なぜか誘拐されています
( ここはどこ? 私は・・・どこに? )
建国祭はつつがなく進行し、夜空に輝く大花火をもって華やかで壮大なフィナーレを迎えた。国内外に秦陽国の偉大さや安寧を示すことができたと誰もが思っていた。
祭りの後のなんとか・・・言うか言わないかは分からないが、秀鈴達下々のものには後片付けまでが建国祭だという無言の標語が掲げられていた。凌雪妃を水晶宮に送り届けた後、秀鈴は他の侍女たちと一緒に会場まで戻り・・・のつもりだったのに。
「 おい、もう目を覚ましたぞ 」
気が付くと秀鈴は目隠しされ両手を後ろ手に縛られた状態で、馬車のような揺れる乗り物に乗せられていた。うつ伏せに倒れている状態だったので、全く状況が把握できない。
「 どうする? 」
「 どうするって? 」
「 また気絶させるか? 」
「 暴れるようなら仕方ないよね 」
頭の上で誘拐犯が相談しているようだ。声色からして自分の周りには最低3人の男がいる。振動のある乗り物・・・馬車だとすればもう1人はいるだろう。
( 誘拐? 人さらい? え? えーー? )
パニックになりながらも必死で落ち着かせるように深呼吸する。考えたくなくても、人さらい⇒殺人?
人さらい⇒人身売買? 人さらい⇒レイプ??? 悪い方に悪い方に想像が膨らんでいく。
( でもなんで? 後宮内でそんなこと? それになんで私? )
自分なんか誘拐しなくてもいいんじゃないか?自分なんか誘拐する価値がないのに・・・
秀鈴はグルグルと不毛な自問自答を繰り返していた。
「 あのー 」
「 うわ しゃべった!! 」
思い切って話しかけてみると年若そうな1人が本当に驚いたように、後退したような動きとともに叫ぶ。
「 き・気絶させる? 」
さっきのと違うもっと気の弱そうな声の持ち主がもう1人に聞く。
「 ちょっと、待って待って 」
うつ伏せから身を起こすと、驚いた様子でザザッと後ろず去るような音がする。
「 あんたたち何なの? 私をどこに連れて行くのよ これ、解きなさいよ 」
動揺しているのが分かるから捲し立てるように攻めてみる。弱っちい奴らだと秀鈴は確信したからだ。
「 僕だからやだって言ったんだよ 」
「 仕方ないだろ連れて行かないと 」
「 分かってるよ 」
「 じゃ、も1回 やるよ 」
秀鈴を遠巻きにしていた声の主たちが、今まで聞いたことのないような波長の声音で呪文を唱え始める。直感的に聞いてはいけないと分かって耳をふさぎたくても、手を縛られていてできない。気絶ってこういうことか・・・と思いながら意識を手放した。
秀鈴が次に目が覚めた時、ふかふかのベッドの中だった。
( ああ、私やっと戻ってこれたんだ )
もう何年振りのベッドだろうか。長い長い夢から覚めたら現実の世界に戻ってきたそう思った。
心地よい伸びをして目覚める。秀鈴は起き上がり周りを見回した後絶望した。
「 ここどこ? 」
ここは知らない部屋の中だった。天蓋付きのベッド。中華の世界にやっと慣れてきた秀鈴だったが、今度は西洋の世界に迷い込んだのかと眉を顰める。洋式の高級ホテルに宿泊した? いやいやそんなはずはない。
長坐位のまま思いにふけていると、広いこの部屋の奥の扉が開かれ誰かが入ってくる気配がした。
「 目が覚めましたか? 」
ルネッサンス風の黒のシャツに黒のパンツを合わせた長身の男に話しかけられた。彼は躊躇うことなく秀鈴が長坐位になっているベッドの端に腰かける。茶色の長い髪に金色の瞳。
「 あーー! 」
死ぬ前に戻ったのかそれともまた違う世界に飛んだのかと頭を悩ましていた秀鈴だったが、男のその眼を見た瞬間に現実に引き戻された。
「 あんた、山東の 」
もう指差していることも気づいていない。そんなこと構ってもいられない状態だった。
「 覚えていていただき光栄です、胡 秀鈴様 」
「 な、なんで私の名前をしっているの? 」
「 それは・・・折々と 」
「 折々って は? 」
建国祭で国代表としてあの席にいたとなれば王族もしくはそれに値する立場の人だと思う。でもそんなこと誘拐犯に遠慮する必要ないじゃないか?そう判断した。
「 私は山東教国の宰相 サイラス・エドモンドと申します 」
「 ・・・・ 」
秀鈴は無言でサイラスを睨み付ける。
「 手荒な真似をしてすみませんでした 」
サイラスもサイラスで秀鈴の表情を気にすることなく、
「 あなた様にどうしても我が国にお越しいただきたいのです。私たちにはあなたが必要なのです。そして、あなたにも有益な情報を私たちは提供できるでしょう 」
「 私に有益? 」
「 はい あなた自身知らなかった事実を私たちはお教えできると思っています 」
そう言い切り笑みを浮かべるサイラスに怪訝のまなざしを向けた秀鈴だったが、『知らなかった事実』が引っかかる。この人は自分の何を知っているのか?自分を試しているのか?




