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転生した私はバイプレイヤーで満足です  作者: 乙 麻実
バイプレーヤーは目立ってはいけないと思います
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こんなことじゃ解決しませんから正面突破してきます

月の出る夜はそれだけでほんのり明るく柔らかく感じるが、今宵のような新月は全てが闇に包まれるように肌寒く感じる。


作業場の隣、物置きとして長年利用されていた部屋は灯り取りもなく、日中も薄暗く夜はより真っ暗だ。


「 んん〜〜 助けて〜 」


毎夜のようにうなされ眠る秀鈴が寝台に横たわっている。目覚めてしまえるのならもっと楽だろうが、毎夜夢に取り憑かれ夜が明けるまでその夢に捕われ続けている。


治薬院では、すべての助手が自宅から通っている。国に戦争が起きたり疫病が流行ったりすれば、泊まり込みで治薬品を製造する。そのためここには多くの泊まれるスペースは確保されている。


ただ普段この治薬院に住まわれているのは、代々この治薬院を受け継いできた宋家の者で、唯一当主のみが使用人も付けずにここに寝泊りしている。



ひと気のない廊下を手燭しゅしょくを片手に現れたのは宋先生だ。

毎夜、丑の刻( 深夜2時)を過ぎる頃に秀鈴の傍にやってくるようになっていた。


「 来ないで・・・ 」


秀鈴がここに寝泊りするようになってからすぐに、異質な気配をこの治薬院の中で感じるようになった。

能力者である宋家の結界を以ても、夜の闇に包まれてしまえばその気配の方が勝ち秀鈴に影響を与えていた。


宋先生はいつものように、秀鈴が横たわる寝台の端に腰掛けると手燭を寝台横の台に乗せて蝋燭の灯りに照らされる秀鈴の顔を見下ろす。


額に薄っすらと汗を浮かべて苦痛に眉根を寄せる彼女を見つめた後、手で汗を拭いながら額に頬、顎に触れていく。


治療する時のような力や呪文みたいなものを唱えることはない。ただ優しく彼女の顔に触れるだけだ。それだけで、秀鈴の苦しそうな表情がみるみる穏やかになっていった。


そのうちに秀鈴は静かな寝息を立て始め眠り落ちていったが、宋先生は一刻ほど秀鈴の傍に付き添い続けた。


「 ・・・目には目を・・・歯には歯・・・なんだから・・・」


寝ながらも怒ったような顔をしたり急にニヤケて笑ったりと表情をクルクル変える彼女の寝顔を見て、宋先生はクスリと笑む。もう一度優しく額に触れ乱れた髪を白く細い指で整え、指先を頬から唇へと移していく。そして、秀鈴が目を覚まさない内にその場を離れた。




「 宋先生、 行かせてください 」


切羽詰まった顔で早朝から秀鈴が駆け寄ってきた。やつれ気味で目の下にクマまで作った彼女をチラリと横目で見た後、表情すら変えずにそれまで続けていた書き物を続ける。


「 ここで守っていただいているのは分かっています。分かっているけど、これじゃ埒が明かないと思うんです」


詰め寄る秀鈴に対して、彼は完全無視で何の反応も示さない。


「 こんなことじゃ解決しやしない 」


もう、秀鈴の独り言になっている。

宋先生は治薬院の作業場ではなく奥まった書斎で書物を読んだり、処方箋を記載したり書籍を書いたりする。その書斎の中で腕を組み、宋先生が座して書き物をしている机の前を左右にウロウロと歩き彼女は自分の考えを独り言ちる。


「 もう、正面突破だよ。なるようになれってことよ 」


あの『式神』を乗せた右手の平には赤黒い痣のようなものがまだ残っていて、痛くも痒くもないのにその痣が段々広がってきている。その痣を憎々しく見つめて封じ込めるように手を強く握りしめる。


「 安直な・・・」


聞いてないような顔をしつつ、宋先生は秀鈴を見ることなくつぶやくように言う。


「 止めても無駄ですから 」


秀鈴がそう叫ぶと


「 止めはしない 」


抑揚なく肩透かしな返事がある。


「 どこに?どうやって行く? 」


書き物の手を止めた宋先生は秀鈴の顔を正面から見据えて冷静に言った。

そんなふうに論ずるに値しない正論を言われてしまうと言い返すこともできない。


「 も・もういいです お世話になりました さよなら 」


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