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転生した私はバイプレイヤーで満足です  作者: 乙 麻実
バイプレーヤーは目立ってはいけないと思います
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恐れ多いことですが、ユマニチュードさせていただきます

光偉が来訪した用件というのは、宋先生に診察の依頼だった。この宋先生、秦陽国の医術の第一人者である。

朝陽城の城内に設置されている治薬院に住んでいるが、彼の活躍は城内に留まらず、必要であれば全国どこにでも治療に行く事もある。


今のところ病気も怪我もしたことがないためあの神秘な光を体験したことはないが、宋先生は正攻法である漢方内服治療や針灸治療とゲームで言えば回復の呪文?いや回復系超能力を使う。


そして、今回宋先生へ診察を依頼されたのは御上である照陽王だ。


『 大皇太后のお体を診察するように。その際は秀鈴を同行させること 』


との命令が下された。


「 私もぉ?? なぜに? 」


光偉と宋先生が話しているのについ口を挟んでいた。ハッとして慌てて手を口に当てるがもう遅く、宋先生の冷たい視線が秀鈴に突き刺さる。


( うう~~、怖い )


この視線、いつかどこかで体験した気がする。あれは・・・、確か元の世界での体験。仕事の出来る医師や先輩看護師に、失敗した時や手際が悪い時に浴びせられる視線や態度だ。自然と背筋がピシッとしてしまう。


「 承知致しました。 御伺いいたします 」


照陽王の命を伝えた光偉に向かい胸に手を当て礼をする。身分的には光偉は宋先生よりも高くなるため当たり前の光景だが、秀鈴にとってはそれが不自然な感じに思えてしまう。


「 胡 秀鈴。 頭が高い 」


宋先生はいつも秀鈴をフルネームで呼ぶ。そう言われて秀鈴は慌てて光偉に跪いて礼を取る。


「 それでは明日、黒陽殿(皇太后達がお住いのところ)へ 」

そう告げて光偉は帰っていった。



翌日、秀鈴は助手の亮と一緒に宋先生の荷物持ちとして一緒に黒陽殿に参内した。お昼を少し過ぎた時間、本来であれば一番大事な主人である鄭妃のお世話を巻いて巻いてやってきたため疲れ果てていた。


頭を低くして宋先生の背に隠れて控えているが、その場は常人であれば身が震えるような状況だった。


診察依頼をしてきた張本人大皇太后は皇太后と並んで座しているがその左側にはなんと照陽王本人までお見えになっている。


( 場違いじゃんかこれ )


この前、大皇太后の背中をバシバシ叩いたことを罰する公開処刑なのかもしれないと不安になる。

一段高い場所から見下ろす大皇太后はまっすぐ前を向き、怒ったように無表情だ。


( 私の2回目の人生・・終わったかも・・・ )


中華後宮ドラマのドロドロなのを思い出して、良くて棒叩きだし、悪くて打ち首だと不安を募らせる。


「 そなたがあの時の? 」


皇太后の方が宋先生の後ろに隠れる秀鈴に声を掛ける。答えられるずにいる秀鈴に流し目で答えるように宋先生が促す。


「 はい。胡 秀鈴にございます 」


仕方なく俯いたまま答える。


「 面を上げよ・・・こちらへ 」


皇太后の声が秀鈴に命令する。ゆるりと顔を上げて皇太后をみると、その隣に座している大皇太后が手招きしているのが見える。


( こっちに来いってこと? ど・どうすればいいの~ )


大皇太后は手招きしながら無表情で怖い。皇太后や照陽王もみんな秀鈴を見ている。助けを求めるように宋先生を見ると、視線で前に進み出るように促してくる。


仕方がなく今の位置より1mほど前に進んで再度ひれ伏す。


「 もっと前に 」


皇太后が代弁して言う。大皇太后は無言で手招きするだけだ。皇太后でも50歳過ぎなのだから、大皇太后は60歳後半か・・・それ以上だろう。

侍女が何か話しかけているがその声は聞こえているのかいないのか返事もしない。


秀鈴は遠慮がちにススっともう1m進んでみたが、手招きする手は止まらない。結局その手が止まるまで近づく羽目になり、恐れ多くも手の届く近さの距離まで来ていた。


( あれ?もしかして? )


「 大皇太后様  胡 秀鈴 です 」


かすかに右耳を前に出すような素振りをするのを見逃さなかった秀鈴は、少し近づき右側の耳に向かって低くちょっと大きな声で自分の名前を言ってみる。


すると、


「 お前が 秀鈴か? 」


大皇太后はくしゃりと笑顔を作って低く大きな声で言う。


「 はい そうです 」


握手でもするように手を伸ばしてくるため、両手でその手をそっと握らせていただきながら、オーバーリアクションで頷き右耳に話しかける。


「 礼を言う よく助けてくれた 」


短い会話であるがその中で、昔のことを思い出していた。


( ユマニチュードってこんな感じだったかしら? )

注:ユマニチュードとは  認知症の人や高齢者に限らず、ケアを必要とするすべての人に向けた、知覚・感覚・言語による包括的コミュニケーションに基づいたケア技法


秀鈴が思うに彼女は難聴で聞き取りにくいようだ。右耳の方が聞こえやすいから話しかけるときはそちらからちょっと低いトーンで大きな声で言えば聞こえるのではないかと・・・


声が聞こえることで表情がまったく変わって穏やかになり会話も進む。大皇太后は秀鈴がどのように自分を助けたのか聞きたがり、その時のことをゆっくり大きな声で話して説明する。


ここまで話をする大皇太后に驚いたのは、その場にいた皇太后、そして照陽王だ。皇太后はただ動揺しているだけみたいだったが、照陽王は穏やかな笑みを浮かべている。

だが宋先生だけはその様子を表情を全く変えることなく冷静に見ていた。


すっかり意気投合してしまった秀鈴は、大皇太后にいたく気に入られまた来るようにと約束させられたのだった。

ありがとうございました


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