この世界の医師は呪術使いなのか
(目の前に綺麗なお姉さん・・・もとい、お兄さんがいる)
簡素であるが品のある住まいには、どこか懐かしいような、いやちょっと違う感じか?独特なお香のような匂いが立ち込めていた。
もう数刻この場所で放置され立たされている秀鈴は、飽きることなく自分に背を向けて何か作業している人物を見つめていた。
腰までの銀色の長い髪、色白な肌は陶器の白磁のように透き通り、赤みのかかる黒色の瞳は手にした書物に向けられていて部屋に通された秀鈴を見ることは全くなかった。
(妖精? 聖人? 仙人?)
いつまで見ていても癒される。こんな人間がこの世界には存在するのだと感心するし、こんな機会があって得した気分でなんとなく手を合わせて拝んでいた。
大皇太后の窒息回避に尽力したにもかかわらず、秀鈴は丸2日牢屋に監禁されていた。まあ、助けようとしたとはいえ、大皇太后の背中を叩いてしまったのだから打ち首になってもおかしくなかった。
だから、急に牢から出されて連れてこられたところがここで、もしかしてすでに処刑されて天国に来てしまったのかと錯覚を起こしそうになっている。
「 先生 」
元気な声が響いて部屋に飛び込んできたのは、見たことがあるけど自分なんかが見たことがあると言っちゃいけないお方だった。
(で? 殿下?)
そう、彼は杜 光偉の時にお見掛けした皇太子様、王 雲陽だ。光偉と雲陽のお付きの宦官も彼の後に続いて部屋に入ってくる。
「 雲陽様 このようなところへお越しいただき恐悦至極にございます」
皇太子から「先生」と呼ばれた綺麗なお兄さんは、柔らかい笑みを浮かべて右手を胸に当てお辞儀しながら跪く。
「 楽にしてくれ 」
「 はい ありがとうございます 」
2人の仲は良好みたいで、秀鈴の存在など全くないみたいに2人の世界に入っている。
雲陽は皇帝の血筋を引き継ぎ、瞳の色はエメラルドグリーンだ。皇帝というよりも母の皇后に似たのか二重の大きな瞳で童顔のため、鄭妃の4歳上で19歳のはずだが実年齢よりも幼く見える。(ということは秀鈴の1つ年下)
「 胡 秀鈴 久しいな 」
秀鈴は雲陽が部屋に入ってきてから跪き礼を取る姿勢で控えていた。
「 は・・・はい 」
俯いたまま返事を返したが、こんなときになんと返事していいのか分からず曖昧に言葉を濁す。
高貴な身分の彼から『久しぶり』と言われるほど仲良しな関係ではない。雲の上の身分の人とどう話せばいいのか分からない。尊敬語?謙譲語?丁寧語?・・・使い方をネット検索しておけばよかったと後悔しても遅い。
「 先生、秀鈴があの時、光偉の手当をした侍女だよ 」
童顔に満面の笑みを浮かべて自慢気に綺麗な先生に胸を張って紹介する。
「 そうですか、あの時の・・・ 」
先生の視線が初めて秀鈴に向く。でもそれは一瞬に過ぎない。視線は秀鈴を通り越し雲陽の背後に控える光偉へ移る。
「 光偉殿、その後傷の方はどうですか? 」
「 はい、宋先生の御蔭でほとんど元のようになっています 」
いつも秀鈴と話をする時の砕けた無礼な物言いではない余所行きの光偉が、宋と呼ぶ先生に答える。
「 診てみましょう。こちらに 」
雲陽に視線を向けた光偉は、頷き診てもらうように促す彼に一礼をした後、宋先生の前に進み出る。
この前迷子になった際に見た傷は傷跡がミミズ腫れにはなっていたが問題ない感じだった。受傷したとき一瞬だったが傷はかなりの大きさで深かった。出血の仕方を見ても大きな動脈を損傷しているわけではなさそうだったが、あれだけの傷を負い回復するためには抗生剤もいるだろうし時間もかかる筈だ。
( あの短期間でどうやって治したのかしら? )
秀鈴がそんなことを考えている目の前で、宋先生は光偉の負傷した腕に手をかざす。
( なんかのおまじない? )
訝って見ている秀鈴の前で、信じられない光景が繰り広げられる。現代でもそんなのあり得ない光景。
漫画やアニメの世界でしかあり得んでしょ。
宋先生の手のひらから不思議な光とそれと共に蜃気楼のように空気が揺れるような、今までに見たこともない超常現象を見てしまった。
( これはなんなの!? 呪術ですか?これは!! )




