お戯れは遠慮いたします
また、続きを書きたくなってきたので書き始めてみました。
前回の続きですが、前回と繋がっているような繋がっていないような感じです。
辻褄が合わないことがあるかもしれませんが・・・すみません
恋物語が描きたいと思っていますが・・・どうなるか・・・
秦陽国、首都 唐安は王が住まう『日出城郭』朝陽城を中心に放射線状に城郭都市が作られていた。何層もの城壁で構成された都市でその都市全体が、一種の城壁となり外敵からの攻撃や侵攻を防ぐ役割を果たしている。
「 ああ~、今日もいい天気だ 」
綺麗な青銅色の瓦が乗る壁の上に除く空は澄んだ春の晴天だ。この国も日本のように四季があり、気候は年間を通して少し低く冬は寒さが堪えるけれど夏は程よい暑さだった。胡 秀鈴は、いつも雪が少ない東北みたいな気候じゃないかなと感じていた。といっても、秀鈴は元東北出身でもないからそうじゃないかと自分勝手に考えているだけだ。
元の世界では26歳だった筈の秀鈴は、この異世界に紛れ込んだ時には20歳と中途半端な若返りをして現在は22歳になっていた。最初の1年は怒涛な出来事の連続であっという間に過ぎていったが、その後の1年は生活も安定し何の事件も起こらずに済んだからゆっくりと四季を楽しむゆとりがあった。雪は降らないのに激寒の冬を乗り越えて…
「 は・はぁ~っくしょん 」
若い娘とは思えないほど豪快なくしゃみが出る。
「 花粉症はなくならんのか~ 」
異世界に来たんだから現実逃避したかったのだけど、身体は変わっているのに体質はそのままなのかい~
心の中で自分で自分にツッコミを入れといて空しくなる秀鈴だった。
丘陵地にある朝陽城。その裾野に広がっているのが人々の活気で満ち溢れる城下町の彩都には、手に入れられないものはないというほど栄えている。
北の山東教国からは、鉱物資源や酪農・穀物資源(牛乳・チーズ・小麦・トウモロコシなど)。南の海鷹国からは、魚介類・真珠などの装飾品・果物いろいろ。
東西の少数遊牧民の自治区からは肉類・羊毛・綿花・絹・皮製品。そして自国での農業・鉄鋼業・武器・装飾品産業・飲食業。
いろいろなもの物資や食料、人や産業が集まるこの世界で一番の都会、日本なら東京みたいだと秀鈴は思っている。
「 それにしてもさぁ 」
晴天の空の下で多少気が紛れてしまってはいるが、治薬院から出たときには秀鈴はプリプリ怒っていた。
今日は治薬院での労働日。初めの約束では週に1回だった筈なのに、気が付けば週2回になり今では週3回も副業させられている。
それもこれも人使いの荒い、冷静鉄仮面の宋先生のせいに違いない。今日も生薬を温めながらウトウトしていたらいつに間にか背後に立っていて、
『 あなたに適任な仕事を与えましょうか? 』
ニコリともしなければ怒ることもしない。表情を全く変えずに冷徹に、お使いに行ってくるように言いつけられた。
『 私が? 』
『 あなたの他に暇な人はこの治薬院には一人もいないと思いますが? 』
有無も言わせない彼の命令に逆らえるはずはなく、秀鈴は包帯用に頼んでいるという晒を買い付けに城下にお使いに行かされることになった。
秀鈴の背の高さ以上の壁が両サイドに続く街路を抜け歩で行くと、大きな市場へたどり着いた。治安の関係上朝陽城に近づけば警備も強化され、人の往来も制限が係る。今まで通り抜けてきた壁に囲まれた街路は所々に検問所があるし、身分証を携帯していなければここを歩くこともできない。
「 秀鈴さん 今日もお使いですか? 」
最後の検問所を通る際に、若い憲兵に声を掛けられる。高身長のがっしりとした体躯、でもその顔はまだ幼さが残るちぐはぐな青年だった。
「 はい。宋先生の用事で反物屋へ行きます 」
秀鈴は手慣れたように懐から木製の通行手形を出して彼に提示する。外面だけは100点だと自負している口を薄く開き口角を少し上げて笑みを作り彼の問いかけに答えると、名前も知らない若い憲兵は顔を赤くしてポーとしているが分かる。
「 お勤め ご苦労様です 」
検問所を抜ける時に顔に100点笑みを貼り付けたまま軽く頭を下げて会釈して見せれば、
「 お・お気をつけて 」
すっかり秀鈴に落ちたに違いない。秀鈴はお仕えしている、秦陽国 第8代国王 王照陽の10番目の妃 鄭 凌雪の侍女で、鄭妃ほどの美貌はないものの最近の治薬院での美容薬の開発のおかげで肌は白くツヤツヤになり、猫毛でまとまりの悪かった髪も茶髪艶々ウェーブになっている。
秀鈴は、コンプレックスの裏返しで頑張ったなと自分自身を褒めてやりたいとしみじみ思った。
「 お前は、また誑し込んでいるのか? 」
検問所から数十メートルも歩いていないうちに、背後から聞きなれた・・・そして、あんまり聞きたくない声が掛かった。
その張りのあるやや高めテノール気味な力のある声音を持つのは、どう考えても 杜 光偉の他にいないとわかっているけど、故意に秀鈴は無視して歩く。
「 おいおい、聞こえないふりかよ 」
腕を掴まれ振り向かされればもう無視はできない。
「 大将 杜様に、ご挨拶申し上げます 」
先ほどのウソ笑顔を貼り付けたままに、先ほどよりも腰を折り深々と頭を下げる。下級のものは身分の高い人に対して礼を尽くす必要があり、無礼と判断されたら命の危険もある。この世界は元の世界とは全く異質な常識がまかり通っていて、人類みな平等なんてものは夢のまた夢の世界だ。
「 何を今さら 」
頭を上げることなく目を伏せたままでいる秀鈴に向かって、光偉は呆れたようにため息を一つ付いて片手を伸ばしてきたと思ったら彼女の鼻を摘まむ。
「 やっ! 」
頬でもなく鼻を掴まれた秀鈴は驚いて顔を上げてしまい、ニヤニヤ笑う光偉とばっちり目が合ってしまった。
「 やっとこっち向いた 」
光偉は鼻から手をのけてはくれたが、その手を頬に移してなぜか指先で撫で続ける。それも楽しそうに摘まんだり撫でたりと指先で頬を弄んでいるみたいに動く。
「 ちょっと!何するんですか 」
「 何って? 交流? 戯れ? 触れ合い? ん~語らいかな 」
彼の右手はまだ秀鈴の頬を摘まんだり突いたりを続け、反対の手は自分の顎に手を当てて考えて答えを出しているアピールをしてくる。
これでもこの人は、この国の大将軍の息子で皇太子のお目付け役である太子少傅だ。ここで逆らえば不敬とみなされどんな罰が下るか分からない。
これが普通ならば・・・だ。
「 何が触れ合いですか やめてください! 」
秀鈴が頬に触れている彼の手を掴み、強い口調で彼に逆らい振り払おうとするが、
「 今日はどこにお使いに行くんだ? 」
反対にその秀鈴の手を光偉の手が握りしめた。
( 何するのこの人 )
この世界。この時代。この世襲で独身女の手をこんな公衆の面前で握りしめる? 変な噂が経ったらどうするんだ? 嫁に行けなくなるじゃないか(まあ、嫁に行く気はないけど)
秀鈴は目の前で握りしめられた自分の手と、そんなことまったく気にしてないように小首を傾げている光偉の顔を交互に見つめながら、顔面に感情駄々洩れ。目は口程に物を言う状態になっていた。
「 薬草問屋に行くのか? それとも酒屋か? 」
どんな顔して見つめられていても光偉は一向に構わずに一方的に会話して一方的に解釈して、秀鈴の手を引いて市場界隈を引きずられるように歩き始める。
「 ちょ、ちょっと待って。今日はそっち方面には行かないんで 」
薬剤調合に使う薬草などの植物・動物素材・貝殻類・鉱物などや蒸留水・精製アルコール等の中和調整素材が各地区の産地から取り寄せられ、この街の市場では売られていた。大体の素材はまとめて各店舗から直接治薬院に届くようになっているが、時々足りないものがあり買い付けに
行くように言われることがあるのだ。
今日はいつもと違って反物屋に行くから手を引かれている方面とは正反対に行かないといけない。体を張って止まろうと抵抗しても武人である光偉に力で敵うわけがない。しばらく引きずられた後、反物屋に行くと説明してやっと手を放してもらえた。
「 そうなら早く言えよ 仕方がねえな 」
「 仕方ないって・・・もうええわ 」
今はなぜか秀鈴の横について歩く光偉に、漫才みたいにツッコミ入れてしまう。
光偉は身分が高い筈なのに、侍女である平民の秀鈴に普通・・・普通以上の気安さで接してくる。
( やっぱり、出会いがまずかったからかな? )
最初の出会いで偶然とはいえ彼を助けてしまった。それで、恩を感じて気に掛けるようになり、そのあとも何かと関りがあって・・・考えれば考えるほど腐れ縁だ。
「 反物屋って何しに行くんだ? 」
「 あ、晒を買うんです 」
「 晒? 」
「 はい。包帯にするので 」
「 へえ~ 」
秀鈴も光偉に会う前は身分や人の目を気にして彼に対するのを極力避けているが、会ってしまえば気安さが勝って友達のような感じになってしまう。
こちらの世界で考えれば光偉の方が8歳ほど年上だが、実年齢でいえば同級生。男女ほぼ平等だった元の世界であれば、こうして肩を並べて街を闊歩することはごく普通なことだ。光偉が笑みを絶やさず楽しそうに冗談を交えて会話をするから、ついつい秀鈴も笑みがこぼれる。
この時代の女性では考えられないらしいが、話をしているといつものように吹き出して声を上げて笑ってしまうこともある。
「 ? 街に不思議な人がいっぱい・・・ですね 」
街に入ってからいつもと感じが違うことに気が付いたが行けば行くほど、見かけない商人や旅行者、その他もろもろの人々で賑わっている。
服装や肌の色・顔立ちの人が往来していて、中華もの異世界というよりも北欧~中東の物語の中に入り込んだような錯覚に陥りそうだ。
「 お前は後宮に閉じこもっていて世間知らずなんだよ。今年は10年に1度の建国祭があるだろ 」
「 あ、そうか 建国祭・・・青龍伝説の? 」
「 10年前もあったが、今回は100年祭の記念の年だ。いつも以上の賑わいがあってもおかしくないだろ? 」
「 まあ・・・たしかに・・・」
10年前と言われて22歳になっている秀鈴ならば12歳のころにも同じような記念祭があったのだから知らないはずないだろ?というニュアンスがありありに伝わってくるけど、10年前は今の自分はここに存在していないから知る由もない。適当に言葉を濁してスルーする。
秀鈴は見たこともない人たちに目を奪われている間に、街の中心地より少し南に外れたところにある反物を扱う問屋街に着いた。街から外れることで人の通りも少なくなり治安も悪くなるのが、ここに来る時秀鈴にとって難点になってくる。
でも今日は天下の将軍様が隣を歩いてくれている。そう思うと怖いものなんかないし、守備力MAXで何でもできそうに思えてくる。
「 やめて!! 」
ざわめく街の喧騒を突き破るほどの女の悲鳴が手前の路地から響き渡った。




