魔王様、魔王様がエロ本を読むなど、言語道断です
「なぜだ!」
言うのと同時に魔王様は玉座の裏側に何かを隠した。こちらが逆に冷や汗が出る。
夜中ならともかく……。
――まだ朝の八時三〇分だぞ――! ――始業のベルが鳴った直後だぞ――!
――玉座の間の大扉をいつものように開き、「今日も一日、生き生きと働くぞ~」と意気込んだ直後なんだぞ――!
見て見ぬふりをすればよかったのだろうか……。あまりにも衝撃的だったので、「言語道断」などと怒鳴ってしまった……魔王様に。
一瞬だけ垣間見ただけだが……魔王様がお隠しになられたのが「エロ本」なのはしっかり分かってしまった。「うっふんクス~ピクピク」とか書いてあった。冷や汗が出る。流れ出て止まらない。
表紙は可愛い女子の顔のアップだったが、ヤングジャン〇やヤングサン〇ーとはサイズ感も違った。
ボンボンともサイズ感が違った――!
大きくため息を吐き出す。スライム達に見られないで本当に良かった……教育に悪いから。
そっと玉座の間の大扉を内側から閉めた。
魔王様、腹立たしいほどどんくさいぞ――! 毎日毎日この時間に私が玉座の間に入って来るのくらい知っているではありませんか。
「ひょっとして、わざとか!」
「言っている意味がよく分からぬぞよ」
やれやれだ。いつものように玉座の前に跪いた。
どんなに感動的なRPGでも最後のラスボスである魔王を倒し、「魔王は宝箱を落とした、中身はエロ本だった」なんてことがあれば……、
「これまでの感動的なストーリーも、散っていった仲間たちの命も、生死をかけた死闘も、すべてが水の泡です! ギャグストーリーに成り下がりますです!」
それがお分かりですか――興醒めなのですぞ!
「怒らないで! それはそれで……レアぞよ」
レア? レアドロップ? 滅多に落とさないラスボスの宝物?
「いいえ、レアではなく、百パーセントドロップです。必ず落とします」
実際に持ってるんだから――! 玉座の裏に隠してあるんだから――!
「恥ずかしい~!」
顔を赤くして手で隠すな。こっちが恥ずかしいわっ!
「まったく嘆かわしい」
魔族全軍を率いる魔王様が、玉座の間でこっそりエロ本を読むなんて……嘆かわしい。
会社の代表取締役社長が社長室で爪を切り、切った爪の匂いを嗅いでいるところをバッタリ来客に見られるくらい……嘆かわしい。
「デュラハンよ」
「なんでございましょう」
弁解の余地はありませんよ。
「日常会話において、『嘆かわしい』など使うのは、卿ぐらいぞよ」
「……」
イラっとしたぞ。頭に血が上ったぞ。首から上は無いのだが……。
「エロ本を読むことなど、なにも恥ずかしいことではないぞよ」
「ほほう」
開き直りですか。またいつもの長い言い訳が始まるのでしょうか。
「それは良いことを聞きました。では女勇者に教えてあげま」
「ごめん」
謝るの最速!
魔王様から食い気味の「ごめん」は初めて聞いたぞ。ちょっと清々しい気分だぞ。
「魔王様ったら年甲斐もなく朝っぱらから玉座でエロ本を読んでいて、見つかった瞬間に玉座の裏に隠したんだよ。そして、挙句の果てには苦しい言い訳の嵐と……」
女勇者に暴露して差し上げましょうか。
「キャー! すべてを分かり易く解説しないで~!」
また両手で顔を隠し恥ずかしがられる。さらには、叫び声が女子――。
「ご安心ください。冗談でございます」
魔王様がちらっと隠した手の隙間からこちらを見る。
「さすがはデュラハンだ。予が最も信頼する四天王最強の騎士ぞよ」
ありがとうございます。
「内緒にしてあげてもよいのですが……」
「たのむ、たのむから内緒にして」
両手を合わせて拝むなと言いたい。それほどまでなら玉座の間でエロ本を読むなとも言いたい。
「では内緒にする代わりに……、
――魔王様の地位と無限の魔力を私にお譲りください――」
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