ギブアンドテイク
クックック、どういう反応をするのでしょうか。少し魔王様に意地悪したいのだ。
日頃の恨みともいう。
「はい」
――?
「おおおおおー!」
なんだか分からないけれど、不思議な力がみなぎるぞ――! こ、こ、これが無限の魔力――!
「冗談だったのに、いいんスか?」
首筋がゾワゾワするくらい想像したこともない力が湧いてくるぞ――! 首から上は無いのだが――!
「よいよい、その代わり絶対に内緒ぞよ」
え、まだそんな話にこだわっているの? どうでもいいぞ、エロ本なんか。
「ええ、ええ。お安い御用です」
そんなことよりも、凄いぞこの魔力ってやつは――!
首から上に好きな頭を何百回でも生やせそうだ――! まさに、無限の魔力! 念願が叶うぞ――!
「イイイ、ヤッホー! と叫びたいぞ――! ハッハッハー!」
「……」
玉座の間で立ち上がり自らの魔力を充実させる。これほどまでの力があれば、お城を空に浮かべるのも余裕のよっちゃん、楽勝のラっちゃん、タリラリッチャン、ターリーラリッチャンだ――!
「ヒャッハー! 首から上、生やしちゃってもいいんでしょうか」
ドキドキするぞ! ワクワクするぞ! あー、みんなには伝わるのかなあ~この胸のトキメキが~うふふ。
「いいけど、イメージが変わってみんなドン引きするぞよ」
「……」
嫌なことをサラリとおっしゃる……テンションが急に下がったぞ。
「さらには生えてくる途中とかは、もはや放送事故レベルのグロテスクさ」
――! 生えてくる途中も……さらされるの? ピカ―っと光って誤魔化せないのでしょうか。
「……ぢゃあ、今はやめておきます」
口惜しいが、まあいい。
首から上なんて、あろうがなかろうが……変わらん。
――ついに今、私は魔王様を超えたのだ――!
「その代わり、卿もエロ本を読めぬぞよ」
――! はうっ?
「いやいや、私は女の裸体になど、まったく興味はございません」
危ない危ない。危うく魔王様の口車に引っ掛かりかけてしまった。
両手を握ったり開いたりして体中をみなぎる魔力を確かめる。ひょっとすると、もう魔王様に敬語を使う必要すらないのではなかろうか。
この力に比べれば、エロ本を読めなくなることくらい……朝飯前――! つまり、昨日の夕飯後――!
「では、女子用の鎧を集めている変態っぷりも、今日でおしまいぞよ。なんせ、デュラハンが今日から魔王なのだからな」
「――ええ!」
――魔王になれば、女子用鎧を集められないというのか――! なぜに――! ホワイナット?
「あったり前じゃん」
じゃんって……。
「もし勇者が魔王を倒した後、魔王の部屋に入り壁一面にピッカピカに磨かれた女子用鎧が飾ってあったら、キモくてドン引きぞよ」
キモくてドン引き――? ピカピカの女子用鎧が?
「グヌヌヌヌヌ……」
魔王になりたい。でも、女子用鎧は捨てられない……。勇者って、魔王の私室を見たりして、やっぱドン引きするのかなあ……。
エロ本よりも女子用鎧の方がドン引きするのかなあ……抱っこして寝ているとかがバレると。
「あ、あ、あれは……オブジェでございます。鎧が飾ってある通路のような……オブジェです!」
剣とかが飾ってあっても格好いいではありませぬか。
日本刀とかが飾ってある座敷の床の間とかって、――格好いいではありませぬか――。
エアーガンやモデルガンが壁にたくさん飾ってある男子の部屋って、――カッコいいではありませぬか――!
モンキーレンチや19と24のメガネレンチが壁に掛かっている保全室って、――カッコいいではありませぬか――!
「いやいや、その中でも『女子用鎧』は飾らなくてもよいであろう。そもそも、卿は全身金属製鎧のモンスターだから、チグハグぞよ」
鎧の上に鎧を着ることなんて不可能。さらには女子用鎧。サイズが小さくて合わない。
「グヌヌヌヌ……くそー!」
――好きなことができないのであれば、魔王になる意味などない――!
――女子用鎧を部屋から没収されるのなら、魔王になる意味などない――!
「悔しいですが、魔王の座も無限の魔力もいりません!」
欲しいのは女子用鎧です。女子用鎧の胸小さめ……。
「あほ」
……ガクッ。力が抜けた。無限の魔力が元通り魔王様に戻ったのだろう。「あほ」は酷いぞパワハラだぞ……。
私にはまだ魔王の座など早過ぎるのか。そもそも、魔王の座なんてものは、借りたり貰ったりするものではないのだろう。
――今はまだ早過ぎるだけだ――。
「これからも早過ぎるぞよ」
「……」
ごめん。黙って。
今、涙を流して泣いているから。シクシクメソメソ。首から上は無いのだが……。
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