招かれざる者
秦陽国 建国祭は春節の前夜祭後夜祭を含め30日間行われる。
「 世間はお祭りなのに〜 私はここでお仕事か〜い 」
快晴の空の下、真面目に愚痴るとテンションが下がるから、秀鈴はミュージカル風に文句を言いつつ薬草の天日干し作業をしていた。
あの反物を買いにお使いをしたのは5日前。帰って来た後またあの日のように水晶宮に帰してもらえず、今は治薬院にほぼ監禁生活を送っていた。
「 まあまあ。僕たちはお役目がありますから 」
「 相変わらず真面目君だよね、亮は 」
両手を広げてやっと持てるほどの大きな竹ザルの上に薬草を均等に広げて天日に干す作業を一緒にしている 許 亮は、竹を組んで作った薬草天日用の棚に竹ザルを並べる。
「 真面目って・・・そんなこと・・・ 」
亮は照れ笑いしながらいい、
「 宋先生に教えを請いながら日々鍛錬していくのはとても誇らしいと思わないかい? 」
治薬院の一員として当たり前のことをしているのだと話を続ける亮に、
「 ・・・ま・まあ・・・そうかしら・・ねえ 」
秀鈴は生返事をする。彼とは2年以上の付き合いになるけど、この生真面目さにはいつも感心するが真似は絶対できないと思っている。
そんな秀鈴に亮は分かってくれたのだと勝手に理解して笑顔になる。笑うと細い目が益々細くなって線のようになる。顔の各パーツもほとんど主張せず遠慮がちな亮は、誰が何といっても脇役・・・秀鈴と同様にバイプレーヤーの筆頭に違いない。
( 所詮私もバイプレーヤーだし )
こんな感じで、その他の登場人物AやBみたいなのと付き合って、結婚して子供産んで年を取って死ぬのかもしれないと亮の顔を見ていると思ってしまう。
「 ? 」
亮と目が合い、何?って顔をされるが秀鈴は苦笑いしつつ何でもないと首を振った。
「 ここに、胡 秀鈴はいるか? 」
あれから亮と一緒に半刻ほど同じ作業をしていると、急に門前が騒がしくなったと思ったら天から雷鳴が落ちたほどの声量が治薬院の園庭に響き渡った。
治薬院の門扉は誰でも入れるわけではない。国家が運営している直属機関、いわゆる王立病院と同じような権威があり秀鈴が入れるのは異例の異例だ。
もちろん警備も強化されている。
それをいとも簡単に搔い潜って乱入してきたのは、天にも届くような上背がある大きな体躯の男が彼と同様の体型で背の高さがマチマチな3人の男だ。
先頭を歩き来る男は黒い短髪に髭を蓄え浅黒い顔は南国からと分かる濃く、スカイブルーの大きな眼で狙った獲物を捕らえようとしているようだった。
「 秀鈴さん 」
亮に小声で呼ばれて手を引かれ身を隠すように促してくれなかったら、馬鹿みたいに呆然とそのまま天日棚の前で立ち尽くしていただろう。
秀鈴は地面に這いつくばって彼らに見つからないように身を潜める。
「 胡 秀鈴!! 」
空気が揺れるほどの声量。声の大きな光偉よりも低く、力強いバリトンボイスだ。名前を連呼されればされるほど出ていきにくいし、出てはだめだと本能的に思えるような恐ろしい声量だ。身を低くし薬草棚があるため、彼の顔ははっきり見えないが胸あたりから下が盗み見える。東南アジア系の正装に似ている、確かシャルワニという胸元に金の刺繍や美しい装飾が施された黒地丈の長いコートを着ていた。秦陽国では見ない服装、肌色や顔つきを見ても他国の人間だとわかる。
その男がなぜ秀鈴を呼ぶのか?同じようにしゃがみ込んでいる亮と目が合って聞いてくるが、全く分からないと首を振って返事をした。
「 おい ここにいることは分かっているぞ 」
いい加減に出て来いと、ヤクザの借金取りが家に踏み込んできたみたいなセリフを吐く。
( やめてよ~ あれ何者? なんで私を呼ぶ? )
天日棚は高さがあって隠れることはできるが、足元はスカスカで空間がある。彼らがもう少し近づきて来たらここにしゃがみ込んでいても丸見えになってしまう。ここから治薬院の建物の入り口までは近いは近いが、棚が目の前まであるわけじゃないから移動すれば丸見えになってしまう。留まってもダメ。逃げてもダメ。どうしたらいいのか分からずパニック状態だ。
「 これはこれは、どのようなご用向きでこちらにおいで頂いたのでしょうか? 」
こんだけ騒げば出てくるだろうと思っていたが、この状況にまったく慌てることなくいつもの冷静で冷ややかな宋先生の声音が聞こえた。顔はこちらに向けてないのに秀鈴がどこにどのようにしているか分かっているのが感じ取れる。テレパシーはないがいつものオーラのような雰囲気で、動かず静かにしていろと命令されている気がした。
「 おお。宋天祐か? 久しいな 」
スピーカーでも付けているかのようなボリュームMAXな太い声がトーンを上げて親しげに言う。
「 はい。ご無沙汰しております。劉王様 」
「 あははは。相変わらず堅苦しいなあ 昔のように來儀と呼んでくれ 」
「 お戯れを・・・海鷹王。昔とは立場が違います 」
( 海鷹王?!)
秀鈴は身を低くして見つからないように気を付けているのにうっかり飛び上がりそうになった。服装からして普通の人とは違うと感じてはいたが、
王と名前が付くのは国王だけ・・・ということは・・・
頭の中でグルグル思考を巡らせている間にも、目の前で砕けた様子で2人が話をしている。
「 お前と俺の仲だろ? 」
「 仲と言われましても・・・。ところで、王である貴方様がこのようなところへ、それもそのように軽装備でお見えになるのは如何かと 」
宋先生は海鷹王と対峙してもいつもとほとんど変わらない。肝が据わっていると秀鈴は関心しきりだ。
「 そうか? 」
海鷹王はとぼけた顔をして耳を掻く。
「 軽装備とはなんじゃ!! 」
「 俺ら3人がおりゃ十分じゃ 」
「 おい! 2人ともやめんか 」
海鷹王の後ろに仕えていた3人のうち背の高い若い2人が、宋先生の言葉に対して前のめりになって大声で捲し立てるのを一番背の低い年配の男が頭を殴りつけて止めている。
「 お越しになられるのであればお知らせ下さればおもてなしいたしますが、今日は生憎ご用意出来でいませんので日を改めて 」
「 いらん 」
宋先生がやんわりと海鷹王を帰らそうと促すが、すぐさまそれを海鷹王が断る。
「 はあ~ 相変わらずですね。貴方様は 」
そう言われてしまえばいくら宋先生でも隣国の王の来訪を無下にはできない。
「 お互い様だろ 」
「 ・・・ 」
宋先生は一つため息を吐いた後、
「 どうぞ。手狭ですが何卒お許しください 」
王に対する礼を取り治薬院室内に案内するが、
「 俺は、胡 秀鈴に会いに来ただけだ。どこにいる? 」
海鷹王は右手を上げそれを制する。それから周囲が凍り付くような沈黙の時間が続き、見なくても彼ら2人の間に見えない火花かイナズマかそういったものが走るのが雰囲気で分かった。
「 なぜ あのものを? 」
「 会ったら直接本人に言う。 かまうな 」
互いに一歩も引かない。普通の人には分からないかもしれないが、巫覡と関わったあの日から秀鈴には超能力みたいな力に敏感になっていた。見えるというよりも肌で感じるといった方が近い。
今、姿がはっきり見えない筈の海鷹王と宋先生の2人からのものすごいエネルギーに触れて、秀鈴は頭痛と悪寒・嘔気の症状に襲われていた。
( やばい これは )
白 朱亞と関わったときの再来だと思った。それほどのパワーがこの海鷹王にもあるのかもしれない。何も感じていない亮ですら顔色が悪くなっている。
それでも彼は秀鈴が見つからないように少しでも壁になればと、しゃがみ込む彼女の前にいて庇うように身を挺してくれていた。そして、しきりに首を振って出ていくなと言っている。
( でもでも、これじゃ )
ついさっきまで無風の快晴だったのに、今は地を這うような上昇気流みたいな風が吹いている。治薬院がこの変なエネルギーの衝突で吹っ飛ぶかもしれない。昔見た漫画映画の中にそんなのがあった気がする。そんな恐怖が秀鈴の頭をよぎり・・・
「 あ、あの~。私はここにいます 」
海鷹王と宋先生が対峙する緊迫した空気の中で、秀鈴が手を上げながらそろそろとその場で立ち上がって言うのだった。
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