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追放されて死にかけて


 ふっ、と目が覚める。……あれ、俺、意識が飛んでいた?  何で?


 左脇腹が燃えるように熱かった。あ、これ、刺されたわ――俺は瞬時に理解し、患部を押さえ込んだ。


 痛い。ベットリとした血の手触り。


「……」


 どうしてこうなった? 俺は頭を働かせる。そして思い出した。


「……そうか、俺。パーティーから追い出されたんだった」


 時間は少しさかのぼる。



 ・ ・ ・



「――ツグ、お前、ここから出て行け。追放だ」


 俺にかけられたその言葉。

 それを発した青年魔術師アヴィドは冒険者パーティー『ガニアン』のリーダーだ。


「聞こえなかったか、おっさん。追放だ、追放!」

「は?」


 アヴィドの無遠慮な言葉。俺は意味を理解するのに数秒を必要とした。


 突然過ぎた。


「除名だ。クビだ。お前、ぶっちゃけ邪魔!」


 アヴィドは容赦なかった。パーティーメンバーたちもまた、俺に冷たい視線を向けてくる。


「ホント、目障りなんだよね。目の前をウロチョロされるとさぁ」


 エルフの弓使いであるイリスィが睨んでくる。


「あんたは前衛の戦士でしょ。なのに、一歩下がったところにいてさ。情けないと思わないの?」

「はあ? 俺は遊撃のポジションで――」

「だから、その遊撃ポジはアタシでしょ? あんたは戦士よ、戦士。前で戦いなさいよ、ボンクラ!」


 は? ろくな援護も遊撃もしないアーチャーが何を言ってるんだ? 


「そうは言うがな、イリスィ」


 女騎士――テチが腕を組む。


「正直、ツグは前衛として不足なんだが」


 不満をにじませるテチ。


「こいつは、いてもいなくても一緒だろう」

「そうさなぁ……」


 パワーファイターであるアロガンが、ニヤリとした。


「ツグは、オレ様みたいに力があるわけじゃないし、テチのように防御力があるわけでもない」


 アロガンは肩をすくめて俺を見た。


「まあ、仕方ねぇよ。誰もがオレ様のようなパワーに恵まれているわけじゃねえ。ツグは、まあ普通だよ、普通」

「いいか、ツグ。アロガンの言う普通と言うのは、そこらの数あわせの農民兵と変わらんという意味だ」


 テチの言葉は、俺の心をえぐった。おい、ふざけるなよ――


「それは言い過ぎだろ!」


 俺は冒険者を10年近くやってきた。だから素人扱いされるのは我慢ならなかった。パワーとか、防御とか、秀でている奴と比べれば、そりゃ大抵は劣っているだろうよ。


 だが、それで俺が馬鹿にされる理由にはならない。

 

 テチより小回りが利くし、技ならアロガンより上だ。

 そもそも、自分のことしか見えてない前衛ふたりの側面防御を担ったり、援護したり。……何度、前衛組のガラ空きの背中を守ってやったことか。


 それにろくな援護をしない、自己中心的な後衛の盾になったりと、俺はパーティーの不足している部分を守っていた。


「オレたちはお前を除けば、皆Bランク。なのに、お前はまだEランク。ぶっちゃけ、迷惑なんだよ。上級パーティーにEランクがいるのはよ」


 アヴィドが口を尖らせた。


 それはギルドの査定システムも影響している。冒険者の昇進システムは、敵を倒した数が重要視される。


 そしてガニアンでモンスターにトドメを刺しているのは、オレがオレがと前のめりな仲間たちとなる。

 俺は、パーティーメンバーの援護や穴埋めをこなした結果、モンスター撃破数は伸びていない。


 アシスト役が多い上に、たまに手を出そうものなら『それはオレの獲物だ』だの、『おっさん、邪魔!』と悪態までつかれる始末。しかも獲物だなんだいいながら、別の敵に手を出していたりする。


 俺が妨害しているのなら、気をつけもするし反省もするが、そうじゃないのが問題だ。特に後衛のアヴィドとイリスィは露骨だった。むしろ、俺の昇級の邪魔をしているのは、そちらではないかと思うことすらある。


 それに何も戦闘に限った話じゃない。俺は、字の読めないこいつらのために、クエストを取ってきたり後処理をしたりしている。細かいことが苦手で、やりたがらない装備の補充などの雑務もやって貢献している。


 脳筋なアロガンやテチ、傲慢リーダーのアヴィド、わがままなイリスィ。そして先ほどから黙っているが、人を見下したような態度をとるヒーラーのトリス。


「お前らわかっているのか? 俺がいなくなったら、このパーティーは――」

「清々するわ」


 イリスィが吐き捨てる。テチも頷いた。


「お前がいなくなっても私は困らん」

「鬱陶しいのがいなくなって気分がいいわ」

「俺は胸くそ悪いぞ、イリスィ!」


 だいたい、面倒くさがりでいい加減なお前の矢を調達しているのは誰だがわかってるのか?


 睨む俺をよそに、アヴィドは、犬を追い払うように手を振った。


「ほら、パーティーの共有資産を置いて、とっとと出てけ。お前がいると、うちの品格が落ちるんだよ」

「最初から、そんな品格なんてないだろうがよ!」


 俺はそう怒鳴った。だが察してしまった。


 パーティーの誰ひとり、味方はいない。むしろ敵だ。さっさと追放したくて、とことん冷淡になっているのだ。


 こいつらと組んだ頃は皆ランクも低く、関係も悪くなかったのに、いつからこんなになっちまったんだろう。


 ガムシャラに突き進み、見ていて危なっかしいこいつらを俺はサポートしてきた。


 精一杯、貢献してきたつもりだった。特に大きな失敗をしたわけでもなく、追放理由に納得もできなかった。


 理不尽。気に入らない。言いがかりをつけて俺を役立たずと言いやがった。


 惨めだった。自然と握っていた拳。ここまで虚しさをおぼえたのは初めてだ。


 評価もされず、ご苦労さんの言葉すらない、クソ野郎ども。



 俺は(きびす)を返すと、もう連中を見なかった。怒りと悔しさがない交ぜになり、脳が煮えるほどの熱を感じた。


 だが、ひとたび離れていくと、寂しさというか、落胆もまた大きくなってきた。


 これからどうしようか……。


 追放された以上、もはや、パーティーのホームにも帰れない。支度の間もなく追い出されたから、装備もあまりない。


 とか、考えていたら、路地に入り込んでいて、そこでいきなり脇腹を刺された。


 物盗りだった。ベルトに下げていたショートソードと、わずかながらの金が入った袋を持っていかれて、今に至る……。



 ・ ・ ・



 俺は路地裏で死にかけている。どんより曇った空を見上げて、地面に寝転がっているのだ。


 くそ、ここで終わりかよ……。


 人生26年。貧乏で、冒険者をやって、所属したパーティーを上級にまで引き上げるために尽力したが、最期は蔑まれて死ぬ。何の意味があったんだよ、こんなの……。


 体は冷えていくのに、目もとが熱い。涙がたまってくる。


 くそっ、くそがよ……!


 ふと、目の前に光が見えた。


「……へへ、いよいよお迎えがきたってか?」


 光の玉ってことは行くのは天国か? などと思っていたら、男の声がした。


『お前、俺が見えるのか?』

「ん? 何だって……?」


 頭の中がぼんやりとしてきた。これはいよいよ終わりか。


『ふむ、お前は俺が見えたというわけか。ひょっとしたら入れるかもしれんな。駄目でもともとだ、やってみる』


 すっと光の玉が、俺の胸あたりに近づいてきた。


『うまくいったらお慰み。……乗っ取ってしまっても恨まないでくれよ』


 その瞬間、光の玉が俺の体に入り込み。そして俺の意識は途絶えた。



 ・ ・ ・



 目が覚める。デジャヴだ。


 俺は体を起こす。はて、ここで何をしていたか。少し考えて思い出す。


 冒険者パーティー『ガニアン』を追い出され、物盗りに刺されて死にかけたところで、光の玉が入ってきて――


「俺は……生きて?」


 乗っ取ってしまっても……なんて言葉を聞いたような気がしたが、あれは何だったか。とくに何かに取り憑かれたということもなさそうだが……。


「あ、怪我がない!?」


 脇腹を刺されていたはず! だが服に穴が開いていて、血の跡はあるが、傷はなくなっていた。


「俺はツグ。Eランクの冒険者。26歳」


 呟いてみて、ふと光の玉が入った胸のあたりを探る。……ん? 胸ポケットの中に何か入ってる。


「……本?」


 小さな本――いや手帳だ。……テチョウ? なんだ手帳って?


 わからない単語だったが、何故かすぐにそれが何なのかわかった。初めて見るはずなのに、それがわかる。


 備え付けの鉛筆がついていた。これも初めてなのに、何故か書くものだとわかる。俺はそれを取ると、手帳をペラペラとめくった。


「異世界転生したら……?」


 そこに書かれていた文字は、これまで見たことがなかったのに読むことができた。わけがわからないが、わかるのだ。


「ステータス……? トガツグ?」


 名前だろうか。おいおい、俺の名前はツグだぜ。誰だよ、トガツグって。


 俺は鉛筆で、名前のところを修正した。そしてそのページを眺める。


 そこには力とか素早さとか魔力とか、色々書かれているが、そこにMAXとそれぞれ書かれていた。


 うん、何となく理解した。これは俺のステータスだ。ラノベを書くためのキャラ作りで書いた……?


「んん? ラノベ? 何だ、ラノベって?」


 おかしい。俺、なんかおかしい。知らないことや知識が、当然のようにあって、混乱してしまう。


「……!」


 その時、背後に気配を感じた。振り向けば、そこに少女がひとり立っていた。


 不思議な髪色だった。水色のショートカット。ぼろい簡素な服をまとった、見るからに小汚い子供。12、3歳くらいか。路地裏の孤児のように見えて、しかし、その整った顔立ちに、綺麗なアクアマリンの瞳は美しかった。


「……まるで天使か女神だ」


 俺は思わず呟いてしまった。その彼女は、小さく首をかしげる。


「ここで何をしているの……? おじさん?」


 か細い声で、少女は問うた。

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