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ダンジョンへの道中にて


「なんか移動手段があるといいな」


 俺たちは、ミデン・ダンジョンへ向かう道中だった。


 朝、ポルトン廃村のホームを出て、アルトズーハの町へ行った。冒険者ギルドでクエストを確認し、そこからミデン・ダンジョンへ向かっているのだ。


「ホームからなら、ダンジョンもアルトズーハもほぼ同じくらいなんだけどな」

「直接行ければ、楽だろうなぁ」


 金棒を肩に担いだフラム・クリムは、のんびり言った。久しぶりにダンジョンに行くということで、気分がいいらしい。


「それで、移動手段ですか……」


 ネージュは顎に手を当てて考えるポーズ。


「馬とか……?」

「うーん……」


 俺は首をひねる。


「あまり現実的じゃないなぁ」


 そもそも冒険者に馬という印象がない。ヘイレンが頷いた。


「馬を飼うのは容易ではありません。厩舎も必要になりますし、エサも含めて、維持するためには多額の費用がかかります」

「騎士ってのは馬に乗ってナンボだけど、同時にある程度金を持っていないと務まらないんだよな」


 装備も金がかかれば、馬にも金がかかる。冒険者が馬をほとんど使わないのは、そんな裕福ではないという場合がほとんどだ。


「仮に馬があったとしても、ダンジョンの中に持ち込めないからな。外に置いておくと、魔獣とか馬泥棒が怖いし」


 冒険者に馬が流行らない理由のその2である。ダンジョンに入っている間に、貴重品を盗まれてはたまらない。かといって見張りを置くというのは戦力が割かれるのでよろしくない。


「そもそもだなぁ……アタシは、馬の乗り方なんてしらねえし」


 フラム・クリムがぼやくように言った。


「セアっち、お前は?」


 小さく首を横に振るセア。彼女も乗馬経験はないらしい。


「ネージュはどうだ?」

「はい、私は乗馬できます」


 さすがは騎士姫様。ヘイレンさんも、姫様付きならおそらく経験があるだろうな。


「ツグ様は乗馬のご経験は?」

「数回程度だな」


 やり方は教えてもらった。もっとも即席講座過ぎて、上手いか下手かと聞かれれば後者だと思う。一度、臨時に伝令役をやらされたのが、乗った最長記録かな。


 転移魔法とか、空を飛ぶ魔法なら、速そうなんだけどな……。


 俺は思ったが、それは口には出さなかった。全魔法なんだから、できると思う。だがそれをやった時の周囲の反応がな……。


 さすがの俺も、色々魔法を使ってきて、それが一般的なそれと違うってことに気づいてきた。魔法関係の知識も半端で、きちんと教わっていないから想像で補っているが、それが世間一般の魔術師の魔法と違う原因なんだろうな。


 そんな俺でも、さすがに転移魔法が使えるとなると、世間の目には注意しなくてはならないことくらいは予想できる。


 便利なんだけど、周りが騒ぐのは確定だし、色々なところから介入されて、今の生活をメチャクチャにされそうな予感があった。


 まあ、いまさら感はあるが、転移に関しては、それくらい用心深く考えるべきだろうな。


 とはいえ、バレない範囲で転移魔法とか使って、ふだんの生活でも楽をしたい、というのは本音だ。


「ギルドのほうで、乗合馬車でもやってくれないかな」


 ポツリとそんな言葉が出た。ダンジョンの行き帰りを送迎する馬車とか。冒険者ギルドのスタッフが馬車を操り、また馬車護衛のクエストとか発生すれば、冒険者の仕事も増える。


「面白い案ですね」


 ヘイレンさんが目を細めれば、ネージュも手を叩いた。


「馬車があれば集団ですから、道中に単独の魔獣に襲われる可能性も減るでしょうし」

「まあ、話すだけギルマスに話してみるか」


 できるかどうかはわからんけど。ただ、仮にアルトズーハとダンジョンの間で馬車移動はあっても、ホームは関係ないから、俺たちにとってはあまり恩恵がないのよね。


 ……それにこの手の馬車で、運賃もかかるだろうし、貧乏冒険者が利用できるかって問題も出てくるかもしれない。


 その時、不意に索敵スキルが、俺の脳に警告音を発した。


 背筋がゾクリとくる嫌な感覚が突き抜けた。とらえた反応はひとつ。鑑定すると――


「グレーターデーモン!」

「ツグ?」

「ツグ様!?」


 突然だったから、セアもネージュも驚いた。


「街道を進んだ先に、デーモンが一体いる!」


 グレーターデーモン。上級デーモンと言われる悪魔であり、そのランクはAランク相当と言われる。下級のレッサーデーモンが迷い込むみたいな話は聞いたことがあるが、ダンジョンの外でグレーターデーモンなんて、俺は初めてだ。


「……デーモン!」

「あ、ネージュ!?」

「姫様、お待ちください!」


 悪魔と聞いて駆け出したネージュ。ヘイレンさんの制止の声も今一歩届かず!


「追うぞ!」


 俺が走れば、セアもフラム・クリムも走り出した。


「なあ、ツグ! お姫さんは何で突然走り出したんだ?」


 そういえば、フラム・クリムは事情を知らないんだっけか。


「ネージュは悪魔に恨みがあるのさ」


 俺が言えば、後続のヘイレンさんが付け加えた。


「姫様の国を滅ぼしたのは魔界の悪魔。上級デーモンと聞いて、故国を襲った災厄を思い出されたのでしょう……!」

「なーる。理解した!」


 フラム・クリムはニカッと笑った。悪魔と聞いて怖じ気づかないのはさすがオーガ上位種か。


 先行したネージュに俺たちが追いついた時、すでに彼女は魔法剣スノーホワイトを手にグレーターデーモンと対峙していた。


 下方へと捻れた二本の角。背中に二枚の翼があり、全身は紺碧色。屈強な体躯を持ち、その赤い眼がギラリと光っている。


『フン、雑魚がまた増えたか!』


 おどろおどろしい声は、グレーターデーモンか。


 よく見れば、デーモンの足元には、人間だったとおぼしき死骸がいくつかあった。旅人か、あるいはダンジョンに向かっていた冒険者か。


 ネージュが斬りかかる。渾身の突きは、しかしグレーターデーモンは手の爪で弾いた。金属めいた音が響いた。


 ネージュは素早く突きを放つ。だが、空を切るばかりで悪魔にはかすりもしない。


『ぬんっ!』


 グレーターデーモンが腕を振り回した。ネージュは魔法剣で防ぐが、デーモンの豪腕を殺しきれず吹き飛ばされた。


「ネージュ!」


 俺はアイスブラストを放つ。その間にもセアとフラム・クリムがグレーターデーモンへの距離を詰めていた。


 五連の氷の塊弾は、グレーターデーモンの直前で見えない壁に弾かれてしまう。だがそれは牽制。セアが飛びかかり――


 ガキン!


 グレーターデーモンの迎撃を防ぎ、飛び退くセア。フラム・クリムが金棒による連続攻撃!


 バシッ!


「なっ!?」


 フラム・クリムの怪力の一撃をグレーターデーモンは掴んだ。


『ぬるい……ぬるいわっ!』


 グレーターデーモンが金棒を掴んだまま振り回し、フラム・クリムを吹っ飛ばした。近くの木に叩きつけられるフラム・クリム。……っと木が折れた。


 さすが上級悪魔。伊達にAランク相当に認定されていないか。


「ヘイレンさん、皆をよろしく!」


 俺はゆっくりと駆け出す。鞘からサンダーブレードを抜く。


『次は、貴様かっ!』


 グレーターデーモンが俺を見据える。その赤い光はらんらんと輝き、余裕の笑みを浮かべる。……俺を侮っているな。


 トットットッ、と決して速くもない駆け足で距離を詰める俺。グレーターデーモンは、悠々と待ち受ける。右腕を振り上げ、ご丁寧に魔力を目に見える形で集める。魔法を放つつもりだ。そんなの馬鹿でもわかる。


 だが――そいつは、油断と、言うもんだ!


 ザッ!


 大地を蹴った刹那、俺の体はグレーターデーモンの眼前に飛んでいた。まばたきの間に距離を詰められ、グレーターデーモンの目が大きく見開く。


「終わりだ」


 バシュッ――とサンダーブレードが紫電をまとった。そして次の瞬間、グレーターデーモンの太い首が飛んでいた。

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