女はど真ん中の空いている席を指さした。
「むかつくやつだなぁ」
ドカッと空いている席に腰降ろすヤスヒロ。ウサギ耳野郎をムッっと睨んでいるとカツカツと音を鳴らせながら先生らしき人が入ってきた。
「はい、みなさんこんにちは」
「授業を担当するエリカでございます」
猫耳の黒縁眼鏡、ハイヒールを履いた、真っ黒のカーディガンにミニスカート。まるで黒猫のような先生が教室に入ってきた。
「みなさん、今日は自己紹介の日です。とりあえず、近くの人とお話してみてください」
「アイ、アイアムヤスヒロ」
片言の英語をウサギの耳をした女の子に話しかけてみた。
すると、となりのウサギ耳が、ぶしつけに言う。
「おい、お前どうせバカなんだろう? 見ればわかる。今魔法をかけてやるから、ちょっと待ってろ」
「Japalish. Japalish. hohohoho」
ウサギ耳が念じると、途端に周りの英語が日本語に変換されている。こやつは何者なのか。
「おい、バカ。お前見た目結構老けてるけど、いくつなんだよ?」
「28歳だけど。18歳ってことになってるな。神風でこの世界に連れてこられた」
「やっぱりか。昨日強い風が吹いていて、たまに紛れ込む奴がいるんだよ」
「まぁ。10浪生ってことになるけど、英語はさっぱりわからないから助かったよ」
「そうだろな。うちの大学に正規で入ってきた感じじゃない。明らかにバカっぽかったから、『カマ』かけてみたけど、当たりだったようだな。私の名前はミスズ。お前の名前は?」
「俺はヤスヒロっていうんだ。魔法かけてくれてありがとう」
初対面の人をバカ呼ばわりするほどなので、気は強いのか、常にスカートの中が見えそうなのを意に介することなく、足を組んで椅子にもたれている。明らかにクラスで浮いている。だからこいつも一番前の席にぽつんと座っていたのだろう。とりあえず、ヤスヒロは英語という難題をいとも簡単にクリアしてしまった。
「おい!10浪ヤスヒロ!みんなに自己紹介だ」
いきなり大声をあげるミスズ。クラスみんながざわつき始めた。すると隣の男の子が。
「10浪ってすごいですね。僕は1浪です。タクミっていうんです。よろしくお願いします。」
普通のモブっぽい男の子が声かけてきた。
「いやいや、ぜんぜんすごくないよ。よろしく」
「ぜんぜんすごくない。ただのバカだから、かしこまる必要はないぞ」
ウサギ耳が間にはいって余計なことをいってくる。すると、近くにいたかわいらしい小さい猫耳のボブカットのガーディガンにミニスカートを履いた、女の子が話しかけてきた。
「ヒトミっていうにゃ。よろしくにゃ」
「ヤスヒロです。よろしく」
まるで猫みたいな女の子でしっぽまで生えている。
「努力家なのだ、えらいにゃ」
「ありがとう、猫ちゃん」
「猫っていうにゃ。ヒトミにゃ」
「わかった、わかった、ヒトミちゃん」
教室内を歩き回っていた先生が、時計に視線を送る。
「そろそろ最初の授業は終わりです。皆さんお疲れ様でした。まだ、お話できていない方がいらしたら、後ほどの授業で挨拶してください。お疲れさまでした。次の授業はオリエンテーションです」
先生がカツカツと音を鳴らしながら教室からでていくと、ざわめいていた教室も静かさを取り戻しつつあった。こうして、康弘の初めての授業はウサギ耳ことミスズのおかけで難を逃れた。
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