三話.王様と話し合い
席に座り待つこと数分。部屋の扉が開いた。
扉を開けたのは騎士。部屋に入ってきたのは、豪華な服装に赤いマントを羽織った中年の男であった。
中年の男は俺の後ろを通り、U字型のテーブルの前に置かれた一人用のテーブル椅子に腰を掛ける。その横には、先程扉を開けた騎士が立っている。
その男の迫力に無意識に背筋が延びる。
「遅れてすまない。御初に御目にかかる。ここ、マーナル王国国王、イージス=フォン=マーナルだ。よろしく」
……王? 国王!? マジで!?
……ふぅ。冷静、冷静。クールダウンだ。
なんか、今日一生分驚いてる気がするな。
周りを見る。当然、というべきか、みんな動揺している。ザワザワとはしているが誰一人王様に話し掛ける人はいない。
俺は席を立つ。
聖に無理やり付き合わされた乙女ゲームの登場人物を頭に思い浮かべながら言葉を紡ぐ。
「龍騎 竜也です。初めまして、イージス陛下」
「……ほう?」
王様は鋭い目付きでこちらを見る。
「御初に、竜也殿。早速で悪いが、貴殿は何処まで話を聞いている?」
「我々が魔王を倒すために召喚されたとしか。ですがそれすらも聞かされていない者もいます。自分も、簡単にしか聞いておりません」
「なるほど。では、始めから話すとしよう。事は、五年ほど前から起こり始めた」
そう前置き、王様は話し始めた。
五年前、中立ギルド組織『冒険者ギルド』が報告した魔物の増加報告。事はここから始まった。
魔物の増加。それは過去より魔王出現の予兆だと言われていた。しかし、これは確かな証拠にはならない。当然、偶然という可能性もある。
各国は騎士団、魔法師団を総動員し、事の調査を急いだ。
それから調査を始めて約四年。魔王の誕生の証である魔王の部下、魔族を発見。同時に町が一つ焼け野原となった。
各国の主要人たちは焦った。何せ魔族は強いとは言え、一つの町を焼け野原にするなどという事例がないのだ。部下がそれほどの実力があれば魔王本人の実力は計り知れない。各国の代表は勇者を召喚することには満場一致で決定した。
では、勇者をどの国で召喚するのか。
実は勇者を召喚するだけであればどの国でも可能だ。しかし、各国の許可を得ずに召喚した場合、その国に対し経済制裁、延いては武力行使へと発展する。
勇者の召喚、滞在とは云わば、国にとってのステータスだ。どの国も必死になり自国で召喚する利を述べる。その中でも強いのがマーナル王国と和国であった。
和国は過去、初代勇者が指揮を取り造り上げた国で、日本の文化や食文化が定着している。勇者の召喚回数では和国が頭一つ飛び抜けていて、勇者が残した書物も多くあるという。
マーナル王国は初代勇者を召喚した国にして、勇者を二番目に多く召喚している国である。文化の違いこそあるが、育成という面ではマーナル王国が一歩大きくリードしている。
今回、魔王の実力は過去の事例に当てはめても、相当上位にあると考えられる。ならば、育成面で大きく秀でたマーナル王国に召喚しよう。そういう話で落ち着いた。
「あれから、会議が終結した日より半年。様々な準備を万全とし、貴殿らを召喚した。これがこれまでの経緯だ。何か、ご質問は?」
……んー。まあ、色々と理解はした。だが、納得をした訳ではない。
「……なるほど。召喚した理由や状況は把握しました。ここにいる皆も質問があるでしょうが、この二点だけは確認しておかなければ」
「? その確認とは?」
「まず一つ。我々は、元の世界に帰れるのでしょうか」
元の世界に帰れるのか。仮に、この話を受け魔王を倒したとしよう。その際、帰れなければ俺たちは一生この世界で生きることになる。当然、向こうにいる家族等にももう会えなくなってしまう。そんなのあんまりだろう。
「……結論から言おう。我らがお主たちを元の世界に帰すことは出来ない」
「っ!」
シンとしていた空間がざわめき出す。
当然だ。遠回しに、帰れないと言われたのだ。
しかし隣に座っている木葉は、王様の発言に違和感を感じたらしい。木葉は俺の裾を引っ張り、耳を近づけさせるような仕草をする。俺が耳を近づけると、木葉は耳打ちを始める。……なるほど。そういう意図が。
俺は木葉に感謝をし、王様に問う。
「先ほど、我々が、と仰いましたが、つまり他に、我々を元の世界に戻せる人物がいるのですか?」
木葉の感じた違和感。それは、王様の発言の中の『我々が』の部分。確かに、違和感を感じる。
「……事実かどうかは、分からないがな」
「……分からない、ですか?」
「然り。先の話の中でもあったが、勇者は何度も我らの世界に召喚している。当然、元の世界に帰りたいと嘆く者もおった。しかしな、勇者が魔王を討伐する頃にはもう皆、元の世界に帰りたいと願う者はいなくなっていった。理由は千差万別だが、多いのが、この地で守るべき者が出来たこと、元の世界と比べて居心地が良いから、だそうだ。そんな勇者たちは、魔王を討伐し、帰って来るとどの歴代の勇者も口を揃えて、元の世界に戻るチャンスを蹴り飛ばした。と、言うのだ。故に、事実かどうかは分からないのだ」
ん、んー。なるほど……。まあ、住めば都と言うしな。
もしかしたら、俺たちもそうなるのかも知れないし。
「して、結局、戻してくれる人物は誰なのですか?」
「勇者曰く、『神』、だそうだ」
「か、神、ですか……」
ま、まあ、魔法がある世界だ。別にいても不思議じゃない……か?
「して、聞きたい事は二つあるという話だったな。聞こうか?」
「はい。では二つ目です。今回、我々は魔王を討伐する為に召喚されたという話でしたが、我々に拒否権はあるのでしょうか」
王様の顔が一瞬、僅かにだが曇る。
そしてそれに呼応するかのように、光も動揺を見せた。おそらく、魔王を討伐する気満々だったのだろう。逆に、他の皆の反応は至って平然としている。それどころか、動揺している光を異端の目で見る者もいる……ああ、和田か。
「それは、つまり……魔王を討伐する気概が無い、という事か?」
王様は明らかに動揺を見せながら、辿々しく言葉を紡ぐ。俺の発言が完全に予想外だったのか?
「いえ、そう言っている訳ではありません。しかし、ここにいる数名……自分も含めて、魔王討伐に積極的でない事もまた事実です。我々はつい先程まで、普通の学生でした。そんな人間に、いきなり世界を救って欲しいと言われれば、誰だって難色を示します」
「……なる、ほど。再度、結論から言おう。拒否権は、ある。だがしかし、世界はお主たちを、救世主を求めているのだ。……頼む。世界を、救ってはくれまいか」
王様は席を立ち、深々と頭を下げる。
横に立つ兵士は王様になにやら慌てた様子で話し掛けるが、ガックリとした後、兵士も頭を下げた。
「……頭を御上げください。一度、我々で話し合う時間をもらえませんか? 中には、魔王討伐に積極的な者もいますし」
「ああ。構わない。確かに、我らはいきなり過ぎたのかもしれないな。存分に話し合ってくれ」
ふぅ……。なんとか、一息つけそうだな。
俺は皆に視線を送り、集まるように促す。
さて、これからどうなるかなぁ。
* * *
皆で話し合う為に、大部屋の隅っこで円を描くように集まる。やはり皆、表情が暗い。元の世界に帰れないと言われたのが大きいのだろうか。実際、俺もかなり精神にきている。このまま、なにも話さずに時間が過ぎるのは不味い。
そんな空気を察したのか、木葉が明るい声で話し掛けてくる。
「凄かったですね、竜也。どうしたんですか、あの言葉使い。執事にでもなるつもりですか」
「え? あ、あはは。前に聖、乙女ゲームにハマってた時期があったろ? その時のストーリーに、今回みたいな展開があったからな。真似てみたんだよ」
「ちょっ! 竜也君! それ私の黒歴史!」
聖の慌てた様子に皆の表情が緩む。
よしっ。良かった、これで空気がマシになった。
話を切り出すならここだろう。
「さて。さっきの話の件だが、何か、案のある人はいるか?」
俺は周囲を見る。
真っ先に口を開いたのは先生だった。
「案も何もありません! 魔王討伐なんて危険な事、貴方たちがする必要はないんです! 断固拒否するべきです」
先生が凄む勢いで捲し立てる。
「案が一つ出たな。他に案のある人は?」
「……僕たちには、特別な力が。強い力があると、そう、ハイラスさんとニーナさんは言っていた」
光がポツリと、力強く発言する。
「ならば、困っている人を助けるのは強い者の勤めだ。僕は、積極的な魔王討伐を提案する」
光は強い眼差しで訴え掛ける。
「……二つ目が出た。他、ある人は?」
声を挙げようとする者は居ない。と、思えば、クラス一、いや、学年一の脳筋が声を上げた。
「竜也は、どう思ってるんだ?」
「ん? 俺か?」
力の発言に驚きながらも、俺は力に聞き返す。
正直、意外だった。力はいいやつだし、信頼も出来るヤツだが基本は指示待ち人間。言われた事をする。自身の考えを表に出すことはあまりない。別段、力が何も考えていない訳ではない。単に、発想力が欠如してしまっているのだ。
「ああ。こういうとき、お前の考えってのは大抵がいい方向へと向くだろ?」
お、おお。なんか、変なところで信頼されてるんだな。
正直、こういう野次が飛んでくる事は想定内である。ただ、飛ばしてくるなら和田かそこらだと思ってたのだが、意外だったな。
「俺の案、か。俺は、先生と光の案を足して二で割ったような 折衷案だ。積極的なヤツは討伐に赴き、消極的なヤツは討伐に赴いているヤツのサポートってのを考えていた」
「サポートですか? 具体的な内容は?」
木葉が質問してくる。
「そいつはまだ未定だ。だが聞いたところ、魔王に対する情報の不足が目立つからな。そこを補うってのと、この国の文明開化だな」
見た感じ、この国の技術力は中世のヨーロッパとか、そこらへんだと思う。詳しく見ていないし、魔法もあるのだ。詳しくは言えないが、きっと、地球の技術を用いた技術革命を起こせるだろう。
「とまぁ、これが俺の意見だ。四つ目の案のあるヤツは?」
俺はクラスメイトたちを見る。
声が上がらない事を確認し、俺は口を開く。
「……居ないな。じゃあ、案はこの三つになる訳だが…」
俺は周りを見る過程で木葉に目で合図を送る。
「……私は、竜也の折衷案がいいと思います。私は魔王討伐に積極的とは言え、討伐に消極的な人がいるのも事実。そんな人に対して無理に押し付けるのはどうかと思います」
どうやら、木葉は意図を汲み取ってくれたようだ。
仮にここで、光が自身の案を持ち掛けてきたら断るのが難しくなるだろう。それほど、光の影響力というのは大きいのだ。ならばここで、早い段階で俺の案を入れておく。
「だ、そうだ。じゃあ他に、俺の案に賛成ってヤツはいるか?」
これ見よがしに俺の案に賛成の者を聞く。これで幾分か発言しやすくなったろ。
「ん~。アタシも竜也の意見に賛成かな~」
「ウチも~」
俺の案に賛成したのは、橘ロンドと新生明美だ。
この二人は真っ先に賛同してくれると思っていた。ここに来る途中の廊下にて、二人のステータスを見せてもらったがどう考えても戦闘よりではなかった。そんな人間が魔王討伐に積極的かと聞かれればそんなことはないだろう。
その後立て続けに、伊藤さん、黒崎さん、公彦、和田、壁田、力と賛同してくれ、最後には光も賛同してくれた。
「さあ、後は先生だけですよ」
俺は先生へと向き直る。
先生は苦虫を噛み潰したような表情をしている。まあ、当然っちゃ、当然である。自身の生徒が死地へと赴こうとしているのだ。
だが逆に、異世界に来てまで俺たちの事を考えてくれてるのは良い先生である証だろう。
「……皆さんは、怖くないんですか? もしかしたら、命を落としてしまうかもしれないんですよ……?」
先生は俺たちに諭してくる。
向かわせないという態度で示すのではなく、言葉で示すことにしたんだろう。
「……はい、分かっています。ですが、だからこそです。今この時も救える命があるかもしれない。僕たちには力がある。さっきも言いましたが、人を助けるのは強い者の使命です。僕は、戦います」
しかし、そんな思いも光に一刀両断される。
光は、根はいいヤツなんだ。完璧な正義感を持ち、自分に対する強い自信もある。しかし、時折他者の意見に耳を貸さないという致命的な欠点がある。今回、光が出した案もそうだ。まるで、自分以外も同じように戦える。そう思っている節がある。
先生は「うぅ……」と情けない産声のようなものを上げ、数秒後には観念したのか小さく「わかりました……」と納得してくれた。
「よし、話は纏まったな。席に着く前に、王様に質問したい事とかはないか? 俺が代わりに質問するよ」
俺がそう言うと、木葉が申し訳なさそうに手を挙げた。
「じゃあ、いいですか? 私たちの衣食住がどうなるかを聞いてほしいのですが…」
おお、衣食住か。すっかり失念してたな。俺は木葉に了解の意思を見せ、他にいないかを確認する。どうやら居ないようなので、俺たちは席に戻った。
ここまで読んで頂きありがとうございました。「ここおかしくない?」という指摘や「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたらコメントしてくれると幸いです。




