巫覡のもの
神霊や精霊を祭祀する職階にはさまざまあるが、彼らはいずれも神の託宣を伝える霊媒者だ。
その中には鄭 凌雪の鄭家のような 祭祀→道教 国の政を占うものや、宋家のように
治病→巫医→道教医 神懸かりな能力を使い医術を行うものがある。
そして、もう一つが・・・
呪術→方術 と言われるものだ。主に祈祷や予言・占い と 錬丹術を執り行うもののことを言う。といってもこれらは、人の願い事を叶えるための民間的な呪術師が多く力も弱い。そして、ほぼまがい物ばかりという現状だった。
『巫覡』というものは死語のように世間では聞かなくなったワードだったが、人々の心の中のどこかに恐怖を植え付けている。存在が見えない分からないものを恐れるのはどの世も変わりはない。
秀鈴が売り言葉に買い言葉で治薬院を飛び出し、こんなことになってしまったのは『巫覡』の能力が本物なのだと証明していた。
今、秀鈴は薄暗い洞窟の中でも薄汚い寺院や宮殿の中でもなく、貧乏でもなく裕福でもない民家の一室にいた。
「 ここはどこ? 」
「 どこと言われても、家?だけど 」
床にへたり込んでいるけど捕まって身体拘束され紐で縛られているわけではない。立ち上がろうとすればできるし、しようと思えばここから走って逃げたりもできる。
「 ねえ、あんた。ここに座ればいいのに 」
秀鈴に話しかける人は椅子に腰かけ、ゆとりで長い脚を組んで床に転がっている彼女を見下ろす。
( 座れるもんなら座っているよ )
心で毒付きながらその人を睨む。
「 おお怖 」
それを見てその人は肩をすくめる。
「 あなたは誰? 」
「 わたし? わたしは 白 朱亞 あんたは? 」
天然のウェーブがついた黒く長い髪を結い上げることもなく腰を超える長さまで垂らし、黒く長い着物を幾重にも重ねて着ている。あの手のり小人そのものが実物大になってここに存在していた。
あのときのような禍々しさはないけど、異質な存在であるのは間違いない。そんな人と挨拶して自己紹介するという変な状況になっている。
「 名前を聞いてどうするの? 」
「 名前を聞かなきゃ、あんたのこと『あんた』って言い続けなきゃいけないでしょ 」
白はそんな屁理屈を真顔で言う。秀鈴がここでへたりこんでいるのもこの白のせいだ。
治薬院を飛び出した秀鈴は無謀で考えなしで回廊を走りに走って初めて異変を体験したくちなしの木の所にたどり着いた。でも、今はもう開花時期を終えていて前のような状況を作れずに落胆していた。
そしたら、あの右手の平の痣がうずき始めて身動きが取れなくなり気が付けばこの部屋に転がっていたという経過を辿る。
この白が何かの能力を使いここに秀鈴を運んできた。超能力?瞬間移動?みたいなことだろうかと無理やり自分を納得させていた。この世界は今まで経験したことのない不思議なことが起こり過ぎだから、もう何が起こってもそうは驚かなくなってきた。
「 私は 胡 秀鈴。あなたの目的は何?なんで私を狙うの? 」
秀鈴はもう物語の主人公が言うようなセリフを恥ずかしげもなく言っていた。それを聞いた白は手を口に当てて可笑しそうに声を上げて笑い始めた。
「 何が可笑しいのよ 」
真剣に怒って秀鈴が声を荒げる。
それに、白は笑い過ぎで出た涙を手で拭く。長い前髪の隙間から見えたのは二重まぶたでくっきりと大きく吊り上がった目力のある瞳だった。能力がある人はみんなそうなのか、白の瞳は紫水晶のような輝きを浮かべている。
「 ごめんごめん 秀鈴がさ、あんまり真面目だから 」
答えにならない返事をした白はもう前髪で目が隠れてしまっているから笑みを浮かべる口元だけが見えている。
秀鈴も冷静に考え始めれば何の特技や能力もない自分を捕らえたところでこの白が利益になることなど一つもない気がしてまた混乱してくる。
「 まあ、秀鈴に用事があるといえば、用事があるのかもしれないし・・・そうでもないのかもしれないし・・・どう思う? 」
( この人 天然? 巫覡の人って変人なの? 言っている意味がわかんない )
訝しむのか呆れるのかそんな視線で見ている秀鈴のことを嬉しそうに白は見ているのだった。




