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雷獣だけではなかった


 雷獣を回収し、ダンジョンの探索を続ける俺たち。しばらく魔獣が出てこなかったが、もしかしたら雷獣のテリトリーだったのかもしれない。


 またひとつ分、階を下った時、索敵スキルが移動する物体を捉えた。


「……人間、冒険者か」


 反応は三つ。走っていると思われたそれが、急にひとつが止まり、続いてふたつも止まった。


 何だ……?


 何かに遭遇した、というわけでもなさそうだ。というのも、最初に止まったのが最後尾の奴だからだ。もし移動中に何かとぶつかるなら、先頭のやつが止まらないと不自然である。


 何か話し合ってるか……?


 近づく手もあるが、盗賊とか悪徳冒険者だと嫌だ。うん――。俺は手帳を取り出して記入する。


 聞き耳。遠方でも音を拾う能力っと。ちゃんとそれが聞こえるかはやってみないとわからないけど、物は試しってやつだ。どれどれ……。


『――やめようぜ』

『何でだよ!』


 男たちの声だ。


『早く、ギルドにこのことを報告しないと!』

『行っても、どうせ手遅れさ。ここからどれだけ離れていると思っているんだ。あの女騎士も、冒険者も、ブラックドラゴンの餌食になってらあ』


 ブラックドラゴン……?


 俺は耳を疑った。ドラゴンって言ったか。


 魔獣界最強の生物と言われる種族、それがドラゴン族である。上級のドラゴンともなれば、国ひとつを滅ぼすと言われる。下級のドラゴンでもトップランクの冒険者が苦戦は免れないという、超危険生物だ。


 下級の冒険者なら、遭遇したら即逃げろと言われているほどである。


「こんな浅い階層にドラゴンなんて出るのか?」

「ツグ……?」


 俺の呟きに、セアが顔を上げた。聞き耳を立てる。


『――でも、助けを呼んでって言われただろう?』

『だから、無駄だって言ってるだろ。どうせ死んでるよ!』


 つまり、ブラックドラゴンと戦っている冒険者がいて、彼らは冒険者ギルドに救援を呼びにいくよう頼まれたわけだ。だが、そのうちのひとりが、もう手遅れと足を止めてしまった、と……。


 俺は、マップを確認。索敵と合わせてみて……おっと、これかな。


 強そうな反応がひとつと、その周りに複数の人間を確認。動きからして、まだ戦っているようだ。


 ドラゴンか……。触らぬ神に祟りなし、ってどこの言葉だっけ? まあいいや。


 ガニアンにいた頃なら、ドラゴンと聞いて回避を口にしただろう。過去ドラゴンに遭遇したことがあるが、リーダーのアヴィドの気分次第だったから、撤退もあれば無謀な突撃をすることもあった。


 ……今の俺なら、どうだろう?


 こみ上げる思い。執筆チートによって、俺の戦闘能力は上がっている。さっきAランク相当である雷獣も退けた。……いや、あれはラッキーの類だ。


 だが、ドラゴンはあの雷獣より遅い。


 一度、仕掛けてみよう。もし手に負えないようなら、魔法なり何なりを使って逃げる。


「セア、ダンジョンにドラゴンがいるんだ」

「……」

「他の冒険者が戦っているらしいが、ちょっと様子を見に行こうと思う」

「わかった」


 セアはコクリと頷いた。ドラゴンと聞いて、まったく取り乱すこともなく、むしろ反応が薄かった。……ひょっとしてドラゴンを知らないのかもしれない。


 俺は移動しながら、セアにドラゴンについて説明してみる。彼女曰く、戦ったことはないけど、名前と特徴は知っている、とのことだった。


「怖くないか?」

「ううん。ツグと一緒だから平気」


 曇りなき眼で言われると、何だかむず痒いね。


 駆け足で現場へと走る俺とセア。遠くから咆哮が聞こえた。


 ドラゴンだ。その猛り狂った声を聞けば、まだ戦闘中だってわかる。


 いた! 漆黒のドラゴンだ。やや広いドーム状の空間に、高さ3メートル強、頭から尻尾まで10メートルは超えるドラゴンがいた。背中には翼があり、前足は短め、しかし太い後ろ足は力強い。


 そのドラゴンと対峙するは、ひとりの女騎士。白銀の鎧をまとい、盾とロングソードを持つその娘は、金色に輝く長い髪を振り乱し、ドラゴンの噛みつきを回避した。


「てえぇいーっ!」


 ガキン!


 女騎士がカウンター気味の斬撃を繰り出すが、漆黒のドラゴンの鱗は厚く歯がたたない!


 そのドラゴンの周りには、他にも冒険者らしき戦士が数人――


「くぅらぁええいッ!」


 ガッチリした重騎士が巨大なメイスを叩きつけるが、これもまたドラゴンの装甲を傷つけることができない。


 いや、メイスは打撃武器。外見に傷はつかなくても、内臓などにダメージを与える。しかし、ドラゴンはまったく怯まず、その長い尻尾を振るい、近くにいた戦士をひとり吹き飛ばした。


「ランドルフ!」


 重騎士が、仲間だろう名前を叫んだ。すると女騎士が声を張り上げた。


「もういい、あなた達も引いてください! この邪竜の相手は無理です!」

「冗談! 小娘に指図される覚えはない!」


 重騎士が叫び返した。


「ドラゴンは、オレたちで必ず倒す!」


 どうも女騎士と重騎士は仲間というわけではなさそうだ。即席パーティーか。どうにも状況がよろしくないようだから、このまま介入させてもらおう。


 俺はそのまま戦闘に突入する。


「助太刀させてもらう!」

「お、おう!」


 重騎士が反射で答えた。


 さて、鑑定によると、こいつはデビルドラゴン――魔界の悪魔竜という。……魔界?


 引っかかるものを覚えつつ、深く考えている余裕はない。Sランク相当の魔獣だ。ショートソードに『硬化』の魔法を付与。


 装甲が分厚いのはわかっている。MAXパワーをぶつけて、剣が耐えきれないのが想像をついたので硬くする!


 渾身の力を込めて、地面を蹴り、跳躍。くらえや、必殺のーっ、一撃ぃっ!!


 ズバッ! 


 鱗を切り裂き、厚い肉の感触が手に伝わる!


 ガッ! バキッ!


「ンン! 折れたぁー!」


 硬い感触で止まった直後、強化したがショートソードが折れた。俺は反動で一回転しながら、ドラゴンの反対側に着地する!


 くそっ、首を落とせなかった!


「なんだと! あのドラゴンの首に刃を通しただとッ!?」


 重騎士の驚く声が聞こえた。


 折れた刃は、まだデビルドラゴンの首に刺さっていた。苦悶の咆哮が轟く。刃を取り除きたいが、ドラゴンの前足では届かないようだ。多少、血が出たようだが、致命傷には見えない。


 そこへセアが果敢にドラゴンの頭へと飛びかかった。両手のラン・クープラから出した刃を振るうが、ドラゴンの額を貫けない。


 デビルドラゴンは頭に乗ったセアへと注意が向く。さながら暴れ馬に乗っているような状態だ。危険な状況だが、セアは巧みに振り落とされないように頑張っている。


 俺は異空間収納から、複製したショートソードを取り出す。硬化の魔法で強化。さらに重ねて強化、強化、強化!


 加速して、デビルドラゴンの左側へ再度回り込む。


「今度は落としてやるよ、その首ぃ!」

「危ない!」


 女騎士の声がした。頭の上のセアを排除しようと、ドラゴンが口から青い炎のブレスを吐いたのだ。セアはドラゴンの背に乗って、さらなる死角へと逃れる。


 っと! 俺の眼前に、デビルドラゴンの尻尾が鞭のように迫っていた。ちっ、避けてる余裕はねえ! このまま剣を振り上げ、叩きつける。


 尻尾が折れた。俺の剣はドラゴンの尻尾を両断した。よし、強度は充分! このまま引導を渡してやる!


 俺は反転し、先ほど切り込みを入れたドラゴンの首めがけて跳躍、斬撃を打ち込んだ。


 再び腕に衝撃。しかし今度はそのつっかえた部分――デビルドラゴンの首の骨を砕いたのがわかった。残りの肉も分断して――斬首!


 デビルドラゴンの首が飛んだ。なんだ、俺、けっこうやれるじゃん。

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