山王教国
『敵は知らない内にそばにやってくる・・・』
あの日、去り際に白 朱亞に言われたことを急に思い出した。建国祭前の海鷹王の乱入、そして今回は全く関わりがなかったこの山東教国から拉致された。
( あれは予言だったんだ )
「 どうされました? 聖女様? 」
「 ・・・・ 」
秀鈴はマイクロバス的な大きさの馬車乗せられ移動中だった。ふかふかなソファのような座席にゆったりと座り、同じように目の前にはまだ幼さが残る金髪碧眼のイケメンが座っていて心配そうな顔で秀鈴に話しかけてくる。
秀鈴は答えるのも煩わしく無視しようとしたが、後ろから大きな咳払いがして、仕方なく
「 なんでもございません 陛下 」
いつもの営業スマイルでお答える。
半分ほど魔力で動いているこの乗り物、これはもはや馬車というよりも昔アニメで見た『最高級 〇〇バス』に似ている。そしてこれに乗り込む前に自己紹介してくれたこの高貴な方が、リヒト・グレーステ・シュテルケ・ケーニッヒ・ディアナ・ベルグ・オスデン というお名前らしい。長すぎてどこからどこまでの長さでお呼びすればいいのか分からず、陛下とだけ呼ぶことにした。
「 怒ってる? 」
「 いえ 」
「 ほんとに? 」
「 はい 」
「 ほんとにほんとに? 」
「 ほんとーに大丈夫ですから 」
さっきから何度もこの不毛のやり取りも続いていて、秀鈴は気づかれないように細心の注意を払いながらため息をついた。こんな弱っちくて大丈夫なのか心配になるほど、目の前に座する青年王は頼りなげだ。
「 ゴホゴホッッ 」
後ろで宰相サイラスの咳払いがして、無言の何も言うなという合図が来た。
( 言うんかい言わんのかい どっちなん? もうええわ )
山東教国は秦陽国の北に位置する標高の高い高原にあり、四方を高い山脈に囲まれているため冬季はかなり厳しいが夏季は過ごしやすい国だ。国名にもあるように宗教国家で国民全員が信徒となっている。厳しい環境ゆえか強弱はあるが大体の国民が何かしらの魔力を持って生まれる。だから、他の国と違い魔力を用いた便利グッズが作られ国内で重宝され、馬車においても規格外の速さで人や物を輸送できるというわけだ。
「 ここがあなた様の部屋です 」
陛下が部屋戻られた後、サイラスに連れて来られたのは一応監禁部屋ではなく西洋風の客間だった。拉致された時に泊っていた部屋のように天蓋付きベッドが中央にあり、簡素ではあるが品のある家具や調度品が並んでいる。中世西洋風といったところだ。
「 本当に私の無事を知らせてくれるのでしょうね 」
すぐに扉が閉じられそうな気配がしたため、秀鈴はサイラスの袖を掴んで叫ぶ。
昨日、サイラスが秀鈴に説明した内容は、ここ山東教国の危機を救ってほしいというものだった。もちろん、全力で拒否もしたし抵抗もした。するとサイラスは手荒なことはしたくないといいながら、不思議な力で秀鈴の手足を動かなくした後、
『 大人しくついてきていただけるように操作することもできるのですが 』
などと、精神干渉をいとわないという意味合いの脅しをかけてくる。
今までの学習の成果で、王 照陽 と 太監 のような空恐ろしい圧力を肌で感じたからだ。逆らってはならぬと・・・
「 分かっております。今日はお疲れでしょうから、明日詳しいご説明と一緒に秦陽国へご連絡の式を飛ばしましょう 」
『それでは』と言うとサイラスは部屋の扉を閉じる。それと同時に驚くことに今閉じられたはずの扉が消えてなくなった。
「 ちょ ちょっと、やっぱり監禁じゃない どういうこと! 出せ――― 」




