女神信仰
『女神信仰』
それは山東教国の根幹となる。唯一絶対の神を信仰し、神が預言者としての聖女を通じて人々に下したとされる女神信仰の教えを信じ、従う一神教である。国王をはじめ国民すべてが『女神信仰』信じ従う絶対的存在だ。
小高い山の上に作られたゴシック建築用の城郭に隣接する大聖堂。この世界は異質だが、どこかで現代とつながっている。まだ行ったことのない地域も、こんな風にどこかで知っているどこかで見たことがある風景になっているのかもしれない。
(それにしても・・・コレは・・・)
秀鈴は思っていた。
山東教国は三大大国の1つとされる。この世界の中心に位置している秦陽国と比べてはいけないのかもしれないが、山東教国に入ってからほどんど人影をみることがなく異常な雰囲気だ。拉致され監禁されている状態なのだから他の人間とは接触しないようになっているのかもしれないが、監禁された部屋からサイラスの執務室へそしてここ大聖堂シュッツエンゲルまで移動したが人とすれ違うことはなかった。
「 こちらです 」
大聖堂というには小ぶりの聖堂ではあるが造りは歴史が刻まれたような重みがある建物だ。
秀鈴とここまで同行したのはサイラスと食事や衣類を運んできたまだ年若い少年従者、そして唯一剣を帯刀した騎士の3人のみだった。
大聖堂の中は普通大司教やら教徒達がいるものだと思ったが、誰一人いない怖いほど静まり返った空間があるのみだった。サイラスが目で合図を送り従者と騎士は外で待機し、扉の中にはサイラスと秀鈴のみが入っていく。
「 すごい、けど 怖い 」
表情にも感情が出るが考えていることが素直に声にも出る。後ろを歩いていた秀鈴だったが、大聖堂の何とも言えない空気に慄き無意識にサイラスとの距離を詰めて彼の右腕を掴んでいた。
「 ふふ 」
頭の上からくぐもった笑いが降ってきた気がして長身のサイラスを見上げた。
「 あ、今 笑った? 」
「 笑ってません 」
「 え?笑ってたじゃん 」
「 ・・・ 」
真面目モードに戻ったサイラスの鉄仮面はそれ以上崩すことができなかったが、秀鈴が掴んでいる手を振りほどくこともしなかった。サイラスはそのまま引きずる様に秀鈴を目的の場所まで連れて行った。
神聖でありながら壮観なこの空間に異質な、それは祭壇の裏にあった。
『 あの、何か勘違いしているみたいなんではっきり言います。私は何も能力ないですから。勝手に期待して期待に応えられんかったら殺されるとか・・・そんなことムリ。今までどんだけ目立たないように空気のように生きてきたんです。もし何も起こらなかったとしても絶対文句言わんといてくださいよ 』
執務室でこの国の『女神信仰』についての説明を受けた後、秀鈴がそう食い下がったがサイラスは彼女のことを聖女だとなぜか確信していた。
「 ここ? 」
「 ・・・ 」
秀鈴が指差すところには他の場所とはどう見ても・・・建築素材からしていびつなベニヤ板でできた様な扉がくっついている。言葉の通り本当にトイレの扉のような取っ手がくっついた状態のものだ。懐かしくはあるがここに滅茶苦茶似つかない。
「 何か見えますか? 」
「 え?ああ、なんというか地味な扉ついてますけど? サイラス様には見えないのですか? 」
「 ええ、私には壁が見えるだけです 」
「 ほんとですか? 怖いんですが 」
自分には見えるがサイラスには見えない。それは昨日泊った部屋の隠された扉のようだ。今はその立場が逆になっているが。
「 それで、ここに私が入れと? 」
「 そうです 」
「 中で何をすればいいんですか? 」
中に入れと言われても入ってどうするの?と思ってしまう。この国は何かがあって(しっかり教えてくれないけど)それをどうにかしたいと思っている感じだ。具体的に何をしてほしいのか言ってくれないと、機転の利かない秀鈴に分かる筈がない。
「 わかりません 」
( わからんのかい!! )
真面目な顔で言うから余計に突っ込みたくなるがなんとか抑え込んだ。
「 とりあえず中に入ってみるわ 」
「 お気をつけて 」
嫌だと言っても帰してくれなさそうだし、行く道しかないだろうと腹をくくった。




