車の中で
タクシーは繁華街を抜け、郊外にある大学へと向かっていた。その中で康弘と酔っ払ったミスズは寄り添うように座っていた。ミスズは酔った勢いで頭を康弘の膝に乗せてくる。かろうじて意識はあるようだ。
「今日だけだからね、あんたに負けたのは。今までの借りを忘れるなよ」
「そうだな。お前がいなかったら、俺はもうここにはいないだろうからな」
お互い息をすることで、酒の匂いがプンプン漂う。康弘も車が揺れるたびに酔いを感じるようになった。ひざまくらをしているミスズの体位がとても妖艶に写る。足はくびれ、短いスカートの中が見えそうだ。車が揺れるたびに、ミスズの胸の谷間が垣間見える。
「ちょ、ちょっともう少し、離れてくれ。俺の理性が保てない」
「なにいってんのよ。どうせ、エッチな妄想してんだろ~?」
「そ、そうなんだ。だから離れてくれ。頼む」
「バカいってんじゃないわよ。本当はこういうことを望んでいたんじゃないの?いいんだよ。今日はあたしが負けたんだからさ」
ミスズは酔っ払っているのか、さらに体を密着させてくる。これは康弘が夢の中で望んだ行為だが、今はダメだ。タクシー運転手が見ている。現実の世界だ。康弘は自分の理性が残っているうちにグイっとミスズの体を起こし、反対方向に押しやった。
「なにすんだよ、このスケベ野郎。痛いじゃねーか」
「た、頼む。もうこれ以上近づくな。俺のほうが我慢できなくなる」
ミラー越しにタクシーの運転手が後部座席の挙動を見ているのが分かっていた。これ以上は無理である。
「お客さん、仲がいいのはいいけど、そろそろ着きますよ」
運転手が言うと、車は校門の中をくぐり抜け、円形の乗り場へとたどり着いた。
「はい、2580ペリカ頂きます」
康弘は金を払うと、ミスズの体を起こし、彼女の腕を肩へとやった。
「自分で歩けるわ」
そういうとミスズは腕を振り払い、ふらふらと自ら歩き出した。
「お前、自分の寮まで歩けるか?」
「あぁ、当たり前だ」
その瞬間、バッタリと前に倒れるミスズ。康弘は慌てて、ミスズに駆け寄り、立ち上がらせた。
「やっぱ無理だよ。寮まで送っていくよ」
「くそ、変態スケベニート野郎が。ここまっすぐ行くと着くよ」
一緒に肩を寄せ合い歩いていくと、『楓寮』と書いてある建物の前にたどり着いた。すると、管理人を兼ねた、大学院生が飛び出してきた。
「だめじゃない、ミスズちゃん。だいぶ酔っ払ったわね」
「すいません。こいつをよろしくお願いいたします」
康弘はミスズの腕を振りほどき、彼女を管理人に引き渡した。
大学内はすでに静寂の中にあり、フクロウの鳴き声だけが響き渡っていた。康弘は再び円形となった乗り場へと向かい、数少ないバスの時刻をチェックした。
「30分後か。しばらくベンチに座って水でも飲んておこう」
康弘はおもむろに財布から130ペリカを取り出し、近くにあった自販機からミネラルウォーターを買った。自然と体は冷めていき、気が付くとまだ誰も車内に乗っていないバスが目の前にポツンと停まっていた。
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