嫉妬する男がいました
翌日、冒険者ギルドへ行き、昨夜倒したグリフォンとグレイウルフの解体をしてもらった。
一応、クエストではないが魔獣を倒して討伐部位の証明をしたら、ウイエさんから、お知らせがきた。
「おめでとうございます! セアちゃんの規定評価ポイントが貯まりましたので、ランクがFからEランクに昇級です!」
昨日のオーガ変異種討伐クエストで、セアは通常オーガを三体倒した。オーガ自体、モンスターランクが中堅から上位なので、それを倒せるということはかなりの評価点となる。
「オーガ討伐でかなり点になりましたね。Dランクの基準点も近いです。この分だと、セアちゃんの次の昇級もあっという間かもしれませんねー」
「……」
相変わらずの無表情なセアだが、俺には彼女がちょっと赤面しているように見えた。あまり人に褒められたことがないから耐性がないんだよなぁ。
「……こんな、ちっこいのが、オーガを倒せるのか?」
隣のカウンターにいた冒険者がそんなことを言った。――ああ?
見ればBランクパーティー『ガニアン』のアロガンだった。……近くにアヴィドがいるのではないか――俺はとっさに見回してしまった。いつでも索敵スキルを使っているわけではないのだ。
巨漢の戦士は、セアを見下ろす。
「どうせ、ツグが弱らせたか、譲ったんだろ」
「んだとっ!」
声を荒げたのはフラム・クリムだった。ズイっとアロガンに詰め寄る。長身同士、迫力も負けていない。
「セアは、なりは小さいが、オーガのここを一撃で仕留めるんだぜ!」
フラム・クリムは自身のこめかみ当たりを指でえぐるような仕草をする。
「そんじょそこらの連中と一緒にしてほしくないね! ……おら、何か言えよ?」
威圧するフラムに、アロガンは押し黙る。
え、まさか圧倒しちゃってる? ガニアンにいた頃のアロガンって、少なくともメンチ切られて黙るような奴じゃなかったんだが……。俺もびっくり。
「……可憐だ」
「はぁ!?」
ボソリとアロガンが言った。
「あんた、付き合ってる男はいるのか?」
「な、何言い出すんだ、こいつ!」
気持ちわるっ、とフラム・クリムがドン引きしている。アロガンの奴、まさか一目惚れしたのか? フラム・クリムに? マジか……。
「オレ様はガニアンに所属しているBランク冒険者だ。い、今、パーティーメンバーを募集しているんだ。……あ、あんた、入らないか? オレ様が口添えしてやる」
「ふっざけんな! 名前を聞きもせず勧誘たあ礼儀をわきまえろよ」
「オレ様はアロガン。あ、あんたは?」
「教えるか、馬鹿が! ほら、セア、さっさと行くぞ」
セアの両肩に手を置いて、フラム・クリムがカウンターを離れる。
「ツグ……」
「そんな目で見ても知らん」
気持ちの悪い奴だな。俺もさっさと離れる。物欲しそうな目を向けられてもな、俺はもうガニアンとは縁を切ったんだよ。
掲示板にはネージュとヘイレンさんがいた。
「何かよさそうなクエストはあったかい?」
「ツグ様」
ヘイレンさんが視線を動かさずに言った。
「先日、姫様に絡んできた男が、こちらを見ております」
「アヴィドか……」
アロガンがいたんだ。リーダーのアヴィドもいるわな。いなくていいんだけどな。
「近づいては来ないんだな」
だが、何だか殺意じみたものを感じるね。俺へのヘイト溜めてるっぽいな。安心した。俺もあの野郎へのヘイトを溜めてるからな。引き続き嫌うことができる。中指でも立ててやろうかしらん。お下品でございますが。
そうとは知らないだろうネージュが、クエスト表のひとつを指さした。
「廃村にゴブリンが住み着いたので討伐してほしい、というパーティー向けのクエストがありますよ。ランクはC」
「じゃあ、俺がいるから受けられるな」
「大丈夫でしょうか?」
ヘイレンさんが心持ち眉をひそめた。
「廃村ということは、隠れる場所も多いやもしれません。そこに狡猾なゴブリンの組み合わせとなると、罠や、予想以上の数がいる可能性もあります」
「だろうね。でも放置しておいたら、もっと厄介なことになるだろう」
ゴブリンの巣は早めに駆除しないと後が面倒だ。あいつらの増える速度って尋常じゃない。
俺はこの廃村のゴブリン討伐のクエストを受けることにした。
・ ・ ・
アヴィドは、苛立っていた。
パーティーを追放したツグが、気づけばBランク冒険者になっていた。しかも美女の騎士や美少女とパーティーを組んでいる。
何でだ!? あの万年Eランクが、上級冒険者の仲間入りを果たした、というのが、まず許せなかった。地味で目立たない雑用で、戦場で役に立たない雑魚が、ドラゴンを討伐したなど、信じられなかった。
おまけにここ最近の反抗的な態度。おかげでアヴィドは、かかなくてもいい恥をかかされることになった。
「きっと不正をしたに違いない。奴を懲らしめなければいけない! そうだろ!?」
アヴィドは、ガニアンの面々に言った。戦士アロガン、女騎士テチ、治癒術士のトリスの三人は、すぐに答えなかった。
「オレ様はパス」
アロガンは投げやりな態度だった。
「何でだ!?」
「あの美人がいる。オレ様はあの娘に嫌われたくない」
「はあ!?」
あのデカブツ女か――アヴィドは思い出して苦虫を噛み潰したような顔になる。彼も、アロガンが受付カウンターで絡んでいたのを見ていたのだ。
「不正をした証拠はあるのか?」
テチが、仏頂面で言った。この堅物騎士は、最近常に苛ついている。
「ない。だが不正をしたはずだ! だってあのツグだぞ!? どうやってもドラゴンを倒せるわけがない!」
「……証拠もなしに懲らしめるとか、単なる八つ当たりか? みっともない」
「何だとテチ!」
アヴィドは逆上した。しかしテチは動じず、むしろ蔑みの視線を寄こす。
「そのカッとなりやすい性格、どうにかならんのか。そんなことだから、欠員が埋まらんのだ」
弓使いのインスィーが死んで、新たにメンバーを募集しているものの、希望者は現れていない。
ふつうBランク冒険者のパーティーと聞けば、それなりに希望者が来るものだ。だが、『ガニアン』は、すでにアルドズーハでは悪い印象が広まってしまっていた。
Aランクパーティー『オルデン』のロッチに睨まれたのが、それに拍車をかけていたのだが、ガニアン・メンバーにはまるで自覚がなかった。
「……」
トリスは沈黙している。アヴィドは彼には聞かなかった。初めから意見を聞くつもりがなかったのか、あるいはテチに神経を逆なでにされて忘却しているのか。
結果的に、メンバー全員からも相手にされず、アヴィドは怒りを溜め込む。
「ツグめ……。ツグめ……!」
メンバーの前だというのに、地団駄を踏むリーダー。アロガンは完全に意識の外で、テチは呆れ果て、トリスもまた無視した。
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