名前は必要か
「魔王様であればエロ本などを買う必要など無いではありませぬか」
しぶしぶまた玉座の前に跪いた。私に唇があれば、ツンツンに尖らせていることだろう。
「買う必要? 誰もくれんではないか」
開き直るな。本気で欲しがらないでいただきたい。誰が魔王様にエロ本など献上するというのだ。入院患者へのお見舞いでもあるまいし……。
「普通の魔王様であれば、たくさんの美しい女性をとっかえひっかえ豪遊していてもよいのです」
むしろその方が魔王様らしいです。他の魔族が羨む存在でなくてはなりませぬ。
「側室をもっても構いません。なんたって魔王様なのだから」
その地位と権力を使って構わないのです。だから魔王様は人気が高いのです。欲望のままやりたい放題できるから……。
「そ、そ、側室だと」
顔を真っ赤にしなくてもよいではありませんか。
玉座の間の端っこに飾られている女神の石像のことなんか――今は誰も覚えていませんからご安心ください。
あれこそオブジェになっちゃってます。
「そんなエロ魔王、誰も尊敬などしてくれぬぞよ」
――笑止!
「エロ魔王って……エロ本を読む魔王様のことですか、プププ」
「無礼ぞよ――! 世間一般の魔王ぞよ――!」
玉座から立ち上がり怒っていらっしゃるのが可愛い。可愛い魔王様なんてダメダメなのだが。
「そもそも、エロ本は正義ぞよ」
「御冗談を」
正義ってなんだ。しかもエロ本が正義? 頭が痛くなるぞ、首から上が無いのだが。
「エロ本は十八歳以上でなければ売ってくれないぞよ。魔コンビニで」
「それは知っています」
魔コンビニって聞くと、なんだか何でも売ってくれそうな気もするが……いや、
「魔コンビニでも取り扱いは終了しているはずです。十八歳未満は読んではなりませぬ」
魔王様……本屋さんで買ったのだろうか……。それともア魔ゾンでお取り寄せしたのだろうか……置き配指定で。
「魔王様、誰にもバラしたり怒ったりしませんから、一度そのエロ本を見せてください」
「デュラハンも……エロよのう」
共犯者を作りたいのだろうか。魔王様は素直に玉座の後ろからエロ本を差し出した。ニヤリと笑わないでいただきたい。別に中身に興味はございませんから。
裏返すと……なるほど、エロ本の持ち主が四天王の一人、ソーサラモナーだと容易に分かってしまった。
「……これ、ソーサラモナーに借りたのですね」
ソーサラモナーならエロ本の一冊や二冊、持っていてもおかしくはない。
「鋭い! な、なぜ分かったのだ――!」
分かれいーでか。なぜならば、
「カタカナで名前が書いてあります」
「ソーサラモナー」としっかり裏に書いてあり逆にこっちが恥ずかしくなる。黒色のマッキーで名前が書いてあるのだ。
っていうか、エロ本に自分の名前を書く奴がいるのだろうか。教科書に名前を書くのですら恥ずかしい年頃なのだぞ――。
「現にいるではないか」
「御意」
同じ四天王として……恥ずかしいことこの上なしだ。誰が奴を「聡明のソーサラモナー」などと呼び始めたのか。魔王軍の品位を損なうぞ。
「自分の物が無くならないからよい方法だと思うぞよ。あるいみ『聡明』ぞよ」
「それ本気ですか、魔王様」
エロ本ですよ。大切な辞書とかお高い写真集ではないのですよ。
「もし落としても、名前が書いてあれば持ち主のところに帰ってくるぞよ」
「……たしかに。それは一理あるかもしれませんが」
より一層辱められることだろう。拾った奴にクスクス笑われるだろう。「こいつエロ本に名前書いてやがる」と噂されるだろう。
というか、ソーサラモナーは恥ずかしくないのだろうか……頭が痛いぞ。さらにはそれを魔王様に貸せるところが凄い。奴は大物になるのかもしれない。
ひょっとすると私より高評価されているのかもしれない――!
であれば――世の中が間違っているのだろうか。今後はエロ本に自分の名前を書くのが常識になっていくのだろうか――。
エロ本の後ろに「なまえ」の空白欄が設けられるのだろうか――ジャポニ〇学習帳のように――!
「ですが、名前を書くと古紙回収の日に捨てようと思っても……恥ずかしくて捨てられませんよ」
古本屋にも売れません。名前が書いてあるのですから。
「そして次々に部屋に溜まっていくエロ本。親はきっと気付いているぞよ」
「おやめください」
親にエロ本の隠し場所がバレるのって……話がリアルになり過ぎますから。
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