本の方がマシ
「エロ本を読んでおらぬ者がどうなるか、卿は知っておるか」
「エロ本を読んでおらぬ者ですか?」
さっぱり意味が分からないぞ。最近の若者は……いや、若魔族は、はたしてエロ本など読んでいるのだろうか。
「ネットにハマるぞよ」
……それなー。みんなス魔ホでネットを見ている。
「ですが魔王様、あまり剣と魔法の世界で『ネット』とか言うのはおやめください」
世界観が壊れます。エロ本でも十分壊れておりますが……。
「ネット上であれば、もし、『あなたは十八歳以上ですか?』などと画面上で問い掛けられても、『YES』をクリックするに決まっておるぞよ」
「――年齢詐称! たしかに!」
『NO』をクリックして前のページに戻る青年がいれば……紛れもない紳士だ――! ジェントルマンだ――! 拍手喝采してやりたい。
十八歳になったと同時に……感涙して喜びながら、初めて「YES」をクリックしている若者にぜひ出会ってみたい。
「規制が厳しくなればなるほど、それを破ろうとする者は知恵を付ける。そして本来であれば身に付けてはならぬことまでもを知ってしまう。魔の手が近付いてくるのだ」
魔王様が魔の手って……いい意味なのか悪い意味なのか分かりにくいぞ。
「言わば、負の悪循環スパイラルに突入してしまうのだ」
「負の悪循環スパイラル?」
なんか重言みたいになっている。
「言われてみれば……ネットよりもエロ本の方が健全的な気がします」
エロ本に書かれた広告などに迂闊に電話をかけたりしなければの話ですが……冷や汗が出る。やっぱりエロ本にも危険がタップリ詰まっている。
――故に、十八歳未満に見せてはならない。
魔王様は玉座から立ち上がり、窓際へと足を進められた。
「手に入りにくくなればなるほど、なんとしても手に入れたくなる欲望。そして巻き起こる問題」
「……」
欲望は嫉妬や憎しみへと姿を変えて近付いてくる。
「友達から高額で転売されるエロ本」
「――! 先生に見つかると親にまで連絡がいく結末!」
まさに恐怖のスパイラル!
「夜中に親の目を盗んで見る、イレブン〇ーエム」
「……」
冷や汗が出る、古過ぎて。
「どれほど規制を厳しくしても、それを守らずに破る者は後を絶たぬ。さらには規制するよりも酷い状況へと陥ることも多々あるのだ」
「たしかに」
「知ろうとする欲望は、誰にも抑え込む事などはできぬ。だが、知ってはならぬことを簡単に知らしてはならぬのだ」
「御意」
「だから、今日のことは、絶対に内緒ぞよ」
魔王様ったら、それが言いたかっただけなのか……。
「それはどうかなあ……」
頭を掻くふりをして見せる。
「消すよ」
一気に玉座の間の室温が下がった――、気がした。
冷や汗がダラダラと流れ落ちる。魔王様の目がぜんぜん笑ってない~。「消すよ」って、マジで怖いぞ。記憶を消すくらいならまだしも、首から上を消し去るとか、存在を消し去るとかだったら、怖過ぎる~!
「調子に乗っておりました! 冗談でございます。もう忘れてしまいました。はて、なんの話をしていたでございましょうか――」
「それでよい」
悠然と魔王様は何事もなかったかのように玉座に座り直した。
「……」
あとでスライム達に言いふらしてやる……。
ソーサラモナーにも説教してやる……。
「それに予はエロ本など、読んでおらぬ」
「今更ですよ」
そのような苦しい言い訳は、冒頭でおっしゃってください。
「眺めておっただけなのだ」
「……そっち?」
魔王様、細かい字までは読まないタイプなのか――。人生半分損していますよ……と言いかけてやめた。
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