オルデンが来た
ポルトン廃村に、ロッチたち『オルデン』がやってきた。
セアが呼びにきたので、表門に回れば、ロッチと彼の仲間たちが、口をあんぐりと開けていた。……ひでぇ間抜けヅラァ!
「やあ、ロッチ」
門の上から声をかければ、オルデンのリーダーである重騎士は声を張り上げた。
「ツグ! これはいったいどういうことだ!?」
「どういうこととは?」
「ここは廃村のはずだ」
「そうだ」
「この建物は? 前に来た時は、ここにこんな砦はなかった!」
「砦?」
俺は左右を見回す。魔獣対策に高さ5メートルくらいの壁を建てたが……。
「こんなの岩の壁だ。砦なんてものじゃない」
「こんなものはなかった!」
「さっきも聞いたよ……。まだ家はできてないけど、入って」
俺は手招きすると、外壁の裏にある即席の石段を降りた。表門という名の壁の切れ目をロッチたちが入ってくる。
「広いな!」
「土地は使いたい放題だよ」
俺は皮肉った。実際のところは借り物なので、そんなに広く使うつもりはない。
「あれが拠点兼ホーム」
「……安心した。そっちは普通だった」
ロッチは安堵した。
「というか、あの壁は何だ? 以前はなかった」
「外壁だよ。魔獣対策」
「ふーん……いや、そういう意味じゃなくてだな」
どうやって作ったか、だろ? 教えない。
「それで、今日は何しにきたんだい、ロッチさん?」
「お前たちの様子を見に来た」
聞けば、ギルマスから、俺たちが廃村で拠点を作っているから、どうなっているか確認してと頼まれたらしい。
「お前、金目当ての冒険者に襲われたってな? ギルマスは心配していたぞ」
こちらで拠点を作っていたから、当然アルトズーハの町には顔を出していない。ひっそり俺らに何かあってもわからないから、かな。
プラチナさん、心配してくれていたのか。いい人だなー。
「こっちは平和そのものだよ。……そうそう、角猪がウロウロしていたから、一頭仕留めた。今日のランチは猪肉のステーキさ。食ってくか?」
「いいのか? こっちとしてはありがたいが」
「せっかく友人が来てくれたんだ。歓迎しないとばちが当たる」
そんなこんなで、俺たちの家へ。
「二階の床が腐りかけていたから、新しいものに変えた。穴も埋めて壁も新しくした。二階が居住区」
一階はまだ壁ができていない。入り口から入ったら、そこはすぐ庭につながっている感じだ。
「……こんなところに丘なんてあったか?」
ロッチが、庭のすぐ奥にある土の壁を見上げて言った。一階の壁がまだできていない理由がそれ。
裏手は外壁を形成する切り立った崖に隣接している。そこも少し掘って倉庫や地下室を作ろうと考えている。考えようによっては、廃村を囲む外壁が家の壁の一部みたいな感じだな。
入り口は北向き。で、外壁を兼ねる崖があるのが西側。東側は唯一、建物で残っていた壁の部分で、これを新たな石材で補強しつつ、一階は食卓とキッチンがある。
「で、いま低い塀しかない南側に、一棟建てて、東側と繋ぐつもり」
今は俺を含めて五人いるが、現状だとちょっと寝床が狭いんだよね。床で雑魚寝するならともかく、ベッドを持ち込んで寝るとなるとさ。
「でかい部屋を仕切るって感じじゃないんだな」
ロッチが玄関から入ったにもかかわらず、天井があるはずの部分を見上げた。青空が見える。
「天井が残っている部分を中心に部屋にしている感じだ」
それで天井で繋いでいって、部屋をこしらえるタイプだ。部屋間の移動は、あまり効率的ではないかもな。ま、二階へ上がるのが今は階段じゃなくて固定した梯子だから。それでカバーしている感じ。
いずれは、きちんとした階段も置きたいね。
・ ・ ・
南棟建築予定地は、いまは仮の休憩所になっている。木製の長テーブルを置いて、木を輪切りにしたものを加工した即席椅子があるだけの簡素なものだが。
「野外で、バーベキューをするにはちょうどいい」
「バーベキュー?」
「豚の丸焼きをじっくり焼いて、野外で食べる調理法……っていうか食べ方だよ。で、ご近所さんとかに肉を配って、皆でワイワイやって食うんだ」
「いいな、冒険者みたいだ!」
ロッチと仲間たちは喜んだ。
「豚じゃなくて、猪だけどな」
そんなわけで、昼に俺、セア、ネージュ、フラム・クリム、ヘイレンさんと、ロッチらオルデンメンバーで、猪の肉を頬張った。
「酒が欲しくなるな」
「ここには酒はないぞ」
俺が突っ込めば、ロッチはガハハと笑った。
「でもそうだな……。酒をどうにか調達するのもありかもしれない」
俺としては、ホームでは息抜きできるものが必要だと思う。……決してフラム・クリムが酒と聞いて、俺を凝視しているからではない。
オーガって、割と酒というワードに反応するんだが好きなのかね。亜人だとドワーフや意外にエルフも酒豪だと聞くが。
ロッチが聞いた。
「ここでの飲み物はどうしているんだ?」
「すい……井戸から新鮮な水を汲んでいる」
魔石で水を出す魔道具を作って、そこから供給している。煮沸処理しなくても、そのまま飲めるし、必要な時に使える便利な代物だ。
「ここに休憩所があると、南のカリンダ平原での狩りとか助かるだろうなぁ」
ロッチは言った。
「ミデン・ダンジョンだと、アルトズーハの町とどっこいの距離だから、直接行き来すればいいけど、南への遠征クエストだと拠点としての需要はあるだろうな」
「なんだ、俺に休憩所を経営しろってか?」
俺は苦笑した。家にはあげないが――
「まあ、通りかかった冒険者のために休憩所はあってもいいかもな」
廃村全体の土地は、まだ全然残っているし。俺たちがいまバーベキューしているみたいな簡素なものでいいかもしれない。
「気づいたら、いつの間にか住民が増えて村になってるかも」
俺が冗談めかせば、「いいなそれ!」とロッチは楽しげに笑った。
「ツグ様」
ネージュが両手でトレイを持ってきた。上にはコップがひとつ。
「食後のお茶など如何でしょうか?」
「ありがとう」
騎士姫様に給仕なんてさせて悪いね。戦場での凜々しい彼女を見ているロッチたちは、令嬢じみたお淑やかに目を丸くしている。
「アルトズーハで買ったピコルのお茶です。柔らかな香りと爽やかな風味が肉料理の後に大変合います。ツグ様のために真心こめていれさせていただきました。どうぞ、ゆっくりとご賞味ください」
俺、ネージュに癒やされる。こんなのんびりなお昼もいいなー。
愉快な昼食の後、ロッチたちは出発の準備をはじめた。午後はミデン・ダンジョンへ行くらしい。
「今からだと、ちょっと見回りするくらいだろうけどな。……ああ、そうだ。見回りで思い出した。ツグ、ミデン・ダンジョン近くで、デーモンの目撃情報があった。お前たちも気をつけろ」
「デーモンだって?」
いわゆる悪魔だ。魔界に棲むと言われ、こちらの世界に現れては深刻な被害を与える災厄を引き起こしたりする。
俺は、ちら、とネージュを見た。ロッチの声が聞こえたのか、デーモンという単語にひどく眉をしかめている。
元王族である彼女の国、ビランジャ王国は魔界の悪魔と邪竜によって滅ぼされた。
つい最近、ダンジョンにその邪竜が現れたが、まさかそれと関係があったり……?
「わかった。気をつける。あんたも気をつけろよ。デーモンは並の魔獣より強い」
「おう! じゃあ、またな」
ロッチたちオルデンは、ポルトン廃村を出た。
悪魔ねぇ。……悪いことの前触れじゃないといいんだけど。
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